くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお

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25『してやられる』

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くノ一その一今のうち

25『してやられる』 




「行ってきまーす」「行ってらっしゃい」


 お祖母ちゃんと言葉を交わして玄関を出る。

 三歩で通りに出て左に曲がる。

 お線香の匂いがして、つい「お早うございます」を言いかける。

 筋向いのお爺ちゃんは、仏壇にお線香をたて、リンを鳴らして、ナマンダブを三回唱えるのが朝のルーチン。

 そのあと、郵便受けに新聞を取りに出て、玄関を出たばかりのわたしに「お早う」を言ったり「お早うございます」をこっちから投げかけたり。

 でも、先月、お爺ちゃんは亡くなったので「お早うございます」は言わない。

 それが、つい口をついて出てしまったのは、お線香の匂いがしたからだ。

「お早う、そのちゃん」

 お爺ちゃんの声。

 思わず振り返ると、郵便受けから新聞を取り出しながらお爺ちゃん。

「お早うございます」

 してやられたと思いながらも挨拶が口を突いて出る。

 忍者が変異に出会った時の対応は二つだ。

 さっさと逃げるか調子を合わせるか。

 変異の正体や出方が分からない時は、とりあえず調子を合わせる。

 そして、相手の意図や力を推し量れたところで、次の行動に出る。

 さあ、なにが起こるんだぁ?

 お爺ちゃんは、笑顔一つ残して家の中に入って行った……生きていたときのまんま。

 ハッ

 小さく息を吐いて角を曲がる。

―― このまま事務所に行け ――

 不覚、ブロック塀の上の猫が語りかけてくる。

『なんでですか?』

 猫は課長代理に違いなく、こないだからしてやられっぱなしなので、少しムキになる。

―― その車に乗れ ――

 キーー

 聞く間も無く、スライドドアを開けながらミニバンが横付け。



「全部読まれてるね」



 ハンドル操作をしながら力持ちさん。

「力持ちさんも?」

「ああ、テレビ局に行こうとしたら電話がかかってきた。ソノッチを送り届けたらまあやを迎えに行く。今週のまあや番はわたしがやることになった」

「任務ですか?」

「うん、ソノッチもな、おそらく、事務所全体で対応している。ムカつくくらい機先を制されているからな。わたしらに考える隙を与えない。ソノッチも考えないほうがいい」

「はい」

 それからは沈黙になり、五分余りで丸の内の会社に着いた。



「お早うでござる、そのさん。このまま屋上に参られよ」



 二課のドアを開けると、案内ロボットが真ん前で待っていて、胸のディスプレーに屋上へのルートを表示してくれている。

「了解」

 屋上へは、八階までエレベーターで、そこからは階段だ……で、エレベーターの前で気が付いた「って、ここは八階じゃん」。完全に指示で動くようにならされてしまった。 

 走って階段を上がり、屋上に出る。

 バーーン

 せめての腹いせに、元気よくドアを開ける。

 ウワ

 騒音と激しい風が同時にやってきた。

 バラバラバラバラバラバラバラ!

 目の前にヘリコプター!?

 ガラ

 胴体のドアが開いたかと思うと……わたしが出てきた!

 出てきたわたしは、評判のアクションアニメ『リコリ〇リコイ〇』の制服を着ている。

「お早う、次は、あんたの番ね。頑張って!」

 軽く肩を叩くと、背中のカバンを肩掛けにして階段室に入って行った。

「早く乗って!」

「はい……!?」

 振り返ったヘリコプターの中からは、もう一人のわたしがオイデオイデして急き立てているし……。

 

☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍)
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 
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