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46『栄光へのダッシュ・2』
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ボクの妹がこんなにニクソイわけがない
46『栄光へのダッシュ・2』
優奈が倒れた。
明後日が本番という稽古中に!
「ゲホ」っと口を押さえた優奈の手に赤いものが溢れ、そのまま前のめりに倒れて意識を失った。
「顔を横向きにしろ、窒息するぞ!」
蟹江先生が、すぐステージに駆け上がり、呼吸と心拍を確かめていた加藤先輩を押しのけた。
「無し無し(無呼吸、無拍動)なんだな!?」
「はい」
「救急車を呼べ!」
そう叫んで蟹江先生は優奈の胸をはだけ、気道を確保すると人工呼吸を始めた。
祐介は、顕わになった優奈の胸にたじろいで目を背ける。
「アホ! こんな時は声をかけてやらなあかんのよ。みんな寄って、声を掛けて、マッサージしてやる!」
加藤先輩が怒鳴り、みんなが優奈の側に寄り、手足をさすりながら声をかけた。
「優奈!」
「優奈先輩!」
「山下優奈!」
蟹江先生と加藤先輩たちの介抱と処置で、優奈は救急隊が到着するころには息を吹き返していた。
「みなさんの素早い処置が適切だったので、脳への障害はありません。声帯と気管を痛めているほかは、全身疲労だけです。とうぶん喉を使わずに安静にしていればいいでしょう」
病院の先生は、本人を勇気づけるために、あえて、優奈の病室でみんなに告げた。しかし、優奈には逆効果であった。
「ダメです……明後日は本番なんです。なんとしても、明後日までには治してください!」
「無理を言っちゃ……!」
優奈は、医者のネクタイを締め上げていた……。
「参加辞退ですか……」
「仕方ないでしょう、ボーカルが倒れちゃったんだから」
「加藤先輩一人じゃだめなんですか?」
「ずっとデュオで練習してきたんや、簡単にソロには戻されへん。それに、バンドの編成もデュオのまんまや……」
ケイオンの全員が集められ、視聴覚教室でミーティングをしたが、結論は参加辞退に傾いていく。あちこちから、すすり泣く声があがった。
いやな沈黙が続いた。
田原先輩が、謙三を促してステージに上がった。
ダダダダ ドゴンドゴン ジャンジャン ドダダダ!
そして、ギターとドラムを即興で、めちゃくちゃに鳴らした。
「景子(加藤先輩の名前)、これで勢いついたやろ。蟹江先生に結論言いに行け!」
「分かった、長いことケイオンやってると、こういうこともあるよ。今度のレッスンで学んだことは、来年、あんたらが活かしたらええ」
「待って下さい」
ドアから出て行こうとした、加藤先輩を幸子が呼び止めた。
「わたしが、代わりにやります」
「……そんな、サッチャンが出たら審査対象外やで」
「対象外でもいいじゃないですか。たとえ審査対象外でも、演奏すればスピリットは通じます。わたしたちが血を吐く思いでつかみ取ったメッセージを、みんなに伝えようじゃないですか!」
「メッセージ……」
「スピリット……」
「ようし、それでええ。賞がなんぼのもんじゃ。予定通り参加や!」
蟹江先生が、入ってきてガッツポーズを決めた。
「桃畑中佐から、極東戦争当時の戦闘服借りてきた。みんな、これ着て、本番の舞台に立て!」
「ウオー!」
メンバーから、どよめきが起こった。
「ボーカルは、元祖オモクロのステージ衣装貸してもろた、せいだいがんばれ!」
この開き直りの出場は、マスコミやネットを通じて、その日の内に世界中に広まった。
火付け役は、お馴染みナニワテレビのセリナさんだ。急遽、プロで人気上昇中の幸子が出るので、予備の座席200が追加された。
その日、家に帰ると、チサちゃんが玄関で待ち受けていた。
「すごいわよ、ネットが炎上してる!」
幸子のブログは、大会参加を祝するコメントであふれかえっていた。むろん中には人の不幸を利用した売名行為であると非難するものもあったが、大半の賛成派と、ネット上で大論争になっていた。
「むかし、キンタローがデビューしたとき以来のブログ炎上ね!」
お母さんまで興奮していた。幸子も面白がっていたが、プログラムモードである。
「これで、良かったとは思えない」
あとで、幸子の部屋に行ったとき、幸子はニュートラルモードで、冷ややかにニクソクつぶやいた。
「……幸子は、複雑だな」
精一杯の皮肉を言ってやると、ドアホンを兼ねているハナちゃんが来客がきたことを告げた。
ドアをあけると、ねねちゃんが立っていた……。
46『栄光へのダッシュ・2』
優奈が倒れた。
明後日が本番という稽古中に!
「ゲホ」っと口を押さえた優奈の手に赤いものが溢れ、そのまま前のめりに倒れて意識を失った。
「顔を横向きにしろ、窒息するぞ!」
蟹江先生が、すぐステージに駆け上がり、呼吸と心拍を確かめていた加藤先輩を押しのけた。
「無し無し(無呼吸、無拍動)なんだな!?」
「はい」
「救急車を呼べ!」
そう叫んで蟹江先生は優奈の胸をはだけ、気道を確保すると人工呼吸を始めた。
祐介は、顕わになった優奈の胸にたじろいで目を背ける。
「アホ! こんな時は声をかけてやらなあかんのよ。みんな寄って、声を掛けて、マッサージしてやる!」
加藤先輩が怒鳴り、みんなが優奈の側に寄り、手足をさすりながら声をかけた。
「優奈!」
「優奈先輩!」
「山下優奈!」
蟹江先生と加藤先輩たちの介抱と処置で、優奈は救急隊が到着するころには息を吹き返していた。
「みなさんの素早い処置が適切だったので、脳への障害はありません。声帯と気管を痛めているほかは、全身疲労だけです。とうぶん喉を使わずに安静にしていればいいでしょう」
病院の先生は、本人を勇気づけるために、あえて、優奈の病室でみんなに告げた。しかし、優奈には逆効果であった。
「ダメです……明後日は本番なんです。なんとしても、明後日までには治してください!」
「無理を言っちゃ……!」
優奈は、医者のネクタイを締め上げていた……。
「参加辞退ですか……」
「仕方ないでしょう、ボーカルが倒れちゃったんだから」
「加藤先輩一人じゃだめなんですか?」
「ずっとデュオで練習してきたんや、簡単にソロには戻されへん。それに、バンドの編成もデュオのまんまや……」
ケイオンの全員が集められ、視聴覚教室でミーティングをしたが、結論は参加辞退に傾いていく。あちこちから、すすり泣く声があがった。
いやな沈黙が続いた。
田原先輩が、謙三を促してステージに上がった。
ダダダダ ドゴンドゴン ジャンジャン ドダダダ!
そして、ギターとドラムを即興で、めちゃくちゃに鳴らした。
「景子(加藤先輩の名前)、これで勢いついたやろ。蟹江先生に結論言いに行け!」
「分かった、長いことケイオンやってると、こういうこともあるよ。今度のレッスンで学んだことは、来年、あんたらが活かしたらええ」
「待って下さい」
ドアから出て行こうとした、加藤先輩を幸子が呼び止めた。
「わたしが、代わりにやります」
「……そんな、サッチャンが出たら審査対象外やで」
「対象外でもいいじゃないですか。たとえ審査対象外でも、演奏すればスピリットは通じます。わたしたちが血を吐く思いでつかみ取ったメッセージを、みんなに伝えようじゃないですか!」
「メッセージ……」
「スピリット……」
「ようし、それでええ。賞がなんぼのもんじゃ。予定通り参加や!」
蟹江先生が、入ってきてガッツポーズを決めた。
「桃畑中佐から、極東戦争当時の戦闘服借りてきた。みんな、これ着て、本番の舞台に立て!」
「ウオー!」
メンバーから、どよめきが起こった。
「ボーカルは、元祖オモクロのステージ衣装貸してもろた、せいだいがんばれ!」
この開き直りの出場は、マスコミやネットを通じて、その日の内に世界中に広まった。
火付け役は、お馴染みナニワテレビのセリナさんだ。急遽、プロで人気上昇中の幸子が出るので、予備の座席200が追加された。
その日、家に帰ると、チサちゃんが玄関で待ち受けていた。
「すごいわよ、ネットが炎上してる!」
幸子のブログは、大会参加を祝するコメントであふれかえっていた。むろん中には人の不幸を利用した売名行為であると非難するものもあったが、大半の賛成派と、ネット上で大論争になっていた。
「むかし、キンタローがデビューしたとき以来のブログ炎上ね!」
お母さんまで興奮していた。幸子も面白がっていたが、プログラムモードである。
「これで、良かったとは思えない」
あとで、幸子の部屋に行ったとき、幸子はニュートラルモードで、冷ややかにニクソクつぶやいた。
「……幸子は、複雑だな」
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ドアをあけると、ねねちゃんが立っていた……。
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