77 / 109
77〔そう言われても……〕
しおりを挟む
明神男坂のぼりたい
77〔そう言われても……〕
これで四冊目……。
大学の入学案内。
「明日香が、行きたいって言うからよ」
ブスっとしていたら、お母さんに苦い顔された。
元はと言えば、あたしが悪い。
先週の懇談で「演劇やりたいです」なんて、苦し紛れに言うたもんだから、お父さんとお母さんが相談して、あちこちの演劇科のある大学から入学案内を取り寄せたんだ。それもネットで申し込むもんだから、あたしは、ほんと寝耳にミミズ……ミスタッチ。寝耳に水です。
「OG大学……KI大学……KZ大学……OS大学」
「こんなんも来てるぞ」
「ゲ……!」
大手劇団の研究生募集のプリントアウトしたやつが三枚。
「まあ、なにも、この中から決めなさいってことじゃないわよ。懇談のあと、明日香がなんにもしないで、紫陽花がドータラ、ウンコ踏んでコータラて、全然その気になってないみたいだから、刺激を与えるつもりで取り寄せたものだから、気楽に見ればいいよ」
と、母上はおっしゃる。
仕方ないんで、三階の自分の部屋に戻って、パラパラとめくってみる。
――豪華講師陣!――
――舞台で、もう一人の自分を見つけよう!――
――ここに、君の新世界!――
――人生の第一幕が、今始まる!――
四冊目で嫌になった。
考えてみなくても分かる。この四大学の定員合わせただけで1000人は超える。それに大学は四年制。つまり、入学しても、先輩が同じ数だけ居て、他の短大やら専門学校、劇団の養成所あわせたら、もう自宅通学可能な範囲の中だけでも10000人近い演劇科の学生やら研究生が居る。
これだけの需要が、この業界には無い。絶対!
プロでやっていけるのは、まあアルバイトみたいなのも含めて一割。専業でやれるのは……考えただけで恐ろしくなる。
「ビビっとるだけじゃ、いつまでたっても決心できないぞ」
寝るとき以外は上がってこないお父さんが、いつの間にか後ろに立ってる。
「人生と言うのは、石橋叩いていくもんじゃない。その時その時の出来心で分岐していくんだ。ま、明日香には、めったに人生訓めいたことは言わないけど、人生はやって失敗した後悔よりも、やらなかった後悔の方が大きい……と言うな」「そう言われても……」
「人生は短いぞ。こないだ女子高生だと思ってたのが、いつのまにか還暦前のオバハンだ」
ハックション! 二階のリビングで、お母さんがクシャミをした。
「まあ、ゆっくり考え……言っても秋の進路選択には決めなきゃだけどな……」
それだけ言って、お父さんは下に降りて行った。
―― 楽しい選択ではないか、命がかかってるわけじゃなし、ちょっとでもやりたかったら飛び込んでみろ ――
さつきも勝手なことを言う。
確かに、おとうさんの言うことにも一理ある。生まれて、まだ17年と2か月の人生だけど、思い返すと小学校、保育所の時代なんか、ついこないだだった。
関根先輩のことも頭に浮かぶ。関根先輩の気持ちが揺れてるのは、あたしの錯覚だけではないと思う。そうでなきゃ呼びもしないのに運動会観にきたりしないだろ。麻友に鼻の下伸ばしたのも照れ隠し。踏み切れないのは、あたしの方かもしれない。
ちがう、あたしの進路のことだ。
確かに、コンクール出た時も、他の学校の子は大根だった。舞台で、その場所に立ってるということは、みんな役として理由か目的があるからだ。台詞は思考や行動の結果で、演技で一番大切なのは対象を、ちゃんと見て聞くこと。その結果自然に台詞が出てくるまで読み込んで演りこまなきゃならない。
ダメ、今は自分のことだ。
「明日香、こんなのきたぞ!」
また、お父さん。今度はプリントアウトした紙一枚。
読んでびっくりした!
それは、AKR47の書類選考合格の書類だった……。
77〔そう言われても……〕
これで四冊目……。
大学の入学案内。
「明日香が、行きたいって言うからよ」
ブスっとしていたら、お母さんに苦い顔された。
元はと言えば、あたしが悪い。
先週の懇談で「演劇やりたいです」なんて、苦し紛れに言うたもんだから、お父さんとお母さんが相談して、あちこちの演劇科のある大学から入学案内を取り寄せたんだ。それもネットで申し込むもんだから、あたしは、ほんと寝耳にミミズ……ミスタッチ。寝耳に水です。
「OG大学……KI大学……KZ大学……OS大学」
「こんなんも来てるぞ」
「ゲ……!」
大手劇団の研究生募集のプリントアウトしたやつが三枚。
「まあ、なにも、この中から決めなさいってことじゃないわよ。懇談のあと、明日香がなんにもしないで、紫陽花がドータラ、ウンコ踏んでコータラて、全然その気になってないみたいだから、刺激を与えるつもりで取り寄せたものだから、気楽に見ればいいよ」
と、母上はおっしゃる。
仕方ないんで、三階の自分の部屋に戻って、パラパラとめくってみる。
――豪華講師陣!――
――舞台で、もう一人の自分を見つけよう!――
――ここに、君の新世界!――
――人生の第一幕が、今始まる!――
四冊目で嫌になった。
考えてみなくても分かる。この四大学の定員合わせただけで1000人は超える。それに大学は四年制。つまり、入学しても、先輩が同じ数だけ居て、他の短大やら専門学校、劇団の養成所あわせたら、もう自宅通学可能な範囲の中だけでも10000人近い演劇科の学生やら研究生が居る。
これだけの需要が、この業界には無い。絶対!
プロでやっていけるのは、まあアルバイトみたいなのも含めて一割。専業でやれるのは……考えただけで恐ろしくなる。
「ビビっとるだけじゃ、いつまでたっても決心できないぞ」
寝るとき以外は上がってこないお父さんが、いつの間にか後ろに立ってる。
「人生と言うのは、石橋叩いていくもんじゃない。その時その時の出来心で分岐していくんだ。ま、明日香には、めったに人生訓めいたことは言わないけど、人生はやって失敗した後悔よりも、やらなかった後悔の方が大きい……と言うな」「そう言われても……」
「人生は短いぞ。こないだ女子高生だと思ってたのが、いつのまにか還暦前のオバハンだ」
ハックション! 二階のリビングで、お母さんがクシャミをした。
「まあ、ゆっくり考え……言っても秋の進路選択には決めなきゃだけどな……」
それだけ言って、お父さんは下に降りて行った。
―― 楽しい選択ではないか、命がかかってるわけじゃなし、ちょっとでもやりたかったら飛び込んでみろ ――
さつきも勝手なことを言う。
確かに、おとうさんの言うことにも一理ある。生まれて、まだ17年と2か月の人生だけど、思い返すと小学校、保育所の時代なんか、ついこないだだった。
関根先輩のことも頭に浮かぶ。関根先輩の気持ちが揺れてるのは、あたしの錯覚だけではないと思う。そうでなきゃ呼びもしないのに運動会観にきたりしないだろ。麻友に鼻の下伸ばしたのも照れ隠し。踏み切れないのは、あたしの方かもしれない。
ちがう、あたしの進路のことだ。
確かに、コンクール出た時も、他の学校の子は大根だった。舞台で、その場所に立ってるということは、みんな役として理由か目的があるからだ。台詞は思考や行動の結果で、演技で一番大切なのは対象を、ちゃんと見て聞くこと。その結果自然に台詞が出てくるまで読み込んで演りこまなきゃならない。
ダメ、今は自分のことだ。
「明日香、こんなのきたぞ!」
また、お父さん。今度はプリントアウトした紙一枚。
読んでびっくりした!
それは、AKR47の書類選考合格の書類だった……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
訳ありニートと同居ドール
九条りりあ
ライト文芸
仕事を辞めて半年、目標もなく、目的もなく、生きがいもなく、ただ日々を過ごしていた小野寺理子。そんなある日、彼女は一軒の喫茶店に迷い込む。その店の店主から一体の亜麻栗色の髪に空色の瞳を携えた美しい人形を一体譲り受ける。その人形はただの人形ではなく、人の想いの込められた同居ドールであった。過去に暗くて辛いトラウマを抱えただ無意味に日々を送っていた彼女の前に現れた優しい同居ドールとの優しくて暖かく、そして少し切ない恋の物語。
同居ドールと暮らすうえで守らなければならないことは一つだけ。
『主人』と『同居ドール』、それ以上の感情をもってはいけない。
桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が
桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。
学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの
幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。
お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして
自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを
仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。
異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは
はたして―――彼に届くのだろうか?
そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。
夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、
夫を許せる日は来るのだろうか?
―――――――――――――――――――――――
2024.6.1~2024.6.5
ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。
執筆開始
2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ
❦イラストは、AI生成画像自作
朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】
桜月真澄
ライト文芸
第三話『甦るは深き記憶の傷』の続編です。
+++
朧咲夜
Oborosakuya
第四話
+++
同じ気持ちで流夜と恋人同士になった咲桜。
龍生に呼ばれて向かった『白』では降渡がとんでもないことになっていて……!?
幼馴染から恋人になった笑満と遙音も、過去の事件にからめとられて、付き合いを家族に打ち明けられないでいる……。
頼が作った部活は果たして機能しているのか!
――二人の恋、禁断で終わらない?――
+++
教師×生徒
+++
華取咲桜
Katori Sao
特技は家事全般。
黒髪の大人びた容姿。出生に秘密を抱える。
神宮流夜
Zingu Ryuya
穏やかで優しい神宮先生。
素の顔は危ないことにくびを突っ込んでいる人。
眼鏡で素顔を隠してます。
結構頓珍漢。
夏島遙音
Natusima Haruoto
咲桜たちの一個先輩で、流夜たちと面識あり。
藤城学園の首席。
松生笑満
Matsuo Emi
咲桜、頼とは小学校からの友達。
遙音と恋人同士に。
日義頼
Hiyoshi Rai
年中寝ている一年首席。
咲桜にはやけに執着しているよう。
春芽吹雪
Kasuga Fuyuki
流夜の幼馴染の一人。
愛子の甥で、美人系な男性。
腹黒。
雲居降渡
Kumoi Furuto
流夜の幼馴染の一人。
流夜と吹雪曰く、不良探偵。
華取在義
Katori Ariyoshi
咲桜の父。男手ひとつで咲桜を育てている。
異端の刑事にして県警本部長。
春芽愛子
Kasuga Manako
在義の元部下。警視庁キャリア組。
色々と企む。先輩の在義は常に被害者。
二宮龍生
Ninomiya Ryusei
在義の相棒。
流夜たちの育ての親。
朝間夜々子
Asama Yayako
咲桜の隣の家のおねえさん。
在義の幼馴染で「在義兄さん」と慕う。
藤城学園の保健医。
宮寺琉奏
Guzi Rukana
遺伝子研究をしていて、母校である藤城学園に特別講師として呼ばれた。
後、非常勤講師となる。
諏訪山絆
Suwayama Kizuna
流夜たちの高校時代の先輩。
現在弁護士見習い。
降渡の恋人?
大和斎月
???
+++
2022.4.6~5.7
Sakuragi presents
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる