くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお

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76『作戦変更』

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くノ一その一今のうち

76『作戦変更』そのいち 





 ほんの一瞬迷っているように見えた。


 それが並の人間なら――そういうこともある――と見逃す、いや、迷ったことにさえ気づかなかっただろう。

 たとえば、自販機で飲み物を買う時、コインを投入するまでの一秒にも満たない時間、スポーツドリンクにしようかお茶にしようかと悩むような。駅のホームに上がって、一瞬どこの乗車マークに立とうかと迷うような。学食のカレーを食べる時、付け合わせを福神漬けにするかラッキョウにするか迷うような、そんな僅かな間。

 パソコンの画面には高原の国が国境を接する五つの国が表示されている。

 一つは、わたし自身初の大仕事だった草原の国。その他にA・B・C・Dの四か国。

 Cを除いては、いずれも元はソ連の中の共和国だった。

 AとBにアラームが灯っている。アラームといっしょに、その理由が出ている。

――A国の国境付近で爆発事故、国境警備兵二名死亡、三名負傷。A・B共に一級警戒態勢をとって、国境付近に軍隊を集結中――

「作戦変更」

 ひとこと言うと、三村紘一は服部半三の顔でこちらを向いた。

「桔梗とミヒャエルでA国へ、B国へはそのいちと王女殿下とで向かってもらう。A国の方が積極的に事態を拡大させようとしている。むろん背後には草原の国と木下豊臣が付いている。仕掛けてくるとしたらA国だ。なんとしても、AB両国の戦闘を回避させろ。B国が先に手を出すことはないと思うが、様子を探ってくれ」

「わたしは様子を探るだけなのか?」

 王女が不足そうな声を上げる。

「大事な仕事です。それに、いつ状況がひっくり返るかもしれません。そのいち、手に余ると思ったらすぐに撤退してこい」

「「「了解!」」」

「あ、ちょ……」

 まだ気が済んでいない王女をひっぱり、とりあえずB国との国境を目指した。



 ドバカラドバカラドバカラドバカラ…………国境へは馬でいく。



 草原の国に潜入した時は途中まで原チャを使った。帰路の予想がたっていたからだ。

 今度は予想がつかない、AB両国と高原の国は一応の国交関係はあるが、草原の国が今以上の力で軍事行動を起こせば、いつ敵対関係になるか知れたものではない。馬なら、途中で乗り捨てても自分の意思で王宮の厩に戻っていく。万一発見されても熱を発しない馬であれば誘導兵器で撃破される心配も無い。

 今朝のA国の爆発事故は、A国の不安を煽って自分の勢力に組み入れようとする草原の国の陰謀に違いない。B国との国境で起ったというのはB国の仕業に見せかけるブラフだ。

 AB両国に緊張状態を作り、どちらかに味方して勢力を拡大し、合わせた力で高原の国を攻めようという魂胆だ。

 高原の国は、今のところミサイル攻撃を受けているだけだが、AB両国を傘下に組み入れてしまえば、本格的に陸上部隊を送り込んで一気に高原の国を取りにかかるだろう。

 その大攻勢をかけさせないためにも、AB両国の国境紛争を拡大させてはならない。



 キュイーーーン



 怪鳥の鳴き声のような音を立て、いくつものミサイルが飛んで行く。

「王都を狙っていますね」

「大丈夫、旧式の巡航ミサイルだ。迎撃ミサイルで大半は墜とせる」

 大半……いくつかは着弾するわけだ。

 それを大丈夫と言えるのは、王女の強がりもであるんだろうが、戦争状態に慣れてしまっているということでもあるんだろう。そう思うと、王女の意地を張ったような敢闘精神も痛々しく思える。

「敵は、混乱を我が国にまで広げようとしている。ぜったいに阻止するぞ!」

「はい」

「あの峠を越えればB国との国境が見えてくる、一気に超えるぞ」

「殿下、少し身を隠しましょう」

「なぜだ?」

「ミサイルは20発を超えています。おそらく戦果確認のためのドローンが遅れて付いてきます、このままでは発見されます」

「そうか?」

「王都撃破、動画をあげれば恰好の宣伝になります。付いているカメラは4K対応の3Dカメラ、侮れません」

「分かった」

 癖のある王女さまだが、変に我を押し通すタイプでもないようなので、少し安心。



 道を外れて切通脇の薮に身を潜める。



 ブイーーーーン



 やがて、ミサイルと同じ軌道を通って模型飛行機のようなドローンが飛んできた。

 危ないところだ、乗り物を使っていたら、エンジンを切っても排熱を感知されているところだった。



☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
アデリヤ         高原の国第一王女
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