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4『その襲名する』

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くノ一その一今のうち

4『その襲名する』 




 目覚めたんだね


 家に帰ると、お祖母ちゃん、ボケの新バージョン……かと思ったよ。

 玄関入ったすぐの所に正座しててさ、ビシッと睨みつけて言うんだもん。

「こっちへおいで」

「あ、まだ晩御飯の用意買ってないし……」

「そんなことはいい……」

 お祖母ちゃんは、普段は使っていない客間兼仏間に、あたしを連れて行くと、お仏壇の前に進んだ。

「ここにお座り」

「う、うん……」

 お仏壇には、すでにお線香の煙が立っていて、昔やったひいばあちゃんの法事みたいな感じ。

 ひょっとして、今からひいばあちゃんの十三回忌? それにしちゃ季節が合わないよ、何月だったか忘れたけど、あれは春だった。やっぱ、まだらボケの新バージョン?

「これを羽織りな」

 え?

 お祖母ちゃんが示したのは、畳んだ黒の着物。

 やっぱ、法事? ひいばあちゃんの七回忌は、お祖母ちゃん黒の紋付、あたしは学校の制服だったし……て、これ紋付じゃないし。丈が短すぎるし。

「ほんとうは、装束一式身に付けなきゃいけないんだけどね、急なことなんで略式だ」

「これは……」

「忍者装束だよ」

「ニンジャショーゾク!?」

「これをご覧」

 お祖母ちゃんが差し出したのは、仏壇の真ん中に安置してある過去帳。子どもの頃から知ってたけど、おどろおどろしいので、マジマジと見たことはない。

 風魔家過去帳……カザマのマの字が違う。うちは風間と書いてカザマだよ。

「風魔とかくのが正式で、読み方はフウマだ」

「フウマ?」

 なんだか不幸な馬を連想してしまった。

「我が家は、風魔小太郎を始祖とする風魔忍者本家。そのは、二十一代目の当主になる」

「ニ十一代目? あたしが!?」

「そうだよ。そもそも風魔流忍術は、舒明天皇の御代の役小角(えんのおづぬ)を開祖とする日本忍者の本流。当主は十三の歳に開眼して忍者道に入るとされている。ひいばあちゃんは、その十三の歳に開眼。わたしは十五の歳。そのの母は開眼することなく大人になってしまい、もはや風魔の流れは途絶えてしまうものと諦めていた……しかし、その、お前は十七歳にして、ようやく目覚めたんだ……」

 え、お祖母ちゃん泣いてるし……ボケの新バージョンにしては凝り過ぎてるし……。

「あのう……だいじょうぶ、お祖母ちゃん?」

「自覚せよ! そなたは、本日ただいまより、風魔忍者本家の当主なるぞ!」

「ヒッ( ゚Д゚)」

「ご先祖様に拝礼!」

「ハ、ハヒ!」

 なんか、すごい迫力、こんなお祖母ちゃん初めてで逆らえないよ。

 チーーン  ナマンダブナマンダブ……。

 五年前の法事を思い出して、殊勝に手を合わせる。

「知らせは受けたが、いちおう確認する」

「なにを?」

「目覚めの証じゃ。昨日は、駅前で猫を助けたのじゃな?」

「え、あ、うん……猫が赤信号で渡ろうとするから、気が付いたらニャンパラリンって感じで」

「ニャンパラリン!?」

 あ、不まじめっぽい?

「えと、口にしたらそんな感じ」

「そうか……そうか……ニャンパラリンは、風魔流跳躍術の掛け声じゃ。隠れていたのじゃのう、その血の内に」

「お祖母ちゃん『じゃ』とか『じゃのう』とか、なんだか成りきっちゃって(^_^;)」

「忍者として語る時は忍者言葉じゃ。そのもおいおい慣れるがよい」

「アハハ……」

「それから?」

「えと、今日は、駅に着いたらゾワってして、ロータリーの歩道歩いてた女の人が――死ぬ――って感じて、すぐにニャンパラリンで書店の壁際に寄せて、それから、屋上に跳んで……」

「ニャンパラリンじゃの」

「う、うん。で、飛び降りかけてた男の子引き倒して、説教した」

「どのように?」

「『このまま飛び降りたら、歩道のオネエサン巻き添えにしてるとこだったよ!』って、で、一発張り倒して『死ぬのは勝手だけど、人の迷惑も考えろ!』って……」

「そうか、でかした」

「でかしたの?」

「ああ、こういう場合、張り倒しておかなければ身にも心にも入らぬものじゃ」

「そうなんだ」

「人の心は聞こえたか?」

 聞かれてハッとした。学校でも、街でもなんか聞こえた、妄想かと思ってたけど。

「妄想ではないぞ」

「あ、いま、あたしの思ったの……」

「そう。こういうことを『読む』という。ん?」

「なに?」

「パンツ、青の縞々だった……助けた男の想念じゃな」

「ああ、それ無し!」

「使いこなせるようにはなってはおらぬが、目覚めの素養としては十分じゃ……では、世襲名を与える」

「セシュウメイ?」

「代々、風魔家の当主が受け継ぐ名前じゃ……今日より、女忍者『ニ十一代目そのいち』と名乗るが良い」

 そのいち……その一……なんだかモブ丸出し。

「不足か?」

「いえいえ(^_^;)」

「『その』とは風魔家の女が代々いただく名前じゃ。わたしがその子、そなたの母はその美」

「あたしは、ただの『その』なんですけど」

「『その』は初代さまの名じゃ。二十一代にわたり、他の字を冠せずに『その』と名乗りしは、初代、十五代、そしてそなたしかおらぬ」

「そ、そうなんだ」

「襲名に当り、これを遣わす」

 なんだか懐から取り出したのは、小汚い石ころ。

「これは、風魔の魔石じゃ。大事大切なものゆえ、めったには、その身から離さぬようにのう」

 石には小さな穴があって、そこから何か聞こえてくるような……思わず耳を寄せる。

 ……………ん?

 とたんに意識がとんでしまった。



☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生
風間 その子       風間そのの祖母
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