上 下
22 / 96

21『ダブルブッキング』

しおりを挟む
くノ一その一今のうち

21『ダブルブッキング』 




 声さえ出さなければソックリ!


 まあやの代役とスタントの仕事は増えてきた。

 それまでは、アップでまあやの演技を撮っていて、そこで倒れるとか落ちるとかの危ない演技になる時は、カメラが切り替わる。

 切り替わって、カメラがロングになったり、後姿になるとかして、倒れるとか落ちるとかする、つまり代役の仕事。

 ところが、ソックリになってきたので、台詞が終わった時に入れ替わって、そのままアップで倒れたり落ちたり。

 昨日なんか、暴漢に火を点けられ、苦しみながら川に飛び込むなんて、忍者でなければ不可能な吹替までやった。


「いやあ、あはは、まあやの人気は天井突き破ってしまったわ!」


 マネージャーさんは手放しの喜びよう。

 金持ちさんに聞いたら「マネージャーのギャラ倍になったそうよ」だった。

 マネージャーのギャラが上がるんなら、むろんまあや本人のギャラも上がってるわけで、当然わたしのギャラも上がるはずで、わたしのギャラが上がれば事務所の収入も増える……ことにはならなかった。

「いやあ、今のところ、そのちゃんのことは秘密だからね。いきなりギャラあげられないのよ、表向きはまあやが自分でやってることになってるから、そのちゃんの立場は付き人兼代役でしかないのよ。へたにギャラに反映させたらさ、ネットの時代でしょ? すぐに足が付いて、そのちゃんの存在に気付かれてしまうからね。いや、ネット民恐るべしなのよ! いずれは、身の立つように考えるって社長も言ってるし、ごめん、もう少し辛抱してね!」

 弱小事務所の駆け出しアルバイトでは、それ以上言うことはできない。

 自分のことはいい。生活費と、お祖母ちゃんに渡すだけのギャラがもらえるんだったらね。

 でも、社長と金持ちさんの期待を裏切ることになるのは辛い。徳川物産に入って、会社の支出は減ったけど収入が増えるわけじゃないからね。

 まあやが気を遣って手を合わせる。

「ごめんねぇ、後でそのちゃんの口座教えて」

「え?」

「わたしのギャラから、いくらかは回せるようにしとくから」

 まあやの嬉しい気遣い。

「それはダメだよ。まあやの口座なんて、全部事務所が把握してる。変なお金の流れとかあったら、すぐに分かってしまう」

 こういうことも金持ちさんから教わっている。お金の流れはクリアーにしておかないと政務署がうるさい。

 今は、ただただ辛抱の時なんだ。仕事自身は十分楽しいしね。



「ごめん、助けると思って『うん!』て言って!」

 

 会うなりマネージャーさん。

「え、どうしたんですか?」

「じつは、ダブルブッキングしてしまって(^皿^;)!」

「ダブルブッキング?」

「うん、吠えよ剣のリハーサルと、一日警察署長の仕事が重なってしまって……」

「え、そんなことってあるんですか?」

「コンピューター管理してるから起きるはずないんだけどね、入力ミスとシステムエラーが重なったとかでね……リハの方を代わってもらうわけにはいかないでしょ?」

 そりゃそうだろ、わたしがリハに行って、まあやが本番だけってやれるわけないし、だいいち声出したらバレバレだし。

「だから、一日署長の方をね……にこやかに手を振ってりゃ済む話だからさ……」

「ウウ……事務所の方には話しといてくださいね」

「もちろん! 任しといて!」

 いっしゅんでマネージャーさんは元気になって、スマホを持って廊下に出て行った。




☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母
百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶
大衆娯楽
女性にとっては普通の毎日のことでも、男性にとっては知らないことばかりかも。 そんな世界を覗いてみてください。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...