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65『再びの秀長さん』
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くノ一その一今のうち
65『再びの秀長さん』そのいち
豊国神社の秀長さんに挨拶してから本丸に向かった。
秀長さんは詫びてばかりだった。
『そうか、空堀はフェイクでしたか……いやはや、はんぱなことを教えてしまって、かえって木下に利用されてしまいましたね、申しわけない』
「いえ、お守りのお蔭で助かりました」
『少しでも役に立ったのなら嬉しいです……確かに天守の北側に抜け穴を作るという話はありました』
「あったんですね?」
『北側には、元々、大川の水を引き込んで舟入にしたところがあったんです。建築資材やら城内で入用なものを運ぶには便利です。大阪湾から直接船で運べますからね。でも、それは城の内側に作られていて、外側への連絡はありません』
「船で侵入されることは想定していなかったんですか?」
『同様な舟入は石山本願寺のころからあります。総見院様も、ここを何度かお攻めになりましたが、大手口の千貫櫓同様、最後まで陥せませんでした』
「千貫櫓?」
『はい、石山合戦で攻めあぐんだ総見院様が「あの櫓を陥した者には千貫文の褒美をやるぞ」とおっしゃって付いた名前です。今の貨幣価値で一億円以上でしょうか。櫓の名前は兄が引き継ぎ、徳川も使って今日に至っています。あ、そうそう、舟入ですね。その舟入まで、兄は秘密の通路を作っていて、一部は穴になっています』
「それが抜け穴なんですね!?」
『寧々さんは「禿鼠のヌケヌケ穴」と呼んでましたがね』
「ヌケヌケ穴?」
『アハハ、兄は通路を通ってヌケヌケと女の元に通っていたんです。抜け穴を使うことで寧々さんには内緒というサインにしたんですねえ』
「え、あ、どういうことでしょ? 関白太政大臣なんだから、なんでもできたでしょうに?」
『ポーズですよ。天下の秀吉でも女房の寧々さんには頭が上がらず、抜け道を使って女通いをしているという。ある時などは、わざと情報を漏らしましてね、会議の後、家康殿がここを通るように仕向けておいて、わざと見つけさせたんです』
「え、なぜなんですか?」
『狼狽えてみせるんですよ。わたしも前田殿もいっしょだったんですが、小袖を尻っぱしょりにして頬かむりの兄は傑作でした。「い、いや、これは違うんじゃ、大川でウナギが取れるというんでな、夜に取れるんじゃ。のう小一郎、尾張のの中村でも、よう尻っぱしょりで取ったろうがあ(^_^;)」って、顔を赤くして。「兄者、ウナギなら、そのユルフンの隙間から顔を覗かせておるぞ」と指さしてやると、みんなで大爆笑になりました』
「プ( ´艸`)」
『いちおう「寧々にはナイショ(≧〇≦)!」と言うんですが、噂は、あっという間に広まります。これで、寧々さんも兄者を責めにくくなりますし、兄の人気も上がります。それに、舟入の守りは盤石だという噂にもなります。千貫櫓と同じです。名前や噂で「あそこは責めにくい」と評判が広まります』
「え、かえって抜け道を教えることにならないですか?」
『後日、ほんとうに家康殿を誘って遊女屋に行っています。家康殿自身、舟入の守りを見て、攻略の難しさを自覚するという寸法です。そして、密かに南への抜け穴も指示し、これは秘密にします。天下は南の方こそ本物だと思います。まあ、そういう虚々実々の話でみんなを煙に巻いて楽しんでいたんです。あ、そうそう、抜け穴……いや、埋蔵金の隠し場所ですね……』
気が付いたら日が傾いている。
秀長さんは、昨日の失敗で、少しナーバスになりかけていたのを解してくれた。昨日のしくじりを引きずっていたら、きっとうまくいかなかっただろう。
わたしは閉館間近の天守閣に上ってあたりを付けた。
最後に秀長さんは、スマホのマップを見ながら、いくつかのポイントを示してくれていた。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
65『再びの秀長さん』そのいち
豊国神社の秀長さんに挨拶してから本丸に向かった。
秀長さんは詫びてばかりだった。
『そうか、空堀はフェイクでしたか……いやはや、はんぱなことを教えてしまって、かえって木下に利用されてしまいましたね、申しわけない』
「いえ、お守りのお蔭で助かりました」
『少しでも役に立ったのなら嬉しいです……確かに天守の北側に抜け穴を作るという話はありました』
「あったんですね?」
『北側には、元々、大川の水を引き込んで舟入にしたところがあったんです。建築資材やら城内で入用なものを運ぶには便利です。大阪湾から直接船で運べますからね。でも、それは城の内側に作られていて、外側への連絡はありません』
「船で侵入されることは想定していなかったんですか?」
『同様な舟入は石山本願寺のころからあります。総見院様も、ここを何度かお攻めになりましたが、大手口の千貫櫓同様、最後まで陥せませんでした』
「千貫櫓?」
『はい、石山合戦で攻めあぐんだ総見院様が「あの櫓を陥した者には千貫文の褒美をやるぞ」とおっしゃって付いた名前です。今の貨幣価値で一億円以上でしょうか。櫓の名前は兄が引き継ぎ、徳川も使って今日に至っています。あ、そうそう、舟入ですね。その舟入まで、兄は秘密の通路を作っていて、一部は穴になっています』
「それが抜け穴なんですね!?」
『寧々さんは「禿鼠のヌケヌケ穴」と呼んでましたがね』
「ヌケヌケ穴?」
『アハハ、兄は通路を通ってヌケヌケと女の元に通っていたんです。抜け穴を使うことで寧々さんには内緒というサインにしたんですねえ』
「え、あ、どういうことでしょ? 関白太政大臣なんだから、なんでもできたでしょうに?」
『ポーズですよ。天下の秀吉でも女房の寧々さんには頭が上がらず、抜け道を使って女通いをしているという。ある時などは、わざと情報を漏らしましてね、会議の後、家康殿がここを通るように仕向けておいて、わざと見つけさせたんです』
「え、なぜなんですか?」
『狼狽えてみせるんですよ。わたしも前田殿もいっしょだったんですが、小袖を尻っぱしょりにして頬かむりの兄は傑作でした。「い、いや、これは違うんじゃ、大川でウナギが取れるというんでな、夜に取れるんじゃ。のう小一郎、尾張のの中村でも、よう尻っぱしょりで取ったろうがあ(^_^;)」って、顔を赤くして。「兄者、ウナギなら、そのユルフンの隙間から顔を覗かせておるぞ」と指さしてやると、みんなで大爆笑になりました』
「プ( ´艸`)」
『いちおう「寧々にはナイショ(≧〇≦)!」と言うんですが、噂は、あっという間に広まります。これで、寧々さんも兄者を責めにくくなりますし、兄の人気も上がります。それに、舟入の守りは盤石だという噂にもなります。千貫櫓と同じです。名前や噂で「あそこは責めにくい」と評判が広まります』
「え、かえって抜け道を教えることにならないですか?」
『後日、ほんとうに家康殿を誘って遊女屋に行っています。家康殿自身、舟入の守りを見て、攻略の難しさを自覚するという寸法です。そして、密かに南への抜け穴も指示し、これは秘密にします。天下は南の方こそ本物だと思います。まあ、そういう虚々実々の話でみんなを煙に巻いて楽しんでいたんです。あ、そうそう、抜け穴……いや、埋蔵金の隠し場所ですね……』
気が付いたら日が傾いている。
秀長さんは、昨日の失敗で、少しナーバスになりかけていたのを解してくれた。昨日のしくじりを引きずっていたら、きっとうまくいかなかっただろう。
わたしは閉館間近の天守閣に上ってあたりを付けた。
最後に秀長さんは、スマホのマップを見ながら、いくつかのポイントを示してくれていた。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
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十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
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