26 / 97
25『してやられる』
しおりを挟む
くノ一その一今のうち
25『してやられる』
「行ってきまーす」「行ってらっしゃい」
お祖母ちゃんと言葉を交わして玄関を出る。
三歩で通りに出て左に曲がる。
お線香の匂いがして、つい「お早うございます」を言いかける。
筋向いのお爺ちゃんは、仏壇にお線香をたて、リンを鳴らして、ナマンダブを三回唱えるのが朝のルーチン。
そのあと、郵便受けに新聞を取りに出て、玄関を出たばかりのわたしに「お早う」を言ったり「お早うございます」をこっちから投げかけたり。
でも、先月、お爺ちゃんは亡くなったので「お早うございます」は言わない。
それが、つい口をついて出てしまったのは、お線香の匂いがしたからだ。
「お早う、そのちゃん」
お爺ちゃんの声。
思わず振り返ると、郵便受けから新聞を取り出しながらお爺ちゃん。
「お早うございます」
してやられたと思いながらも挨拶が口を突いて出る。
忍者が変異に出会った時の対応は二つだ。
さっさと逃げるか調子を合わせるか。
変異の正体や出方が分からない時は、とりあえず調子を合わせる。
そして、相手の意図や力を推し量れたところで、次の行動に出る。
さあ、なにが起こるんだぁ?
お爺ちゃんは、笑顔一つ残して家の中に入って行った……生きていたときのまんま。
ハッ
小さく息を吐いて角を曲がる。
―― このまま事務所に行け ――
不覚、ブロック塀の上の猫が語りかけてくる。
『なんでですか?』
猫は課長代理に違いなく、こないだからしてやられっぱなしなので、少しムキになる。
―― その車に乗れ ――
キーー
聞く間も無く、スライドドアを開けながらミニバンが横付け。
「全部読まれてるね」
ハンドル操作をしながら力持ちさん。
「力持ちさんも?」
「ああ、テレビ局に行こうとしたら電話がかかってきた。ソノッチを送り届けたらまあやを迎えに行く。今週のまあや番はわたしがやることになった」
「任務ですか?」
「うん、ソノッチもな、おそらく、事務所全体で対応している。ムカつくくらい機先を制されているからな。わたしらに考える隙を与えない。ソノッチも考えないほうがいい」
「はい」
それからは沈黙になり、五分余りで丸の内の会社に着いた。
「お早うでござる、そのさん。このまま屋上に参られよ」
二課のドアを開けると、案内ロボットが真ん前で待っていて、胸のディスプレーに屋上へのルートを表示してくれている。
「了解」
屋上へは、八階までエレベーターで、そこからは階段だ……で、エレベーターの前で気が付いた「って、ここは八階じゃん」。完全に指示で動くようにならされてしまった。
走って階段を上がり、屋上に出る。
バーーン
せめての腹いせに、元気よくドアを開ける。
ウワ
騒音と激しい風が同時にやってきた。
バラバラバラバラバラバラバラ!
目の前にヘリコプター!?
ガラ
胴体のドアが開いたかと思うと……わたしが出てきた!
出てきたわたしは、評判のアクションアニメ『リコリ〇リコイ〇』の制服を着ている。
「お早う、次は、あんたの番ね。頑張って!」
軽く肩を叩くと、背中のカバンを肩掛けにして階段室に入って行った。
「早く乗って!」
「はい……!?」
振り返ったヘリコプターの中からは、もう一人のわたしがオイデオイデして急き立てているし……。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍)
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
25『してやられる』
「行ってきまーす」「行ってらっしゃい」
お祖母ちゃんと言葉を交わして玄関を出る。
三歩で通りに出て左に曲がる。
お線香の匂いがして、つい「お早うございます」を言いかける。
筋向いのお爺ちゃんは、仏壇にお線香をたて、リンを鳴らして、ナマンダブを三回唱えるのが朝のルーチン。
そのあと、郵便受けに新聞を取りに出て、玄関を出たばかりのわたしに「お早う」を言ったり「お早うございます」をこっちから投げかけたり。
でも、先月、お爺ちゃんは亡くなったので「お早うございます」は言わない。
それが、つい口をついて出てしまったのは、お線香の匂いがしたからだ。
「お早う、そのちゃん」
お爺ちゃんの声。
思わず振り返ると、郵便受けから新聞を取り出しながらお爺ちゃん。
「お早うございます」
してやられたと思いながらも挨拶が口を突いて出る。
忍者が変異に出会った時の対応は二つだ。
さっさと逃げるか調子を合わせるか。
変異の正体や出方が分からない時は、とりあえず調子を合わせる。
そして、相手の意図や力を推し量れたところで、次の行動に出る。
さあ、なにが起こるんだぁ?
お爺ちゃんは、笑顔一つ残して家の中に入って行った……生きていたときのまんま。
ハッ
小さく息を吐いて角を曲がる。
―― このまま事務所に行け ――
不覚、ブロック塀の上の猫が語りかけてくる。
『なんでですか?』
猫は課長代理に違いなく、こないだからしてやられっぱなしなので、少しムキになる。
―― その車に乗れ ――
キーー
聞く間も無く、スライドドアを開けながらミニバンが横付け。
「全部読まれてるね」
ハンドル操作をしながら力持ちさん。
「力持ちさんも?」
「ああ、テレビ局に行こうとしたら電話がかかってきた。ソノッチを送り届けたらまあやを迎えに行く。今週のまあや番はわたしがやることになった」
「任務ですか?」
「うん、ソノッチもな、おそらく、事務所全体で対応している。ムカつくくらい機先を制されているからな。わたしらに考える隙を与えない。ソノッチも考えないほうがいい」
「はい」
それからは沈黙になり、五分余りで丸の内の会社に着いた。
「お早うでござる、そのさん。このまま屋上に参られよ」
二課のドアを開けると、案内ロボットが真ん前で待っていて、胸のディスプレーに屋上へのルートを表示してくれている。
「了解」
屋上へは、八階までエレベーターで、そこからは階段だ……で、エレベーターの前で気が付いた「って、ここは八階じゃん」。完全に指示で動くようにならされてしまった。
走って階段を上がり、屋上に出る。
バーーン
せめての腹いせに、元気よくドアを開ける。
ウワ
騒音と激しい風が同時にやってきた。
バラバラバラバラバラバラバラ!
目の前にヘリコプター!?
ガラ
胴体のドアが開いたかと思うと……わたしが出てきた!
出てきたわたしは、評判のアクションアニメ『リコリ〇リコイ〇』の制服を着ている。
「お早う、次は、あんたの番ね。頑張って!」
軽く肩を叩くと、背中のカバンを肩掛けにして階段室に入って行った。
「早く乗って!」
「はい……!?」
振り返ったヘリコプターの中からは、もう一人のわたしがオイデオイデして急き立てているし……。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍)
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
紅雨-架橋戦記-
法月
ファンタジー
時は現代。とうの昔に失われたと思われた忍びの里は、霧や雨に隠れて今も残っていた。
そこで生まれ育った、立花楽と法雨里冉。
二人の少年は里も違い、家同士が不仲でありながらも、唯一無二の親友であった。
しかし、里冉は楽の前から姿を消した。それも里冉の十歳の誕生日に、突然。
里冉ともう一度会いたい。
何年経ってもそう願ってしまう楽は、ある時思いつく。
甲伊共通の敵である〝梯〟という組織に関する任務に参加すれば、どこかで里冉にも繋がるのではないか、と。
そう思っていた矢先、梯任務にも携わる里直属班・火鼠への配属が楽に言い渡される。
喜ぶ楽の前に現れたのは───────
探していた里冉、その人であった。
そんな突然の再会によって、物語は動き出す。
いきなり梯に遭遇したり、奇妙な苦無を手に入れたり、そしてまた大切な人と再会したり……
これは二人の少年が梯との戦いの最中、忍びとは、忍道とはを探しながらもがき、成長していく物語。
***
現代×忍びの和風ファンタジー創作『紅雨』の本編小説です。
物語の行く末も、紅雨のオタクとして読みたいものを形にするぞ〜〜!と頑張る作者の姿も、どうぞ見届けてやってください。
よろしくお願い致します。
※グロいと感じかねない描写も含むため一応R-15にしています
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる