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86〔事故のあくる日〕

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明神男坂のぼりたい

86〔事故のあくる日〕 

        

 死者こそなかったけど、重傷二人軽傷者八人の大事故だった!

 あの時、あたしの靴紐が切れてなかったら確実に巻き込まれていた。

 重傷の人は、あたしたちの直ぐ後ろを歩いていて、あたしが靴紐直そうとしてしゃがみ込んだところを追い越して前に出たサラリーマンの二人。

 あたしもカヨちゃんも、しばらく動けなかった。


 ほんのちょっとした運命のイタズラで二人は助かった。

 そして目の前で血を流して倒れてる人たち。


 警察を呼ぶ声! 救急車を呼ぶ声! 倒れてる人たちを励ます声! 

 あたりは騒然とした。

 そして、警察と救急車とマスコミが同時に来た……。


 あくる朝、お母さんに言われて気が付いた。10人も犠牲者が出たので、ニュースは全国ネットで流れた。なんとスンデのとこで巻き込まれそうになった代表みたいに、あたしとカヨさんがニュースに出てたらしい。それもモザイクなしで。

 覚えてなかった。とにかく、足が震えて、その場を動けなかったところに、ワヤワヤと人が寄ってきたぐらいの記憶しか無かった。

 けっこう喋ってた。事故や、事故前の様子。そして、自分たちがAKR47の研究生だということを……。

「カヨちゃん、覚えてた!?」

 朝だけど、カヨやんに電話した。

『え、アスカ覚えてないの? テレビのインタビュー受ける前に、事務所に電話して許可もらったのアスカだよ』

 電話を切ると、今度はお父さん。

「おい、明日香、三面のトップだぞ『またしても脱法ハーブの惨禍! AKRメンバー危うく難を逃れる!』」

 そのあと、やったことと思ったことは二つだった。

――あれ、助けてくれたの、さつき?――

――感謝しろよ……と言いたいところだけど。あたしにも分からん。出雲阿国じゃないかな?――

 で、カヨちゃんにメールで聞いたら「阿国もさつきさんじゃないかって」と返ってきた。偶然なのか、あたしたちの運の良さなのか……?

 そして、学校に着いてからが大変だった。

「そういう進路にかかわることは、早く、担任に言え!」

 と、ガンダム。

「鈴木さんには幸運の女神さまが付いてるんだわ!」

 宇賀先生は喜んでくれたけど、先生の傷を思ったら複雑な気持ち。

「なんで、アスカは言わないのかな!」

 これは、美枝とゆかり。

「アスカ、アイドルなんだね。事故とスキャンダルはスターの条件だからね!」

 この変な励ましは麻友。

 みんなの質問に共通してたのは、なんでAKR47のこと黙ってたか。

「やっぱり、言っちゃダメってことになってるんでしょ?」「明日香の奥ゆかしいとこなんだな!」「もう、選抜になるんだろ?」

 と、いろいろ言ってくる。

 そういうわけじゃない。

 ガンダムに進路選択迫られて、いろいろ体験入学やら申し込んでる中に、AKRがあっただけ。あたしは、どうも人からズレてる、外れてると自覚。

 関根先輩からも――がんばってんだな。今度のことは無事でなにより!――というメールが来た。

 お礼のメールは打っといたけど、それだけ。


 ただね、あくる日は、日ごろ無信心な両親が「明神様にお礼に行こう」と言って、三人で男坂上れたのは嬉しかった。

 巫女さんが恥ずかしそうな顔して「サインもらっていいかなあ」と迫ってきたのにはビックリ。そんでもって「あ、これ社務所のみんなから」と御守りのプレゼント。

「あ、こういうものは身銭切らなきゃ効き目が無いぞ!」

 お父さんは、そう言うんだけど「いえ、これは気持ちですから(^_^;)」と巫女さん。

「じゃ、改めてお賽銭に!」

 お母さんは、なんと諭吉を賽銭箱に投げ込んだ!

 でもって、三人で鳥居横のだんご屋さんに行った。

 ここでも、だんご屋のおばちゃんが我がことのように喜んでくれる。

「ほんと、やっぱり日ごろの信心だねえ、いやあ、男坂をヨチヨチ上がってた子が、こんなに立派になってえ……ねえ、総代さん、明日香ちゃんの応援団つくろうよ!」

 ちょうど居合わせた氏子総代さんに話を持ち掛ける。

 配膳してくれたのはさつきともう一人の新人さん。

 きれいな子だ……

 バシ!

 思わず呟いた亭主をお母さんが張り倒す。

 プっと噴き出す新人さん。

「お国ちゃん」

 さつきがたしなめるので、思わず新人さんを見ると、新人さんの名札には『出雲』とあった。

 
 今日は、あたしの苦手なリズムのレッスンがある。

 タ タン タ タン タン タン………タ タン タ タン タン タン………ムズ!

 五拍子のリズムなんか、だれが作ったんだ! そう思いながらも、歩きながらリズムをとる明日香でありました!
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