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82『B国王城接見の間』
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くノ一その一今のうち
82『B国王城接見の間』そのいち
「サマラ(アデリヤの母)は元気にしておるか?」
アデリヤ姫に言葉を向ける国王は、サマラ王妃の兄というよりは父親、いや祖父かと見間違えるほどに老けている。
サマル王子が父親似だということが初対面でも知れるのだけど、刻まれた皴や目の縁のクマ、丸くなった背中に国王として置かれた立場が容易なものではないことを物語っている。ここのところの草原の国からの圧力、軍事的緊張で心身ともに擦り減っているんだろう、王立牧場の難民キャンプでボーイスカウトみたいに生き生きしているサマル王子とは対照的すぎる。
「はい、大臣たちが父をよく輔弼し、国連や友好国からの援助も受け、緊張感はありますが、いたって前向きに過ごしております。母も、そんな父に安心して明るく過ごしております」
「そうか、それはよかった。王族第一の役目は臣民たちを安心させることだからな、なによりのことだ」
「父上は気に病み過ぎです、我がB国にも優秀な軍人や役人が山ほど居ります。みな、父上を輔弼し、我が国の進路過たぬように努力しております」
「え、あ、そうであったな……しかし、サマル、そなたも皇太子なのだから、少しは城に居て大臣たちの話に加わらぬか」
「我が国は、三権も軍事も国王が最終最高の権能を持ちます。むろん、大臣たちの輔弼を受けてのことでありますが、国事の最高意思決定を国王隣席の御前会議で行うのは、その基本を外さぬためであります。その席に皇太子たる自分までが同席するのは大臣たちへの圧が強すぎましょう。闊達に意見を交わし、過たぬ決定をするには要らぬ圧力になりかねないことは控えるべきかと。いま、国民と世界の目は難民への対応に向いております。これを抜かりなく処理するのが、陸軍少佐でもある、このサマルの役目かと存じます」
「む、そうではあるが……このままでは、A国と肩を並べてアデリヤの国に攻め入ることになりかねないぞ」
「陛下は国家の良心であります、常に臣民と地域の安定発展に向けた決断をされるものと信じております」
「弁えておるのう」
「はい、国家の意思決定にあっては皇太子と言えど、一臣民にすぎません」
「やれやれ、百年前の革命のおりにサマル一世が残した言葉であったな……そう言えば、アデリヤ、その衣装は映画の撮影のためか?」
「これは……」
「そうなのですよ、父上。B国は、いよいよ『バトル オブ ハイランド』の製作に入るのです。世の中が平和な証拠です」
キャンプから直接王城までやってきたので、わたしもアデリヤ姫も変装のままだ。
「『バトル オブ ハイランド』は三国がまだ一つであった頃の物語、あの時代もいろいろ争いはありましたが一つにまとまりました。この難局もA国とB国、それに高原の国も加わり、多少の困難があってもまとまるに違いありません」
「そうか……そうであれば良いがのう……で、アデリヤ、それは何の役の衣装なのだ?」
「はい、難民の衣装です。ひょっとしたら、映画だけではなく、アデリヤの普段着になるかもしれませんが」
コンコン
接見の間のドアがノックされ、侍従が御前会議の時間が迫っていることを告げに来た。
「すまん、日本のお方には挨拶もできなかったな。落ち着いたら、またゆっくりと話しができたらと思う」
「恐れ入ります、陛下」
「それではな……」
侍従に先導され、国王は会議の間に向かわれた。
「では、僕はキャンプに戻るよ、君たちはどうする?」
「今夜はお城に居る。もう少し伯父上とお話しできたらと思うし」
「そうか、では近衛には話を通しておく。万一のことがあっても、二人を敵認定しないように。明日の朝には迎えを寄こす、最終的な身の振り方はキャンプで決めるといいだっちゃ」
バシっと敬礼を決めると軽い足取りで接見の間を出て行った。
侍女に案内されて客間に通される途中、中庭の木の間隠れに軍服姿が見えた。
急いで身を隠さなければ、ここいら旧ソ連の国々は似たような軍服、草原の国の将校とは気が付かなかっただろう。
事態は、姫やわたしの想像を超えて進み始めているようだ。
ガタガタ ガタガタ
通された客間、窓の建付けが悪いと思ったら、窓枠にえいちゃんが挟まってもがいていた(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
アデリヤ 高原の国第一王女
サマル B国皇太子 アデリヤの従兄
82『B国王城接見の間』そのいち
「サマラ(アデリヤの母)は元気にしておるか?」
アデリヤ姫に言葉を向ける国王は、サマラ王妃の兄というよりは父親、いや祖父かと見間違えるほどに老けている。
サマル王子が父親似だということが初対面でも知れるのだけど、刻まれた皴や目の縁のクマ、丸くなった背中に国王として置かれた立場が容易なものではないことを物語っている。ここのところの草原の国からの圧力、軍事的緊張で心身ともに擦り減っているんだろう、王立牧場の難民キャンプでボーイスカウトみたいに生き生きしているサマル王子とは対照的すぎる。
「はい、大臣たちが父をよく輔弼し、国連や友好国からの援助も受け、緊張感はありますが、いたって前向きに過ごしております。母も、そんな父に安心して明るく過ごしております」
「そうか、それはよかった。王族第一の役目は臣民たちを安心させることだからな、なによりのことだ」
「父上は気に病み過ぎです、我がB国にも優秀な軍人や役人が山ほど居ります。みな、父上を輔弼し、我が国の進路過たぬように努力しております」
「え、あ、そうであったな……しかし、サマル、そなたも皇太子なのだから、少しは城に居て大臣たちの話に加わらぬか」
「我が国は、三権も軍事も国王が最終最高の権能を持ちます。むろん、大臣たちの輔弼を受けてのことでありますが、国事の最高意思決定を国王隣席の御前会議で行うのは、その基本を外さぬためであります。その席に皇太子たる自分までが同席するのは大臣たちへの圧が強すぎましょう。闊達に意見を交わし、過たぬ決定をするには要らぬ圧力になりかねないことは控えるべきかと。いま、国民と世界の目は難民への対応に向いております。これを抜かりなく処理するのが、陸軍少佐でもある、このサマルの役目かと存じます」
「む、そうではあるが……このままでは、A国と肩を並べてアデリヤの国に攻め入ることになりかねないぞ」
「陛下は国家の良心であります、常に臣民と地域の安定発展に向けた決断をされるものと信じております」
「弁えておるのう」
「はい、国家の意思決定にあっては皇太子と言えど、一臣民にすぎません」
「やれやれ、百年前の革命のおりにサマル一世が残した言葉であったな……そう言えば、アデリヤ、その衣装は映画の撮影のためか?」
「これは……」
「そうなのですよ、父上。B国は、いよいよ『バトル オブ ハイランド』の製作に入るのです。世の中が平和な証拠です」
キャンプから直接王城までやってきたので、わたしもアデリヤ姫も変装のままだ。
「『バトル オブ ハイランド』は三国がまだ一つであった頃の物語、あの時代もいろいろ争いはありましたが一つにまとまりました。この難局もA国とB国、それに高原の国も加わり、多少の困難があってもまとまるに違いありません」
「そうか……そうであれば良いがのう……で、アデリヤ、それは何の役の衣装なのだ?」
「はい、難民の衣装です。ひょっとしたら、映画だけではなく、アデリヤの普段着になるかもしれませんが」
コンコン
接見の間のドアがノックされ、侍従が御前会議の時間が迫っていることを告げに来た。
「すまん、日本のお方には挨拶もできなかったな。落ち着いたら、またゆっくりと話しができたらと思う」
「恐れ入ります、陛下」
「それではな……」
侍従に先導され、国王は会議の間に向かわれた。
「では、僕はキャンプに戻るよ、君たちはどうする?」
「今夜はお城に居る。もう少し伯父上とお話しできたらと思うし」
「そうか、では近衛には話を通しておく。万一のことがあっても、二人を敵認定しないように。明日の朝には迎えを寄こす、最終的な身の振り方はキャンプで決めるといいだっちゃ」
バシっと敬礼を決めると軽い足取りで接見の間を出て行った。
侍女に案内されて客間に通される途中、中庭の木の間隠れに軍服姿が見えた。
急いで身を隠さなければ、ここいら旧ソ連の国々は似たような軍服、草原の国の将校とは気が付かなかっただろう。
事態は、姫やわたしの想像を超えて進み始めているようだ。
ガタガタ ガタガタ
通された客間、窓の建付けが悪いと思ったら、窓枠にえいちゃんが挟まってもがいていた(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
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風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
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ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
アデリヤ 高原の国第一王女
サマル B国皇太子 アデリヤの従兄
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