上 下
71 / 97

70『まあやはマッタリ日常系が好きなんだけど』

しおりを挟む
くノ一その一今のうち

70『まあやはマッタリ日常系が好きなんだけど』そのいち 




 日本人をバカにしてんのか!?


 十日ぶりの撮影所、台本を読んでムカついた。

 歴史活劇ドラマ『吠えよ剣』は、甲州の回を終わって江戸に戻ってきている。

 幕府も遅まきながらも、勝海舟を実質的な総裁にして陸軍を創設した。

 その幕府陸軍の教官として多数の教官がフランスから送られてくるんだけども、その一人がミッヒ。

 ミッヒはジョルジュっていうフランス軍少尉の役。

「なんで、ドイツ人がフランスの軍人やってんのよ!?」

「フランスとドイツは地続きなんだぜ、国境付近は歴史的にもドイツになったりフランスになったりってところがあって、不思議じゃないよ」

「だって、ジョルジュって完ぺきフランス人の名前でしょうが」

「ドイツ語読みならゲオルグだよ」

「ああ、そう」

 ドン

 自販機のカフェオレのスイッチを乱暴に叩く。

 ゴロン、ピピピピピピ……ピ……パンパカパーン!

「あ、当たった!」

 自販機のルーレットが当たりになって、二つ目のカフェオレをゲット。



「あら、二人とも仲良しになったのね(^▽^)」



 まあやが次の撮影に備えて移動してきた。

「あ、ごめん、遅くなって。て、こいつとは仲良しじゃないから」

「そーお、先週は、仕事以外口もきいてなかったのに」

「え、あ、そうだっけ?」

「おはようございます、まあやさん」

「ボンジュール」

「あ、こいつドイツ人だし」

「役はフランス人でしょ、雰囲気よ雰囲気。三十分後、衣装合わせだから、よろしくね」

「うん、これ飲んだら行く」

 一人で次のスタジオに向かうまあや。

「ミッヒ、あんた、わたしとは口きかなかったの?」

「あ、だって、社長や嫁持ちさんが化けたソノッチだっただろう」

「え、分かってたの?」

 二人とも細胞レベルの変身名人だから、めったにバレることはないんだけど。

「そういうのを見抜くのが、僕の特技であったりするわけだよ」

 こいつの、ランツクネヒトとしての力は奥が深いようだ……。



 ドラマは、幕府陸軍の教官としてやってきたジョルジュ少尉が千葉道場に通って北辰一刀流を勉強するという設定になっている。



 衣装合わせの後、道場での稽古風景。

 10人5組で、打ち合い稽古。その後は門下生みんなでご飯をいただくシーン。

「日本のごはん、どれも美味しいけど、これは慣れませ~~ん」

 と納豆をかき混ぜるジョルジュ。

「あら、こないだはくさやの干物に打ち勝ったのに?」

「ジョルジュ、納豆を食べんと北辰一刀流の精神は理解できんぜよ」

 龍馬に意地悪を言われるジョルジュ。

「それなら、ムッシュ龍馬もエスカルゴを食べるべきだぞ(,,>∀<,,)!」

「でんでん虫は食いもんじゃなかろうがあ」

「納豆も食いもんじゃないよ、ムッシュ!」

「なにを言う、納豆は大豆だ、仏蘭西でも納豆はたべるじゃろうがあ!」

「じゃ、今度はエスカルゴの納豆和えを作ります」

「「それは勘弁!」」

 さな子の提案に日仏の剣術使いが音を上げて、一発でOKが出る。



「来週分、一部差し換えになります」



 監督が、新しい台本の束を置いた。

「あらら、江戸城の回が最初にくるのね」

 まあやが、ちょっと残念そう。

 しばらくは千葉道場のシーンが続いて、いまみたいな『千葉道場の日常』的なやり取りが続くことになっていたから。

 まあやは、ドラマでもリアルでも、みんなで仲良くマッタリというのが好きなんだ。

 わたしも、台本を繰ってみて気が付いた。

 ミッヒとわたしの出番が、しばらく無い。



 ひょっとして、また裏の仕事……それも、ミッヒといっしょだったりするぅ(;'∀')?



 気配に顔を上げると、脚本の三村紘一がニヤニヤ笑ってる。

 言うまでもなく、三村紘一は徳川物産の課長代理服部半三の仮の姿で、徳川忍者団のフィクサーなんだ。

「あら、わたしの出番も……」

 まあやもビックリした。

 なんか、いやな予感しかしないよ(-_-;)。




☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお
SF
姉と言うのは年上ときまったものですが、友子の場合はちょっと……かなり違います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...