上 下
79 / 109

79〔麻友の機嫌が悪い……〕

しおりを挟む
明神男坂のぼりたい

79〔麻友の機嫌が悪い……〕 

        


 おはようというとスマホが飛んできた!

 とっさに「なにをもったいない!」と、真剣スマホどり。

「どうしたの?」


 反射的に声をかける。教室の空気が割れかけのガラスみたいになってる。

 新垣麻友が泣き崩れて、副委員長の南ラファがなだめ、他の者は凍り付いている。


――なかなかの呼吸だ――と、だんご屋定休日のさつきが合いの手を入れる。


「スマホにあたってもラチあかないよ。南さんの?」

「ううん、麻友の。スマホの画面見て」


 友だちの麻友とは言え、人のスマホ――いいの?――という気持ちで麻友に目線を送る。泣いてるけど否定しないということは承諾のサイン。画面にはウィキペディアの「渋谷カーニバル」の項目が出てた。5秒で読んで意味が分かった。

―― 毎年10月に、渋谷で開かれていた『渋谷フェスティバル』のイベント。今年度は中止の方向 ――

「ああ、そうなんだ……」

 関係機関の財政難と道路工事の関係やら諸般の事情で今年度の開催は見送られたと書いてある。

 思い出した、渋谷フェスティバルは、前の都知事のころに廃止になっていた。今はパレードのカーニバルだけが残っていた。あたしも小さいころに保育所の仲間と観に行ったことがある。もっともマナブくん(関根先輩)のことが気になって、パレードそのものは、よく見てない。

 お祭りというと神田明神が頭にあるから。廃止になったことも、よく覚えてなかった。

 そして、もう一つ思い出した。一昨日のプールの更衣室で「今年の渋谷カーニバルには出るから、観に来てよ!」言ってたことを。

 麻友は、パッと見では清楚な女子高生だけど、中身はバリバリのラテン系。一昨日のプールでは、いかんなく、そのラテンぶりを発揮していた。

「そうだ、こういうイベントって、あちこちでやってるから問い合わせてみたら?」

 登校してきた美枝が気を利かして提案した。

「ありがとう、みんな。あたしの発作的なカーニバル熱に付き合ってくれて」

 朝礼が始まるころには、さすがに麻友は落ち着いた。だけど納得したわけじゃない。クラスのみんなの友情的な対応が麻友を落ち着かせたんだ。

 麻友応援活動は、一時間目後の休憩時間に検索したり問い合わせたりするとこから始まった。

 結論はすぐに出た。

「東京近辺は見当たらないねえ」美枝が冷静な声で言った。こういう手配と、行動力は美枝が、やっぱり一番。ラブホのときもそうだったしね。

 麻友は、表面張力ギリギリのとこで、自分を保ってた。なんとかしてあげなきゃ!

「そうだ、人がしてくれないんだったら、あたしたちでやればいいんだ!」

 美枝が飛躍した……。

 うまい具合に二時間目の先生が来るのが5分遅れたので、南ラファと中尾美枝の二人が教壇に立って決めてしまった。

「文化祭でリオのカーニバルやろ!」

 勢いというのは恐ろしいもので、その場の熱気で決まってしまった。あたしたちの2年3組は全校で一番早く文化祭の取り組みが決まってしまった。まだ、文化祭の公示も始まってないのに!

 家に帰ってから、小さな疑問が湧いた。

 麻友のサンバ好きはよく分かる。なんといってもブラジルの子だしね。そのわりにはサッカーに興味が無い。こないだから始まってるワールドカップも、あの子の口からサッカーの話題が出たことがないよ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

デブよ、さらば!

daisysacky
ライト文芸
30代、子持ち。パートタイマー空美。毎朝、体重計にのっては、タメ息。このところ、増加傾向のこの体! どうにかせねば! と、悪戦苦闘するも、そうは問屋が下ろさない。はてさて、彼女の運命やいかに!

朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】

桜月真澄
ライト文芸
第三話『甦るは深き記憶の傷』の続編です。 +++ 朧咲夜 Oborosakuya 第四話 +++ 同じ気持ちで流夜と恋人同士になった咲桜。 龍生に呼ばれて向かった『白』では降渡がとんでもないことになっていて……!? 幼馴染から恋人になった笑満と遙音も、過去の事件にからめとられて、付き合いを家族に打ち明けられないでいる……。 頼が作った部活は果たして機能しているのか! ――二人の恋、禁断で終わらない?―― +++ 教師×生徒 +++ 華取咲桜 Katori Sao 特技は家事全般。 黒髪の大人びた容姿。出生に秘密を抱える。   神宮流夜 Zingu Ryuya 穏やかで優しい神宮先生。 素の顔は危ないことにくびを突っ込んでいる人。 眼鏡で素顔を隠してます。 結構頓珍漢。 夏島遙音 Natusima Haruoto 咲桜たちの一個先輩で、流夜たちと面識あり。 藤城学園の首席。 松生笑満 Matsuo Emi 咲桜、頼とは小学校からの友達。 遙音と恋人同士に。 日義頼 Hiyoshi Rai 年中寝ている一年首席。 咲桜にはやけに執着しているよう。 春芽吹雪 Kasuga Fuyuki 流夜の幼馴染の一人。 愛子の甥で、美人系な男性。 腹黒。 雲居降渡 Kumoi Furuto 流夜の幼馴染の一人。 流夜と吹雪曰く、不良探偵。 華取在義 Katori Ariyoshi 咲桜の父。男手ひとつで咲桜を育てている。 異端の刑事にして県警本部長。 春芽愛子 Kasuga Manako 在義の元部下。警視庁キャリア組。 色々と企む。先輩の在義は常に被害者。 二宮龍生 Ninomiya Ryusei 在義の相棒。 流夜たちの育ての親。 朝間夜々子 Asama Yayako 咲桜の隣の家のおねえさん。 在義の幼馴染で「在義兄さん」と慕う。 藤城学園の保健医。 宮寺琉奏 Guzi Rukana 遺伝子研究をしていて、母校である藤城学園に特別講師として呼ばれた。 後、非常勤講師となる。 諏訪山絆 Suwayama Kizuna 流夜たちの高校時代の先輩。 現在弁護士見習い。 降渡の恋人? 大和斎月 ??? +++ 2022.4.6~5.7 Sakuragi presents

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

経済力だけでもチート過ぎる件

桐生彩音
ライト文芸
 僕は死にました。長い闘病生活も虚しく、この世を去ることになりました。たとえずっとベッドの上で、時間の大半をゲームに費やした人生だったとしても、たった一つの後悔以外には、何の未練もありません。  ただ……僕にとって、その未練はどうしても晴らしたいものでした。 「……ゲームに費やした時間を取り戻したい! その十分の一でもいいから、もっと生きたかった!」  もう少し時間があれば、僕の描いた空想を漫画や小説にできた、僕の……生きた証が残せたというのに、人生は無情にも終了してしまいました。  別にゲーム自体が無益だと考えているわけじゃないです。動けない身体の代わりに、空想上だけでも運動することだってできたのですから。  でも……僕はただゲームをプレイしただけ、漫画や小説を読んでいただけ、じっと画面を観ていただけで、何も生み出してきませんでした。 『――ならば、取引をしませんか?』  薄れゆく意識の中、僕に話し掛けてくる『声』がありました。 (あなたは誰ですか?)  そう問い掛ける僕に、その無機質な『声』はただ、『神でも仏でも悪魔でも、好きに呼んで下さい』と返してきました。 『――あなたを過去へと飛ばします。あなたがゲームで培った『もの』、その全てと共に』  それが最初、どういうことなのかは分かりませんでした。しかしその『声』に、僕は藁にも縋る思いで答えました。 (お願いします……)  と。 『――分かりました。では目的の為に、よろしくお願いいたします』  そして消えゆく意識の中、僕はふと、その『声』に尋ねました。 (ところで……僕は何をすればいいのでしょうか?) 『――あなたに果たして欲しい目的はただ一つ……』  その『声』を最期に、僕は過去へと飛び立ちました。 『――どんな手段を用いても構いません。世界の未来の為に……映画上映中にスマホを点けたら死罪となる法案を、絶対に可決させて下さいっ!』  この時、一生をベッドの上で過ごした僕には……映画館が『未知の施設』から『化け物の巣』という認識に変わりました。 R15版 同時掲載『カクヨム様』 『この物語はフィクションであり、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在するものとは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

桜の華 ― *艶やかに舞う* ―

設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が 桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。 学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの 幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。 お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして 自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを 仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。 異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは はたして―――彼に届くのだろうか? そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。 夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、 夫を許せる日は来るのだろうか? ――――――――――――――――――――――― 2024.6.1~2024.6.5 ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。 執筆開始 2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ ❦イラストは、AI生成画像自作

こちら京都府警騎馬隊本部~私達が乗るのはお馬さんです

鏡野ゆう
ライト文芸
ここにいるおまわりさん達が乗るのは、パトカーでも白バイでもなくお馬さんです。 京都府警騎馬隊に配属になった新米警察官と新米お馬さんのお話。 ※このお話はフィクションです。実在の京都府警察騎馬隊とは何ら関係はございません※ ※カクヨム、小説家になろうでも公開中※

告げられない想い

切愛
ライト文芸
「この恋は、きっと許されない」 僕はあくまで彼女の御目付け役なんだ 彼女はあくまで一国の姫なんだ ―――だからこんな想い、抱いちゃいけないんだ。

タコヤキ

えんがわ
ライト文芸
タコヤキ、焼きたて。 どうか、冷めないで。

処理中です...