くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお

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40『甲府城・1』

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くノ一その一今のうち

40『甲府城・1』 




 二日目は甲府城のロケ。


 甲府城って甲府駅のすぐ近くで、つまりは街のど真ん中にある。

 城内にはホテルや明治の大水害の後に建てられた謝恩塔(大きなオベリスク)とかがあって時代劇を撮るのには向いていない。

「こんな風にやります」

 監督が木陰でモニターを指し示す。

 モニターには、カメラが撮っている、ちょっと見上げたアングルで石垣と城門が映っている。

 いかにも、初めてお城に来た者が見上げてため息をつきそうな絵柄で、さすがは監督。

 だけど、後ろには高層のホテルやら電線やらが写り込んでいる。それに、石垣の縁の柵も邪魔。

「こうするとね……」

 監督がクリックすると、ホテルも電線も一瞬で消えて、思わず実際の風景を見てしまう。

 当たり前だけど、実際のホテルも電線も、そこにあり続けている。

「そして、こうやるとね……」

 再び監督がクリックすると、石垣の上に白壁が現れ、白壁の向こうには城内の御殿の屋根やら櫓やらが現れた。

「いやあ、CGって凄いんですねぇ!」

 まあやもビックリ。小さく拍手して喜んでいる。

「まあ、見る奴が見たら、日本中のいろんなお城から集めてきたハメこみって分かっちゃうんだけどね。まあ、お城の前に着いたさな子が見た景色は、こんな感じ。まあ、イメージ持って演ってみてください」

「「「はい」」」

 有るはずの物を隠したり、無いはずの物を出したり、ちょっと忍者の騙し合いに似てると思った。



「わざわざ江戸からお越しいただいてありがとうございます。この甲府も風雲急を告げてまいりました、うかうかしていては、御公儀にも日本の国にも為にならぬ者の手に渡るおそれもあります。よろしく探索なさってください」

「はい、及ばずながら、師範からも指名を受けて参りました。千葉さな子、微力を尽くす所存でございます」

「ははは、そんなに畏まらないでください。わたしも成ったばかりの城代です。大きな声ではいえませんが、ほんの去年までは旗本が勤番で務めた名誉職。城代と名前は変わりましたが実質はありません。そんな甲府城代には信玄の埋蔵金など荷が重い。さっさと見つけ出して江戸の金蔵に収めたいというのが本音なんです」

「はい、ご城代さまは道場に通われていたころと変わりませんねえ」

「はは、幕府の人材も払底してきましたかなあ」

「いいえ、ようやく見る目が出てきたのでしょう、軍艦奉行の勝様も八面六臂のご活躍です」

「はは、勝様と比べられては入る穴もありません。では、支配地の見回りもありますので、これにて。ああ、入用のものがありましたら、納戸奉行に申し付けてください、話は通してありますから」

 まあやのさな子に合わせて頭を下げる。ゆっくりと顔をあげると櫓の上には青い空が広がって、トンビがくるりと輪を描いた。



 カット!



 監督がOKを出して、午前中二つ目の『城代との対面』のシーンが終わる。

 録画を確認したらお昼休み。

 みんなでモニターを見ていると、横に三村紘一。

―― 昼休み城内探索 稲荷櫓の前 ――

 忍び語りは、御城代様のようにくだけてはいなかった……



☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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