上 下
86 / 96

85『桔梗のプランB』

しおりを挟む
くノ一その一今のうち

85『桔梗のプランB』桔梗 

 

 
 中忍は戦略的な判断はしない。

 
 戦略とは、攻めるか攻めないかという大局的な判断。これは上忍の仕事、いや責任。

 中忍は、その決定に従って具体的な戦術を決める。

 日本最大の忍者組織である徳川物産においては、この中忍の仕事は服部半三と、総務二課秘書のわたし(桔梗)と樟葉が当たっている。

 いつ、どのように、どんな規模で攻めるかを決めて下忍に命じ、時に、その先に立って戦いの指揮を執る。これが戦術。

 下忍は集団として、時には個人として登録されていて、任務に応じて指名され戦闘や諜報の任にあたる。本社直属の下忍集団も今年から発足した。

 百地芸能事務所。

 この春まで、百地は独立した忍者集団だったが、社長同士の話し合いで、神田の事務所を引き払って、丸の内の本社ビルに移転してきた。

 その下忍たちの中で、密かに社長が好んでいるのが風魔その。

 身分は下忍集団である百地事務所のアルバイト。すでに世襲名の『そのいち』を戴いているが、良くも悪くも女子高生気質が抜け切れておらず、俗名の『その』や『ソノッチ』あるいは『ノッチ』で呼んでも機嫌よく返事する。

 忍者の棟梁は世襲名にこだわる。うちの服部半三、百地三太夫、敵の猿飛佐助など。

 あ、うちの服部半三は別に三村紘一を名乗っているが、あくまでも任務上の偽名の一つ。

 天然なのか、企みあってのことなのか、社長も半三もそのの呼び名にはこだわりがないようなので、わたしも時と場合と気分次第でファジーに接している。

 そのは下忍だから、判断していいのは戦闘術の範疇にあることだけだ。

 盗めと命ぜられたら、殺せと命ぜられたら、どうやって盗むか殺すかの判断だけだ。

 

 半三とわたしで決めたのは、A国B国の行動を遅らせることだ。

 

 草原の国がA・B両国を抱き込んで、あるいは恐喝して高原の国を滅ぼそうとしている。

 高原の国が落とされれば、草原の国の力は中央アジア全域に広がり、ロシアや中国に並ぶ勢力になる。

 草原の国の背後には木下豊臣家がいる。

 木下豊臣は、その力の根源を海外に求め、その勢力を持って鈴木豊臣家を滅ぼし、さらには日本を支配しようと目論んでいる。

 

 当面の障害、それは高原の国のアデリヤ王女。

 

 まだ17歳だが、国を想う心は国王のそれを超えている。

 頭脳も明晰で、いささか未熟で跳ねっかえりではあるが、その行動力と統率力には目を見張るものがある。

 敵ならば、殺すか排除すれば済む。

 しかし、将来においては高原の国の優れた指導者になる逸材だ。

 彼女の祖母は日本人で、その血の1/4は日本の血だ。

 アデリヤ王女の保護と教育、うがった見方をすれば、それが本作戦のキモと言っても差し支えない。

 おっと、これは、中忍の分際を超える。

 

 トントン

 

 合図のノックを天井裏で聞いて、わたしは筋向いの部屋から廊下に出る。

「もう、ビックリするなあ!」

「部屋に入って」

「うん」

 ミッヒを部屋に入れて、わたしは隣の部屋に入る。そして、二人とも床下に潜り込んで、出会うのは二つ隣の、そのまた裏の空き倉庫。

 旧ソ連時代の地下道の図面が役に立った。

 

「ドローンを二つ飛ばして注意をひいておいた。五分もすれば墜とされるだろうけど、これでみんなの注意は空に向く」

「その間に、ミサイルを破壊するのね」

「ああ、草原の国の細胞が予想以上に入っている。時を稼ぐのにはこれしかない。これは中忍の判断でいいんだよな」

「ええ、予定通りでは無いけど、プランB、わたしの権限の内よ。草原の国の浸透は予想より進んでいる、荒事で阻止するしか手は無い」

「10分で爆発する、そろそろ行こう」

「仕掛けは?」

「日差しが傾いてブツに影が伸びたら爆発する」

「そう、じゃあ、ここからは別々にね」

「了解」

 言い終った時には、もうミッヒの姿は無かった。

 ここからは別々に脱出する。

 では、なぜ、わざわざ待ち合わせたか。

 直に顔を見て、事の成否を見極めるため。

 わたしの特技は、人の目とオーラを見て、人物と事の成否を見極めること。

 ミッヒは、急な変更にもかかわらず、きちんと任務を果たしたようだ。

 

 ドオオオオオオン!

 

 変装してゲートを抜けたところで大爆発。

 ゲートの兵士たちは、警備どころではなくなり、銃を構えてゲートを閉鎖。

 振り返ると――早く行ってしまえ――とジェスチャーしている。

 

 やれやれ、次善の策でなんとか任務終了。

 

 彼方を一台のジープが疾走していく。

 三人乗っている、二人は女性兵士…………まさか?

 

☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
アデリヤ         高原の国第一王女
サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...