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49『してやられる!』
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くノ一その一今のうち
49『してやられる!』
「450年も昔なら、いっしょに戦えたんだろうけどね」
ちょっと昔の人工音声のように抑揚が無い、いや、特徴が無い。
多田さんは、顔ばかりではなく声もつかみどころがない。
「そのっちはいいものを持っているよ。素直なくノ一だが、自分を殺しているわけではない。九割九分任務と弁えても一分のところで自分を捨てないでいる。忍びと云うのは非情なものだが、非常の根元にあるのは情けだ。伊賀も甲賀も百地や風魔も、元をただせば山や谷でしか暮らせない弱い里人の群れだ。役小角の昔から、おのれの技を売って里の生活を守ってきた。おのれ一人安穏に暮らすには十分な知恵と才覚、技を持っているのに、おのれ一人の為に生きることはしない。里の妻や子、年老いた親を養うためにワザを生かす。それは、つまりは人への執着。今風に言えば愛情だね。先祖代々木下家に仕えているとね、木下家の方々は、もう理屈を超えて守るべき同じ里人、里人の尊き……なんだろう、僕は照明技師だから監督や作家のように言葉は知らないが、里人の主、神、そういうものなんだよ。そう、そのっちが鈴木まあやに抱いている温もりのある気持ち、そういうものをぼくたちは持っているんだ……だから、木下も鈴木も、一つの豊臣であったころならば……」
思わず聞いてしまう。
話の中身じゃない、見てるうち聞いてるうちにも揺らめいてとりとめのない顔と声。
心理テストで――これは何に見えますか?――という図形がある。それを「え、なんだろう?」と思って見つめてしまって他が見えなくなる感じ。道を歩いていて声や物音が聞こえ、それが犬の声にも猫にも子どもの声にも聞こえ「え、なんだろう?」って思わず耳を澄ます、あの感じ。テレビを見ていて電話の音がして、リアルなのかテレビの音なのか分からなくって「え? え?」と迷う瞬間に似ている。
つまりは、目くらましに遭っている。
気づいた時には、目の前に圧が迫っていた。
シュッ シュシュッ
サイレンサー付きの拳銃から撃ちだされた弾が三発、頬と胸元を掠めていく!
セイ!
横っ飛びに跳んで側壁を蹴って、拳銃を持っていた下忍二人が構え直す寸前に蹴り倒す。
グキ
一人には確かな手ごたえ、もう一人は派手に吹飛んだけど、これは衝撃を和らげるための受け身だ。
シュッ シュシュッ シュシュッ シュッ シュシュッ
立て続けに8発。
一発は。マトリックス並みにのけ反った足もとから下腹部胸元に沿って銃弾が走って、自分の前髪が数本吹飛ぶのが見える。僅かに遅れて鼻の奥にきな臭さが満ちる。
大丈夫、銃弾は鼻先を数ミリ外れて後ろの岩に火花を散らせた。
シュッ シュシュッ
一人が一発、もう一人が二発。
一人を延髄蹴りで仕留め、もう一人には懐から出したクナイを振るうが、わずかに浅手を負わすのみ。
シュシュッ ドガ ドス シュッ シュシュッ ゲシ ドガビシ シュシュッ ドガドガ
血の匂いがして視界の中に見えるのは、さっきの倍の距離を取った多田さん一人。
「そのっちには、わたしの目くらましもあまり効き目はないようだ」
!? !?
「気を張らなくてもいいさ。手下は、怪我人も含めて引き上げさせた」
「いつのまに?」
「その程度には目くらましは効いたわけだね。まあ、そのっちもここまで来たことは褒めてあげよう。御褒美に種明かしをしてあげる」
「種明かし?」
「信玄の埋蔵金さ」
「あ!?」
いつの間にか、見える範囲の埋蔵金は消えてしまって枕木だけになっている。
「これはね、甲賀流忍法と草原の国の幻術の合わさ技なのさ」
「合わせ技?」
「甲府の北東に諏訪湖がある。そこには百キロ近い地溝帯が走っている、地上からでも宇津谷(うつのや)や中央本線が走っているのでよく分かる。つまりは地脈や霊脈というものが走っていてね、忍法と幻術の技を持って埋蔵金を諏訪湖に運ぶんだ。そう、そのっちが思ったゲームのテレポとかテレキネシスに似ているね。諏訪湖まで転送した埋蔵金は、諏訪湖周辺の神々の力をバネとして、遥か西方の草原の国に運ぶんだよ」
「それで草原の国を!?」
「そう、かの国の王子を応援し、木下家とゆかりの深い政府を築き上げる。いずれは豊臣の本姓に戻った木下が、その上にユーラシアに跨った大帝国を築き上げるというわけさ」
「そんな馬鹿気……」
言い切れなかった。
先月、その草原の国に行って、社長や嫁持ちさんといっしょに戦ったばかりだ。
しまった( ゚Д゚)!
「話に付き合ってくれてありがとう、どうやら大方の埋蔵金は運び出せたようだ。ここに少し残っているが、これは鈴木家への餞別だ。まあやさんにも豊臣の分家として相応しい暮らしをさせてあげてくれ……これは猿飛佐助の言伝だ。それじゃ……また!」
ボン!
いっしゅん煙が舞ったかと思うと、多田さんの姿は消えてしまった。
し、しまったあああ(# ゚Д゚#)!!
けっきょくは多田さんの語りに惑わされて後れを取ってしまった……それどころか、胸に下げていた魔石が無い!
そうだ、さっき、マトリックスで弾を避けた時に、チェ-ンが切れて!
風魔その一、一世一代の不覚をとった(#⊙ꇴ⊙#)!!
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
49『してやられる!』
「450年も昔なら、いっしょに戦えたんだろうけどね」
ちょっと昔の人工音声のように抑揚が無い、いや、特徴が無い。
多田さんは、顔ばかりではなく声もつかみどころがない。
「そのっちはいいものを持っているよ。素直なくノ一だが、自分を殺しているわけではない。九割九分任務と弁えても一分のところで自分を捨てないでいる。忍びと云うのは非情なものだが、非常の根元にあるのは情けだ。伊賀も甲賀も百地や風魔も、元をただせば山や谷でしか暮らせない弱い里人の群れだ。役小角の昔から、おのれの技を売って里の生活を守ってきた。おのれ一人安穏に暮らすには十分な知恵と才覚、技を持っているのに、おのれ一人の為に生きることはしない。里の妻や子、年老いた親を養うためにワザを生かす。それは、つまりは人への執着。今風に言えば愛情だね。先祖代々木下家に仕えているとね、木下家の方々は、もう理屈を超えて守るべき同じ里人、里人の尊き……なんだろう、僕は照明技師だから監督や作家のように言葉は知らないが、里人の主、神、そういうものなんだよ。そう、そのっちが鈴木まあやに抱いている温もりのある気持ち、そういうものをぼくたちは持っているんだ……だから、木下も鈴木も、一つの豊臣であったころならば……」
思わず聞いてしまう。
話の中身じゃない、見てるうち聞いてるうちにも揺らめいてとりとめのない顔と声。
心理テストで――これは何に見えますか?――という図形がある。それを「え、なんだろう?」と思って見つめてしまって他が見えなくなる感じ。道を歩いていて声や物音が聞こえ、それが犬の声にも猫にも子どもの声にも聞こえ「え、なんだろう?」って思わず耳を澄ます、あの感じ。テレビを見ていて電話の音がして、リアルなのかテレビの音なのか分からなくって「え? え?」と迷う瞬間に似ている。
つまりは、目くらましに遭っている。
気づいた時には、目の前に圧が迫っていた。
シュッ シュシュッ
サイレンサー付きの拳銃から撃ちだされた弾が三発、頬と胸元を掠めていく!
セイ!
横っ飛びに跳んで側壁を蹴って、拳銃を持っていた下忍二人が構え直す寸前に蹴り倒す。
グキ
一人には確かな手ごたえ、もう一人は派手に吹飛んだけど、これは衝撃を和らげるための受け身だ。
シュッ シュシュッ シュシュッ シュッ シュシュッ
立て続けに8発。
一発は。マトリックス並みにのけ反った足もとから下腹部胸元に沿って銃弾が走って、自分の前髪が数本吹飛ぶのが見える。僅かに遅れて鼻の奥にきな臭さが満ちる。
大丈夫、銃弾は鼻先を数ミリ外れて後ろの岩に火花を散らせた。
シュッ シュシュッ
一人が一発、もう一人が二発。
一人を延髄蹴りで仕留め、もう一人には懐から出したクナイを振るうが、わずかに浅手を負わすのみ。
シュシュッ ドガ ドス シュッ シュシュッ ゲシ ドガビシ シュシュッ ドガドガ
血の匂いがして視界の中に見えるのは、さっきの倍の距離を取った多田さん一人。
「そのっちには、わたしの目くらましもあまり効き目はないようだ」
!? !?
「気を張らなくてもいいさ。手下は、怪我人も含めて引き上げさせた」
「いつのまに?」
「その程度には目くらましは効いたわけだね。まあ、そのっちもここまで来たことは褒めてあげよう。御褒美に種明かしをしてあげる」
「種明かし?」
「信玄の埋蔵金さ」
「あ!?」
いつの間にか、見える範囲の埋蔵金は消えてしまって枕木だけになっている。
「これはね、甲賀流忍法と草原の国の幻術の合わさ技なのさ」
「合わせ技?」
「甲府の北東に諏訪湖がある。そこには百キロ近い地溝帯が走っている、地上からでも宇津谷(うつのや)や中央本線が走っているのでよく分かる。つまりは地脈や霊脈というものが走っていてね、忍法と幻術の技を持って埋蔵金を諏訪湖に運ぶんだ。そう、そのっちが思ったゲームのテレポとかテレキネシスに似ているね。諏訪湖まで転送した埋蔵金は、諏訪湖周辺の神々の力をバネとして、遥か西方の草原の国に運ぶんだよ」
「それで草原の国を!?」
「そう、かの国の王子を応援し、木下家とゆかりの深い政府を築き上げる。いずれは豊臣の本姓に戻った木下が、その上にユーラシアに跨った大帝国を築き上げるというわけさ」
「そんな馬鹿気……」
言い切れなかった。
先月、その草原の国に行って、社長や嫁持ちさんといっしょに戦ったばかりだ。
しまった( ゚Д゚)!
「話に付き合ってくれてありがとう、どうやら大方の埋蔵金は運び出せたようだ。ここに少し残っているが、これは鈴木家への餞別だ。まあやさんにも豊臣の分家として相応しい暮らしをさせてあげてくれ……これは猿飛佐助の言伝だ。それじゃ……また!」
ボン!
いっしゅん煙が舞ったかと思うと、多田さんの姿は消えてしまった。
し、しまったあああ(# ゚Д゚#)!!
けっきょくは多田さんの語りに惑わされて後れを取ってしまった……それどころか、胸に下げていた魔石が無い!
そうだ、さっき、マトリックスで弾を避けた時に、チェ-ンが切れて!
風魔その一、一世一代の不覚をとった(#⊙ꇴ⊙#)!!
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
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忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
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