51 / 97
50『まだまだ未熟なんだ』
しおりを挟む
くノ一その一今のうち
50『まだまだ未熟なんだ』
魔石は無くすわ、埋蔵金は取られるわ、一世一代の大不覚に天を仰ぐ。
仰いだところで空は見えない。
ここは甲斐善光寺の地下戒壇、それも『心』の形をした、その内側の秘密戒壇の最奥部。
クソッ
クソ クソ クソ クソ クソ…………
吐息が怨嗟の呟きを載せてしまい、長大な地下洞窟に響き渡る。
まだまだ未熟なんだ。
地下戒壇に間違いないと閃いて、でも、どこか自信が無くて、課長代理にも言わずに突出したことが悔やまれる。
まずは確かめて、確証が持てたところで……悠長に過ぎた。
仰いだところに見えるのは、冷たい岩肌、それがフニャフニャ歪んで、溢れた涙のせいだと知ってしゃがみ込んでしまう。
だめだ、いまのわたしは忍者はおろかアルバイトとしても失格だ。
口の中に血の匂いが広がる。
悔しさと絶望のあまりに唇を噛んでしまった。
ここに居てもしかたがない……立ち上がろうとすると洞窟の向こうに人の気配。
目をこすると、はっきり見えた。
怖い顔で見えてきたのは、わたしだ。同じ忍び装束のわたし。。
ドッペルゲンガーか?
ひょっとして、今のわたしはゲシュタルト崩壊?
「なにをボンヤリしてる」
わたしが社長の声で喋った。
「セイ!」
跳躍前転して、目の前に立った姿は、いつもの暑苦しい社長。
「しっかりしろ、社長の儂とドッペルゲンガーの区別もつかんようでは使い物にならんぞ」
「でも……どうして?」
「服部からの連絡だ」
「課長代理が?」
「ああ、服部も気づいて、要所要所に忍びを送っている。諏訪湖から草原の国までは6000キロもある。いくら草原の幻術と諏訪明神のコラボと言っても、一気に運べるものじゃない。地脈の要所要所でブーストをかけている。儂らは、そこを襲った」
「そうですか……」
課長代理は知っていたんだ。知っていて未熟者のわたしを……敵は、未熟者のわたしに対しても多田さん達とか、かなりの勢力を割いた。そうやって注意をそらせて、今ごろは諏訪湖で佐助たちを相手に死力を尽くして戦っているんだ。
スタ
かそけき音をさせて、もう一人前に立った。
わたしの姿をしている……と思ったら、すぐに術を解いて嫁持ちさんに変わった。
「多田は、ブーストを止めて逃げていきました。ご苦労だったねソノッチ」
「嫁持ちさんも来てたんですね」
「うん、百地組も総動員だよ。諏訪湖には金持ちと力持ちが行ってる」
「多田は最後まで気づかなかっただろ?」
「ええ、風魔その一は化け物かって顔をしてましたよ」
「これで、ソノッチのお株も上がったな」
「そんな、ゲタみたいなお株要らないです!」
「ガハハ、まあ、そう言うな。評判も力のうちだぞ」
「アハハ、百地組希望の星なんだしね(^▽^)」
「もう」
笑うだけ笑って二人とも消えた。わたしも、そのままホテルまで走って帰った。
まあやは、わたしの身代わりに作っておいた毛布を丸めたのに抱き付いて寝息を立てていた。
朝起きてビックリした。
「諸般の事情でロケは中止、昼飯食ったら東京に帰るから、準備してください」
朝ごはんのダイニングで監督が宣言。宣言した後、プロデューサーや幹部の人たちで協議。
協議しながらも、ちゃんと朝ご飯は食べている。この業界の人は逞しい。
「お墓参り済ませといてよかったわね」
まあやも、ものごとの良いところを見て行こうという姿勢。
わたし一人カリカリ、ちょっと反省して、朝食バイキングに並ぶ。
――半分は死守できたが、その半分は大阪に転送されてしまった――
脚本の三村紘一(課長代理)が闇語りしてくる。
――大阪だったら近いからいいじゃないですか――
騙されていたから、ちょっとツッケンドンになる。
「いやあ、今朝のソノッチ怖いなあ(^△^;)、まあやフォローしといてね」
「ダメだよ、ソノッチ、三村さん徹夜で本の書き直ししてたんだからね」
クソ、まあやは完全に騙されてるし。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
50『まだまだ未熟なんだ』
魔石は無くすわ、埋蔵金は取られるわ、一世一代の大不覚に天を仰ぐ。
仰いだところで空は見えない。
ここは甲斐善光寺の地下戒壇、それも『心』の形をした、その内側の秘密戒壇の最奥部。
クソッ
クソ クソ クソ クソ クソ…………
吐息が怨嗟の呟きを載せてしまい、長大な地下洞窟に響き渡る。
まだまだ未熟なんだ。
地下戒壇に間違いないと閃いて、でも、どこか自信が無くて、課長代理にも言わずに突出したことが悔やまれる。
まずは確かめて、確証が持てたところで……悠長に過ぎた。
仰いだところに見えるのは、冷たい岩肌、それがフニャフニャ歪んで、溢れた涙のせいだと知ってしゃがみ込んでしまう。
だめだ、いまのわたしは忍者はおろかアルバイトとしても失格だ。
口の中に血の匂いが広がる。
悔しさと絶望のあまりに唇を噛んでしまった。
ここに居てもしかたがない……立ち上がろうとすると洞窟の向こうに人の気配。
目をこすると、はっきり見えた。
怖い顔で見えてきたのは、わたしだ。同じ忍び装束のわたし。。
ドッペルゲンガーか?
ひょっとして、今のわたしはゲシュタルト崩壊?
「なにをボンヤリしてる」
わたしが社長の声で喋った。
「セイ!」
跳躍前転して、目の前に立った姿は、いつもの暑苦しい社長。
「しっかりしろ、社長の儂とドッペルゲンガーの区別もつかんようでは使い物にならんぞ」
「でも……どうして?」
「服部からの連絡だ」
「課長代理が?」
「ああ、服部も気づいて、要所要所に忍びを送っている。諏訪湖から草原の国までは6000キロもある。いくら草原の幻術と諏訪明神のコラボと言っても、一気に運べるものじゃない。地脈の要所要所でブーストをかけている。儂らは、そこを襲った」
「そうですか……」
課長代理は知っていたんだ。知っていて未熟者のわたしを……敵は、未熟者のわたしに対しても多田さん達とか、かなりの勢力を割いた。そうやって注意をそらせて、今ごろは諏訪湖で佐助たちを相手に死力を尽くして戦っているんだ。
スタ
かそけき音をさせて、もう一人前に立った。
わたしの姿をしている……と思ったら、すぐに術を解いて嫁持ちさんに変わった。
「多田は、ブーストを止めて逃げていきました。ご苦労だったねソノッチ」
「嫁持ちさんも来てたんですね」
「うん、百地組も総動員だよ。諏訪湖には金持ちと力持ちが行ってる」
「多田は最後まで気づかなかっただろ?」
「ええ、風魔その一は化け物かって顔をしてましたよ」
「これで、ソノッチのお株も上がったな」
「そんな、ゲタみたいなお株要らないです!」
「ガハハ、まあ、そう言うな。評判も力のうちだぞ」
「アハハ、百地組希望の星なんだしね(^▽^)」
「もう」
笑うだけ笑って二人とも消えた。わたしも、そのままホテルまで走って帰った。
まあやは、わたしの身代わりに作っておいた毛布を丸めたのに抱き付いて寝息を立てていた。
朝起きてビックリした。
「諸般の事情でロケは中止、昼飯食ったら東京に帰るから、準備してください」
朝ごはんのダイニングで監督が宣言。宣言した後、プロデューサーや幹部の人たちで協議。
協議しながらも、ちゃんと朝ご飯は食べている。この業界の人は逞しい。
「お墓参り済ませといてよかったわね」
まあやも、ものごとの良いところを見て行こうという姿勢。
わたし一人カリカリ、ちょっと反省して、朝食バイキングに並ぶ。
――半分は死守できたが、その半分は大阪に転送されてしまった――
脚本の三村紘一(課長代理)が闇語りしてくる。
――大阪だったら近いからいいじゃないですか――
騙されていたから、ちょっとツッケンドンになる。
「いやあ、今朝のソノッチ怖いなあ(^△^;)、まあやフォローしといてね」
「ダメだよ、ソノッチ、三村さん徹夜で本の書き直ししてたんだからね」
クソ、まあやは完全に騙されてるし。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる