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1『風間そのの災難・1』
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くノ一その一今のうち
1『風間そのの災難・1』
うまく言えないけど、普通ってあると思う。
普通の成績とって、普通に進路が決まって、普通に進学だか就職だかして、普通に生きるってこと。
普通に友だちできて普通につきあって、友だちのほとんどは女子で、ちょっとだけ男子の友だちもいて、その男の一人と結婚して……しなくてもいい。見合いでもいいしさ。結婚しても普通に働く。
普通に子育てして、普通に年取っていく。家族葬やれるくらいのお金を残して、風間家先祖代々とかのお墓とかに入って、七回忌ぐらいまで法事やってもらって、十三回忌はうっかり忘れられて、そして無事にご先祖様の端くれになっていく。
そうだよ、ひいばあちゃんの十三回忌、お婆ちゃんうっかり忘れてたもんね。
次は十七回忌だっけ? たぶん忘れる、わたしもお祖母ちゃんも。
でも、まあ、そういうのが普通だと思うから、ひいばあちゃんも草葉の陰で喜んでくれると思うよ。
あたし、普通病かな?
「風間の普通ってよく分からないけど、この成績じゃ難しいぞ」
先生の言うことはもっともだ。もっともなんだけど、もっと早く言ってほしいよ。
秋のクリアランスセールが始まろうかって、この時期に言われても、ちょっち遅いっちゅうの!
まあ、ほっといたわたしも悪いんだけどさ。
春の懇談は、お祖母ちゃん具合悪くて「いつやる?」って、二三度言われてるうちに立ち消えになって、そいで、秋の中間テスト明けの懇談が今日あって。相変わらずお祖母ちゃんは具合悪くって、けっきょく、あたしと先生の二者懇談になって。それくらいなら「春にゆっといて!」なんだけど、そういう文句言わないくらいには普通のJKでもあるわけでさ。
これで、ちょっとスポーツができるとか、歌が上手いとか、ちょっとオーディション受けてみようかとか己惚れるぐらいにルックス良ければ、憂さの晴らしようもあるんだろうけどさ。
体育も音楽も小学以来2ばっか。高一のとき、数少ない友だちのAとBと三人渋谷を歩いてたらスカウトのオネエサンが声かけてきて、あたしはカン無視されてさ。その時は、へんなキャッチセールスと思って三人で逃げたけどさ。
Aはナントカ坂46のハシクレになっちゃうし、ならなかったBも「ほんとのスカウトだったんだねえ!」って声かけてもらったことが勲章だしさ。「Bは、テニス部イノチだから仕方ないよ!」って、なんで、あたしが慰めなきゃならないのさ。そういや、Bは体育大学、推薦でいけるって話だった、慰めて損した!
ウダウダと二者懇談のアレコレ醜く思い出してるうちに電車は駅に着いてしまった。
あ……
エスカレーターに足を掛けようとしたら点検中で停まってる。
仕方がないので、階段…………ウワッ!? ブチュ!
踏み外し、なんとか手摺につかまったら、ちょうど振り返ったオッサンの限りなく唇に近い頬っぺたにキスしてしまった!
「す、すみません(;'∀')!」
エヅキそうになるの堪えて謝る。
「き、気を付けろよ!」
「ほんと、すみません(-_-;)」
事故とは言え、JKがキスしたんだぞ、せめてラッキースケベくらいの反応しろよ、おい、ハンカチでゴシゴシすんなよ。オーディエンスのやつらもクスクス笑うんじゃねえ!
凹みながら改札を出て、駅前のロータリー。
ピシャピシャ頬っぺたを叩いて切り替える。
スマホ出して気分転換……しようと思ったら、信号待ちしてる人たちみんなスマホ見てる。
まあいいか、この瞬間だけでも、ひとり信号を見てるのも、ささやかな気分転換さ!
あれ?
ちょうど、車の流れが途絶えて、横断歩道の向かい側、バカな猫が赤信号を渡ろうとしている。
危ない!
思った時には飛び出していた。
迫る車の直前でバカ猫をキャッチすると、自分でも信じられないくらいの早業で歩道にニャンパラリン!
「きみ、危ないよ!」
お巡りさんが寄ってきて「だいじょうぶ?」も聞かないで頭の上から叱られる。
上からのはず、あたしはバカ猫を抱えたままへたり込んでいる。
「ま、猫は助かりましたから……」
「きみの猫?」
「いいえ、でも、赤で渡っちゃうから、つい必死で」
「猫の命も大事だけど、下手に飛び出したら大事故になるからね」
「はい、すみません」
「まあ、これからは気を付けて。いちおう、学校と住所と名前、聞かせてくれる?」
「え、あ……はい……○○区〇〇町……風間そのです……学校は……」
通りすがりの人たちが――こいつ、なにやらかしたんだ?――と、好奇の目で見ていく。
――家出?――なんか違反?――援交?――被害に遭った?――いや、加害者だろ――ブスだし――
ほんの二三分なんだろうけど、メチャ長かった。
で、やっと解放されたら、バカ猫はとっくに居なくなっていた。
あ~あ~とんだ災難の放課後だった!
1『風間そのの災難・1』
うまく言えないけど、普通ってあると思う。
普通の成績とって、普通に進路が決まって、普通に進学だか就職だかして、普通に生きるってこと。
普通に友だちできて普通につきあって、友だちのほとんどは女子で、ちょっとだけ男子の友だちもいて、その男の一人と結婚して……しなくてもいい。見合いでもいいしさ。結婚しても普通に働く。
普通に子育てして、普通に年取っていく。家族葬やれるくらいのお金を残して、風間家先祖代々とかのお墓とかに入って、七回忌ぐらいまで法事やってもらって、十三回忌はうっかり忘れられて、そして無事にご先祖様の端くれになっていく。
そうだよ、ひいばあちゃんの十三回忌、お婆ちゃんうっかり忘れてたもんね。
次は十七回忌だっけ? たぶん忘れる、わたしもお祖母ちゃんも。
でも、まあ、そういうのが普通だと思うから、ひいばあちゃんも草葉の陰で喜んでくれると思うよ。
あたし、普通病かな?
「風間の普通ってよく分からないけど、この成績じゃ難しいぞ」
先生の言うことはもっともだ。もっともなんだけど、もっと早く言ってほしいよ。
秋のクリアランスセールが始まろうかって、この時期に言われても、ちょっち遅いっちゅうの!
まあ、ほっといたわたしも悪いんだけどさ。
春の懇談は、お祖母ちゃん具合悪くて「いつやる?」って、二三度言われてるうちに立ち消えになって、そいで、秋の中間テスト明けの懇談が今日あって。相変わらずお祖母ちゃんは具合悪くって、けっきょく、あたしと先生の二者懇談になって。それくらいなら「春にゆっといて!」なんだけど、そういう文句言わないくらいには普通のJKでもあるわけでさ。
これで、ちょっとスポーツができるとか、歌が上手いとか、ちょっとオーディション受けてみようかとか己惚れるぐらいにルックス良ければ、憂さの晴らしようもあるんだろうけどさ。
体育も音楽も小学以来2ばっか。高一のとき、数少ない友だちのAとBと三人渋谷を歩いてたらスカウトのオネエサンが声かけてきて、あたしはカン無視されてさ。その時は、へんなキャッチセールスと思って三人で逃げたけどさ。
Aはナントカ坂46のハシクレになっちゃうし、ならなかったBも「ほんとのスカウトだったんだねえ!」って声かけてもらったことが勲章だしさ。「Bは、テニス部イノチだから仕方ないよ!」って、なんで、あたしが慰めなきゃならないのさ。そういや、Bは体育大学、推薦でいけるって話だった、慰めて損した!
ウダウダと二者懇談のアレコレ醜く思い出してるうちに電車は駅に着いてしまった。
あ……
エスカレーターに足を掛けようとしたら点検中で停まってる。
仕方がないので、階段…………ウワッ!? ブチュ!
踏み外し、なんとか手摺につかまったら、ちょうど振り返ったオッサンの限りなく唇に近い頬っぺたにキスしてしまった!
「す、すみません(;'∀')!」
エヅキそうになるの堪えて謝る。
「き、気を付けろよ!」
「ほんと、すみません(-_-;)」
事故とは言え、JKがキスしたんだぞ、せめてラッキースケベくらいの反応しろよ、おい、ハンカチでゴシゴシすんなよ。オーディエンスのやつらもクスクス笑うんじゃねえ!
凹みながら改札を出て、駅前のロータリー。
ピシャピシャ頬っぺたを叩いて切り替える。
スマホ出して気分転換……しようと思ったら、信号待ちしてる人たちみんなスマホ見てる。
まあいいか、この瞬間だけでも、ひとり信号を見てるのも、ささやかな気分転換さ!
あれ?
ちょうど、車の流れが途絶えて、横断歩道の向かい側、バカな猫が赤信号を渡ろうとしている。
危ない!
思った時には飛び出していた。
迫る車の直前でバカ猫をキャッチすると、自分でも信じられないくらいの早業で歩道にニャンパラリン!
「きみ、危ないよ!」
お巡りさんが寄ってきて「だいじょうぶ?」も聞かないで頭の上から叱られる。
上からのはず、あたしはバカ猫を抱えたままへたり込んでいる。
「ま、猫は助かりましたから……」
「きみの猫?」
「いいえ、でも、赤で渡っちゃうから、つい必死で」
「猫の命も大事だけど、下手に飛び出したら大事故になるからね」
「はい、すみません」
「まあ、これからは気を付けて。いちおう、学校と住所と名前、聞かせてくれる?」
「え、あ……はい……○○区〇〇町……風間そのです……学校は……」
通りすがりの人たちが――こいつ、なにやらかしたんだ?――と、好奇の目で見ていく。
――家出?――なんか違反?――援交?――被害に遭った?――いや、加害者だろ――ブスだし――
ほんの二三分なんだろうけど、メチャ長かった。
で、やっと解放されたら、バカ猫はとっくに居なくなっていた。
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