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67『化学分析場地下の戦い』

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くノ一その一今のうち

67『化学分析場地下の戦い』そのいち 







『地下に続いています!』

「あ、ちょ……」




 壁の向こう、えいちゃんはわたしの言葉を待たずに地下への階段を下りて行く様子。

 壁は地下への階段を隠すための擬装だったんだ。

 階段の手前に部屋があったり廊下が続いていたら、えいちゃんはわたしを待っただろう。しかし、直ぐ足もとから階段が伸びていて、見通せるところまでは行ってみようと思ったんだ。

 単なるアシスタントではなく、洞察力を持った助手を目指そうと言う気概を感じた。

 だから、気弱なカンフーみたいに「あ、ちょ……」しか言えなかった。

 

 五分待って、おかしいと思った。




 先を見通すには時間を超えている。

 先行した仲間や部下が戻ってこないのは事故があった証拠。並の忍者なら、直ぐにその場を離れる。

 別のルートを探すか、調べ直して日を改める。

 助けに行って自分もやられては任務が果たせない。忍者と言う者は、けして倫理観では動かない。




 思わず魔石を握った。




 もし魔石の力で壁が開くなら、えいちゃんを助けに行こう!

 心の声に従った。

 と言っても、魔石に開錠の力が無ければ、ただのバカなんだけど。これまでも、何度か魔石に助けられている。

 困った時の石頼み、握った手に力が籠る。

 ジ~~

 魔石が震え、制服を通しても手に熱が伝わってくる。

 ガチ

 手応えのある音がして壁が開いた。

 アチ!

 手を離すと、魔石が直接肌に触れて忍者らしからぬ声が出る。

 一秒だけ立ち止まって気を飛ばす。

 たった一秒だけど、空堀では、この程度の慎重さも失って、まんまと多田さんの目くらましに騙されてしまった。

 コンクリートの階段を下ると、古ぼけてはいるけど、しっかりしたコンクリートの通路が伸びている。

 あ!?

 曲がって直ぐの壁にプリントしたようにえいちゃんが貼り付けられていた。

『すみません、不覚を取りました(;'∀')』

「待って、すぐに剥がしてあげる」

 メリ!

「ごめん、痛かった?」

『大丈夫です、一気に剥がしてください!』

「うん!」

 メリメリメリ!

 …………………!!

 かなり痛そうだったけど、えいちゃんは声も立てずに堪えてくれた。

『すみません、独断専行して、この有様です(-_-;)』

「やっぱり、昨日の多田さんたちだった?」

『気配はそうです。角を曲がったと思ったら、すごい圧を感じて、次の瞬間には壁に貼り付けられていました』

「よし、慎重に進もう……」

 少し進むと下り坂になって、20メートルほどの平坦な通路。地下鉄の向かい側ホームに行く通路に似ている。

 その四倍は長いから……おそらくは、内堀の下を潜って本丸か西の丸に抜ける通路だ。

『頑丈だけど、剥き出しのコンクリート……おそらく、戦時中のものですね』

「……上がった先に何かある」

 傍らの壁の崩れをとって思い切りの力で天井に投げる。

 パシ!

 ブシュッ! ブシュブシュ! ブシュッ!

 消音拳銃の弾が飛んできて、壁や床で爆ぜる。

 三人、あるいは四人。

『牽制してきます』

 言うと同時にカバンを飛び出すえいちゃん。

 今度は大丈夫。なんせ厚みが無い、横を向いて進めば敵からは視認されない。

 翻ってわざと姿を見せたえいちゃんに敵が発砲する。

 ブシュッ! ブシュブシュ! ブシュッ!

 えいちゃんが引き付けてくれている。

 …………!

 声も上げずに飛び出し、えいちゃんとは反対側の壁に周る。

 甲府の地下で見たようなパレットの陰に敵の姿。

 ドス! バシ! ビシ! ドゲシ!

 続けざまに四人ぶちのめし、一人が逃げる。

 シュッ!

 パレットの山を掠めて、一反木綿のようにえいちゃんが飛び出し、敵の脚にまといつく。

 ドシン ズザザーー

「動くな!」

 馬乗りになってクナイを構える。

 プシューー

 とたんに空気が抜ける音がして、敵は空気の抜けた風船のように萎んでしまう。

 傀儡か!?

『こっちも、萎んでます!』

 さっきやっつけた敵も萎んで、僅かな空気の流れにフワフワ崩れ始めている。

『なんですかぁ、これぇ!?』

「傀儡……だと思う。上級忍法の使い手が調子がいいと、こういう魔法めいたことをやるらしい」

『わたしの3D版という感じですね』

「え、ああ……」

 わたしも思っていたんだけどね(^_^;)

『パレットだけということは、敵は、もう運び出したんでしょうか?』

「先を探ろう」

 甲府の隧道でも、枕木やパレットが放置された先に結構な金塊が残っていた。

『こっちに続いています』

「うん!」

 四人目の傀儡を仕留めた先は、曲がったところで行き止まりだったけど、第一の部屋の壁にはパッと見には気づかない扉があった。

 おお!

 視聴覚教室ほどの空間には、荷物を載せていないパレットがいくつも置かれていたけど、奥の方にトラック一杯分ほどの金塊が積まれたままになっている。

 甲府から転送された金塊は、こんな量ではないけど、さすがに運びきれないものが残されたんだろう。

 近寄って見ると、どの金塊にも武田菱の刻印がされている。

 間違いない、いくらかは取り戻せたんだ。

 残念と安心が同時にやってくる。

 えいちゃんが、どんな顔をしていいか分からないという感じで微笑んでいる。

 うん、この微笑みには、ちょっと救われる。

 

 ドッゴーーーン!!




 大音響がしたかと思うと、地下室がグラグラと揺れ、天井からはパラパラと小さなカケラが落ちてくる。




 しまった!




 地下室は崩れるようなことは無いみたいだけど――してやられた――という気持ちが湧いて来て、急いで地上に出てみる!

『西の丸の方です!』

 レンガ造りの屋上から見ると堀を挟んだ南側の森から光の柱が空に延びている。

 チリチリとプラズマを纏って聳える光の柱は、諏訪湖の真ん中に聳えたそれと同じ。

 つまり、大量の金塊が国外に転送されたしるしなんだ。




 また負けてしまった……。




☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 
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