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50『まだまだ未熟なんだ』

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くノ一その一今のうち

50『まだまだ未熟なんだ』 





 魔石は無くすわ、埋蔵金は取られるわ、一世一代の大不覚に天を仰ぐ。


 仰いだところで空は見えない。

 ここは甲斐善光寺の地下戒壇、それも『心』の形をした、その内側の秘密戒壇の最奥部。

 クソッ

 クソ クソ クソ クソ クソ…………

 吐息が怨嗟の呟きを載せてしまい、長大な地下洞窟に響き渡る。

 まだまだ未熟なんだ。

 地下戒壇に間違いないと閃いて、でも、どこか自信が無くて、課長代理にも言わずに突出したことが悔やまれる。

 まずは確かめて、確証が持てたところで……悠長に過ぎた。

 仰いだところに見えるのは、冷たい岩肌、それがフニャフニャ歪んで、溢れた涙のせいだと知ってしゃがみ込んでしまう。

 だめだ、いまのわたしは忍者はおろかアルバイトとしても失格だ。

 口の中に血の匂いが広がる。

 悔しさと絶望のあまりに唇を噛んでしまった。

 ここに居てもしかたがない……立ち上がろうとすると洞窟の向こうに人の気配。

 目をこすると、はっきり見えた。

 怖い顔で見えてきたのは、わたしだ。同じ忍び装束のわたし。。

 ドッペルゲンガーか?

 ひょっとして、今のわたしはゲシュタルト崩壊?



「なにをボンヤリしてる」



 わたしが社長の声で喋った。

「セイ!」

 跳躍前転して、目の前に立った姿は、いつもの暑苦しい社長。

「しっかりしろ、社長の儂とドッペルゲンガーの区別もつかんようでは使い物にならんぞ」

「でも……どうして?」

「服部からの連絡だ」

「課長代理が?」

「ああ、服部も気づいて、要所要所に忍びを送っている。諏訪湖から草原の国までは6000キロもある。いくら草原の幻術と諏訪明神のコラボと言っても、一気に運べるものじゃない。地脈の要所要所でブーストをかけている。儂らは、そこを襲った」

「そうですか……」

 課長代理は知っていたんだ。知っていて未熟者のわたしを……敵は、未熟者のわたしに対しても多田さん達とか、かなりの勢力を割いた。そうやって注意をそらせて、今ごろは諏訪湖で佐助たちを相手に死力を尽くして戦っているんだ。

 スタ

 かそけき音をさせて、もう一人前に立った。

 わたしの姿をしている……と思ったら、すぐに術を解いて嫁持ちさんに変わった。

「多田は、ブーストを止めて逃げていきました。ご苦労だったねソノッチ」

「嫁持ちさんも来てたんですね」

「うん、百地組も総動員だよ。諏訪湖には金持ちと力持ちが行ってる」

「多田は最後まで気づかなかっただろ?」

「ええ、風魔その一は化け物かって顔をしてましたよ」

「これで、ソノッチのお株も上がったな」

「そんな、ゲタみたいなお株要らないです!」

「ガハハ、まあ、そう言うな。評判も力のうちだぞ」

「アハハ、百地組希望の星なんだしね(^▽^)」

「もう」



 笑うだけ笑って二人とも消えた。わたしも、そのままホテルまで走って帰った。

 まあやは、わたしの身代わりに作っておいた毛布を丸めたのに抱き付いて寝息を立てていた。



 朝起きてビックリした。



「諸般の事情でロケは中止、昼飯食ったら東京に帰るから、準備してください」

 朝ごはんのダイニングで監督が宣言。宣言した後、プロデューサーや幹部の人たちで協議。

 協議しながらも、ちゃんと朝ご飯は食べている。この業界の人は逞しい。

「お墓参り済ませといてよかったわね」

 まあやも、ものごとの良いところを見て行こうという姿勢。

 わたし一人カリカリ、ちょっと反省して、朝食バイキングに並ぶ。

――半分は死守できたが、その半分は大阪に転送されてしまった――

 脚本の三村紘一(課長代理)が闇語りしてくる。

――大阪だったら近いからいいじゃないですか――

 騙されていたから、ちょっとツッケンドンになる。

「いやあ、今朝のソノッチ怖いなあ(^△^;)、まあやフォローしといてね」

「ダメだよ、ソノッチ、三村さん徹夜で本の書き直ししてたんだからね」

 クソ、まあやは完全に騙されてるし。

 

☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

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