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63〔明神女坂〕
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明神男坂のぼりたい
63〔明神女坂〕
遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えただろうと思う。
明日は日曜という中間テストの中休み、わたしと美枝は誘いあって、外堀通りをお茶の水に向かって歩いている。
季節はとっくに終わって、沿道は葉桜の満開。誰かが植えたのか自生してるものなのか、あちこちムレるようにいろんな花も咲いている。ムレるは群れると蒸れるのかけ言葉。って、説明したら意味ないか。
五月の花って生き物の匂い。ちょっと生々しすぎると感じる。
あたしの話は他愛なかった。総合理科のテストがガタガタだったとかの自業自得的な話。
それに合わせて、美枝もネトフリで見たおバカな映画の話とかしてたんだけど、ちょっとした間があって、シビアな話になったのは、精力の強すぎる花たちの匂いのせいかもしれない。
学校を辞めるかもしれないという話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。
義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。
美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしまった。家族仲良くなれるために、両親はお誕生会やったり家族旅行を企画したりしてくれた。
で、二人ともいい子だから、仲のいい兄妹を演じてきた。
それが、いつの間にか男と女として意識するようになってしまった。
「わたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言ったんだ。お誕生会やったあと『美枝にプレゼント買ってやるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。お店二三件見て、大学生としては、ほどほどのアクセ買ってくれた……」
「美枝、ちょっとお茶でも飲んでかえろうぜ」
「うん(^▽^)」
あたしは気軽に返事した。
「渋谷の雰囲気のいい紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。あたしら座ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんだ。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思わなかった」
「16って言ったら、親の承諾があったら結婚できる歳だな」
「ほんと? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」
それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話して。そしたら、急に二人とも黙ってしまって、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろくって、目を見て笑ってしまった。あたしは妹の顔に戻って話しよう思ったら、お兄ちゃんが言うの『美枝。オレは美枝のことが好きだ』」
言葉の響きで分かった。妹としてじゃないことが。
「……それは、ちょっとまずいんじゃない。兄妹だし」
なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言ってしまった。
「義理の兄妹は結婚できる」
「え……」
頭がカッとして、なんにも言えなかった。
それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしまった。
「連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったじゃんか。あれ、下見。明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないものにしたかった」
「そんなことして、高校はどうするつもりだったの?」
「どうにでもなる。出産前の三カ月は学校休む」
「え……ええええ!?」
バナナの皮を踏んだわけでもないのに、ひっくり返りそうになった。
「よその学校の例を調べたの。在学中の妊娠出産はけっこうあるんだ。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どうにでもなる。そのことを理由に退学はできないんだ」
「そんなに、うまいこといく?」
「ダメだったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」
「ゆ、ゆかりは、知ってんの?」
美枝の固い決心に、言葉が無くって、あたしはゆかりのことを持ち出した。
「ゆかりは、反対。でも自信がないから、明日香に相談……ごめん、ちょっと整理つかなくって」
「整理つかないだろうね」
あとの言葉が続かなくって、気が付いたら昌平橋まで出てしまった。
「ねえ、神田明神にお参りしていこ、整理つかないままでいいから、いろいろお願いしてみるのがいいと思う」
「うん、そうね」
ここからだと、男坂上って行くことになるんだけど、家の前通りたくなかったので、手前の、普段はめったに通らない坂道を上る。
「へえ、明神女坂てのもあるんだね!」
美枝は面白がってくれたので、そのまま勢いつけていけた。
「えと、正式なお作法ってあるんだよね」
町内のお年寄りが慇懃に参拝してるのを見て、ちょっとたじろぐ美枝。
「任せなよ、あたしの真似すればいいから」
「うん!」
二礼二拍手一礼のお作法と、柏手の打ち方をきれいに決めてやる。
「おお!」
感動の声をあげる美枝。
視界の端に、ニコニコ微笑む巫女さんの姿が見えて、授与所でお守りを買う。
「わ、こんなに種類があるんだね!」
美枝は、ちょっと迷って『勝守(かちまもり)』を買った。
「渋いね、これ、ここにしかないんだよ」
「え、そうなんだ!」
「うん、幸先いいかもよ」
そう言うと、美枝はポッと頬を染めた。
なんか、むちゃくちゃいじらしく思えて、なんかグッとせき上げてきて、泣きそうになった。
「ねえ、勝守記念にお団子食べよ!」
そのまま随神門で一礼してからお団子屋へ。
「いらっしゃいませえ~(^▽^)/」
元気よく迎えてくれたバイトのさつきは、全部分かってるよって感じで必要以上に元気がいい。
でも、よかった。
美枝の顔色は、いっそう良くなってきたしね。
今夜は、さつきに、あれこれ聞かれそうだ。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
さつき 将門の娘 滝夜叉姫
明菜 中学時代の友だち 千代田高校
美枝 二年生からのクラスメート
ゆかり 二年生からのクラスメート
63〔明神女坂〕
遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えただろうと思う。
明日は日曜という中間テストの中休み、わたしと美枝は誘いあって、外堀通りをお茶の水に向かって歩いている。
季節はとっくに終わって、沿道は葉桜の満開。誰かが植えたのか自生してるものなのか、あちこちムレるようにいろんな花も咲いている。ムレるは群れると蒸れるのかけ言葉。って、説明したら意味ないか。
五月の花って生き物の匂い。ちょっと生々しすぎると感じる。
あたしの話は他愛なかった。総合理科のテストがガタガタだったとかの自業自得的な話。
それに合わせて、美枝もネトフリで見たおバカな映画の話とかしてたんだけど、ちょっとした間があって、シビアな話になったのは、精力の強すぎる花たちの匂いのせいかもしれない。
学校を辞めるかもしれないという話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。
義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。
美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしまった。家族仲良くなれるために、両親はお誕生会やったり家族旅行を企画したりしてくれた。
で、二人ともいい子だから、仲のいい兄妹を演じてきた。
それが、いつの間にか男と女として意識するようになってしまった。
「わたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言ったんだ。お誕生会やったあと『美枝にプレゼント買ってやるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。お店二三件見て、大学生としては、ほどほどのアクセ買ってくれた……」
「美枝、ちょっとお茶でも飲んでかえろうぜ」
「うん(^▽^)」
あたしは気軽に返事した。
「渋谷の雰囲気のいい紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。あたしら座ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんだ。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思わなかった」
「16って言ったら、親の承諾があったら結婚できる歳だな」
「ほんと? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」
それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話して。そしたら、急に二人とも黙ってしまって、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろくって、目を見て笑ってしまった。あたしは妹の顔に戻って話しよう思ったら、お兄ちゃんが言うの『美枝。オレは美枝のことが好きだ』」
言葉の響きで分かった。妹としてじゃないことが。
「……それは、ちょっとまずいんじゃない。兄妹だし」
なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言ってしまった。
「義理の兄妹は結婚できる」
「え……」
頭がカッとして、なんにも言えなかった。
それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしまった。
「連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったじゃんか。あれ、下見。明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないものにしたかった」
「そんなことして、高校はどうするつもりだったの?」
「どうにでもなる。出産前の三カ月は学校休む」
「え……ええええ!?」
バナナの皮を踏んだわけでもないのに、ひっくり返りそうになった。
「よその学校の例を調べたの。在学中の妊娠出産はけっこうあるんだ。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どうにでもなる。そのことを理由に退学はできないんだ」
「そんなに、うまいこといく?」
「ダメだったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」
「ゆ、ゆかりは、知ってんの?」
美枝の固い決心に、言葉が無くって、あたしはゆかりのことを持ち出した。
「ゆかりは、反対。でも自信がないから、明日香に相談……ごめん、ちょっと整理つかなくって」
「整理つかないだろうね」
あとの言葉が続かなくって、気が付いたら昌平橋まで出てしまった。
「ねえ、神田明神にお参りしていこ、整理つかないままでいいから、いろいろお願いしてみるのがいいと思う」
「うん、そうね」
ここからだと、男坂上って行くことになるんだけど、家の前通りたくなかったので、手前の、普段はめったに通らない坂道を上る。
「へえ、明神女坂てのもあるんだね!」
美枝は面白がってくれたので、そのまま勢いつけていけた。
「えと、正式なお作法ってあるんだよね」
町内のお年寄りが慇懃に参拝してるのを見て、ちょっとたじろぐ美枝。
「任せなよ、あたしの真似すればいいから」
「うん!」
二礼二拍手一礼のお作法と、柏手の打ち方をきれいに決めてやる。
「おお!」
感動の声をあげる美枝。
視界の端に、ニコニコ微笑む巫女さんの姿が見えて、授与所でお守りを買う。
「わ、こんなに種類があるんだね!」
美枝は、ちょっと迷って『勝守(かちまもり)』を買った。
「渋いね、これ、ここにしかないんだよ」
「え、そうなんだ!」
「うん、幸先いいかもよ」
そう言うと、美枝はポッと頬を染めた。
なんか、むちゃくちゃいじらしく思えて、なんかグッとせき上げてきて、泣きそうになった。
「ねえ、勝守記念にお団子食べよ!」
そのまま随神門で一礼してからお団子屋へ。
「いらっしゃいませえ~(^▽^)/」
元気よく迎えてくれたバイトのさつきは、全部分かってるよって感じで必要以上に元気がいい。
でも、よかった。
美枝の顔色は、いっそう良くなってきたしね。
今夜は、さつきに、あれこれ聞かれそうだ。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
さつき 将門の娘 滝夜叉姫
明菜 中学時代の友だち 千代田高校
美枝 二年生からのクラスメート
ゆかり 二年生からのクラスメート
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