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60〔連休明けのアンニュイ〕
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明神男坂のぼりたい
60〔連休明けのアンニュイ〕
一年で、いちばんつまらないのは、五月の連休明け。高校生でなくっても分かってもらえると思う。
で、高校生で、いちばんつまらないないのは二年生。一年の時の緊張感も夢もないし、三年の進路決定が迫って来る緊張感もない。アンニュイって言えばカッコいいけど、要はダレて来る。
去年の今頃って、なにしてただろ……?
演劇部入って、本格的な入部が決まって、先輩の鈴木美咲も偉い先輩だと思えた。三年の先輩たちは神さま。芝居が上手いということもあるけど、なんだか言うことが、いちいちかっこよかった。
「安直に創作劇に走るのは、高校演劇の、いちばん悪いとこ!」
「なんでですか?」
「明日香、戯曲は吹奏楽で言うと、演奏会でやる曲みたいなものなのよ。そんなもん自分たちで作るような学校どこもないでしょ?」
「はあ……」
「ん? 納得のいかない顔してるなあ」
「いえ、そんな……」
とは言うものの、本当は納得してなかった。中学校の文化祭でも、クラスの出し物の芝居は自分たちで書いていた。そして、そこそこにおもしろかった。なんで創作がだめなのか、あたしにはよく分からなかった。
「ちょっと、付いといで」
そう言って、吹奏楽と軽音に連れていかれた。
「オリジナル、そんなの考えられないわ」
吹部の部長は、あっさり言う。
そして、ちょうどパート練習が終わったとこなので、演奏を聞かせてもらった。『海兵隊』と『ボギー大佐』という、あたしでも知ってる曲をやってくれた。なんでも、吹部ではスタンダードで、一年が入った時は、いつもこれからやるらしい。
で、三曲目の曲がダサダサ。だけど、どこかで聞いたことがある。
「今のは校歌。一応は吹けなくっちゃね」
ちょっと分かった。同じ技量でも、やる曲によって、全然上手さが違って聞こえる。
次に軽音。
先輩が頼んだら、B'zといきものがかりの曲をやってくれた。めっちゃかっこいい!
軽音に鞍替えしよかと思ったぐらい。
「なんか、オリジナルっぽいのあったら、聞かせてくれる?」
先輩が言うと、軽音のメンバーは変な笑い方をした。
「アハハ、じゃあ『夢は永遠』いこっか」
え、そんな曲あったかな?
それから、やった曲はダサダサだった。正直、オチョクってんのかという演奏。
「これ、ベースのパッチが作った曲。パッチは将来はシンガーソングライター志望。で、ときどき付き合いでやってるんだ」
ベースの三年生が頭を掻いた。
分かった。
戯曲は吹部でいうとスコア(総譜)みたいなもの。だから、どこの馬の骨か分からんような人がつくった校歌はおもしろくない。軽音のパッチさんが書いた曲はガタガタ。
「な、だから、戯曲は既成脚本の百本も読んで、やっと本を見る目ができる。書くってのは、その先の先」
あたしは、その三年生の言葉を信じた。
そして、コンクールでは『その火を飛び越えて』という既成の本を演った。
結果は、まえにも言ったけど、予選で二等賞。自分で言うのもなんだけど、実質はうちの学校が一番だった。あたしが演劇部辞めたのは美咲先輩のこともあるけど、高校演劇の八方ふさがりなところもある。
一昨年、鶴上高校が『ブロック、ユー!』いう芝居で全国大会で優勝してテレビのBSでもやってたし、毎朝新聞の文化欄でも取り上げられ平野アゲザいう偉い劇作家も激賞してた。
だけど、去年、この作品を、よその学校が演ったいう話はついに聞いたことがない。今年の春の芸文祭で鶴上高校とはいっしょだったけど、キャパ400の観客席は、やっと150人。
ああ……演劇部のグチはやんぺ。
週があけたら中間テストが射程距離に入ってくる。あたしは英数が欠点のまんま。夏の追認考査では、絶対とりかえしておかなくっちゃならない。
あ、そうそう。
ひとりイキイキしてるやつがいる。
「いやあ、明日香ちゃんの従姉妹なんだってね。明るくって、働き者で、ほんと大助かりよ(^▽^)/」
だんご屋のおばちゃんは大喜び。
えと……うちの居候のさつきですよ。
ちなみに、履歴書に書いた住所は明神さまの御旅所。
そこから通うふりして、実際は、姿を消してからうちの家に戻って来る。
「そんな長時間、よく実体化していられるわねえ」
わたしに憑りついたころは、ほんの二三分の実体化が限界だったのに。
「ああ、明日香から、ずいぶんエネルギーもらったからなあ」
「勝手に、エネルギー持ってかないでよね」
「いいじゃないか、有り余ってるんだし」
「余ってなんかないよ!」
「いやいや、余ってるぞ。ほっとくと零れてしまうから、使ってやってるんだ。感謝しろよ」
「するか!」
「ほらほら、その元気さ」
「ムー、どうやってエネルギー抜いてんのよ!?」
「ああ、これでな」
「え、USBケーブル?」
「うん、明日香のおへそに端子があったからな」
「うそ?」
ジャージをめくってみるけど、そんなものはない。
「ほんとうは、お尻にある」
「ええ(;'∀')!?」
慌ててお尻を押える。
「アハハ、明日香のそういうとこさ。ほら、チャージが始まったから、パイロットランプがついただろ」
「え、どこ?」
「わたしの瞳だよ」
「うん……」
グイッと突き出した顔。たしかに、瞳の真ん中が青く光ってる。
で、急速に眠気が湧いて来て……あ、またやられた?
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
伯母さん
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
将門さま 神田明神
さつき 将門さまの娘 別名滝夜叉姫
60〔連休明けのアンニュイ〕
一年で、いちばんつまらないのは、五月の連休明け。高校生でなくっても分かってもらえると思う。
で、高校生で、いちばんつまらないないのは二年生。一年の時の緊張感も夢もないし、三年の進路決定が迫って来る緊張感もない。アンニュイって言えばカッコいいけど、要はダレて来る。
去年の今頃って、なにしてただろ……?
演劇部入って、本格的な入部が決まって、先輩の鈴木美咲も偉い先輩だと思えた。三年の先輩たちは神さま。芝居が上手いということもあるけど、なんだか言うことが、いちいちかっこよかった。
「安直に創作劇に走るのは、高校演劇の、いちばん悪いとこ!」
「なんでですか?」
「明日香、戯曲は吹奏楽で言うと、演奏会でやる曲みたいなものなのよ。そんなもん自分たちで作るような学校どこもないでしょ?」
「はあ……」
「ん? 納得のいかない顔してるなあ」
「いえ、そんな……」
とは言うものの、本当は納得してなかった。中学校の文化祭でも、クラスの出し物の芝居は自分たちで書いていた。そして、そこそこにおもしろかった。なんで創作がだめなのか、あたしにはよく分からなかった。
「ちょっと、付いといで」
そう言って、吹奏楽と軽音に連れていかれた。
「オリジナル、そんなの考えられないわ」
吹部の部長は、あっさり言う。
そして、ちょうどパート練習が終わったとこなので、演奏を聞かせてもらった。『海兵隊』と『ボギー大佐』という、あたしでも知ってる曲をやってくれた。なんでも、吹部ではスタンダードで、一年が入った時は、いつもこれからやるらしい。
で、三曲目の曲がダサダサ。だけど、どこかで聞いたことがある。
「今のは校歌。一応は吹けなくっちゃね」
ちょっと分かった。同じ技量でも、やる曲によって、全然上手さが違って聞こえる。
次に軽音。
先輩が頼んだら、B'zといきものがかりの曲をやってくれた。めっちゃかっこいい!
軽音に鞍替えしよかと思ったぐらい。
「なんか、オリジナルっぽいのあったら、聞かせてくれる?」
先輩が言うと、軽音のメンバーは変な笑い方をした。
「アハハ、じゃあ『夢は永遠』いこっか」
え、そんな曲あったかな?
それから、やった曲はダサダサだった。正直、オチョクってんのかという演奏。
「これ、ベースのパッチが作った曲。パッチは将来はシンガーソングライター志望。で、ときどき付き合いでやってるんだ」
ベースの三年生が頭を掻いた。
分かった。
戯曲は吹部でいうとスコア(総譜)みたいなもの。だから、どこの馬の骨か分からんような人がつくった校歌はおもしろくない。軽音のパッチさんが書いた曲はガタガタ。
「な、だから、戯曲は既成脚本の百本も読んで、やっと本を見る目ができる。書くってのは、その先の先」
あたしは、その三年生の言葉を信じた。
そして、コンクールでは『その火を飛び越えて』という既成の本を演った。
結果は、まえにも言ったけど、予選で二等賞。自分で言うのもなんだけど、実質はうちの学校が一番だった。あたしが演劇部辞めたのは美咲先輩のこともあるけど、高校演劇の八方ふさがりなところもある。
一昨年、鶴上高校が『ブロック、ユー!』いう芝居で全国大会で優勝してテレビのBSでもやってたし、毎朝新聞の文化欄でも取り上げられ平野アゲザいう偉い劇作家も激賞してた。
だけど、去年、この作品を、よその学校が演ったいう話はついに聞いたことがない。今年の春の芸文祭で鶴上高校とはいっしょだったけど、キャパ400の観客席は、やっと150人。
ああ……演劇部のグチはやんぺ。
週があけたら中間テストが射程距離に入ってくる。あたしは英数が欠点のまんま。夏の追認考査では、絶対とりかえしておかなくっちゃならない。
あ、そうそう。
ひとりイキイキしてるやつがいる。
「いやあ、明日香ちゃんの従姉妹なんだってね。明るくって、働き者で、ほんと大助かりよ(^▽^)/」
だんご屋のおばちゃんは大喜び。
えと……うちの居候のさつきですよ。
ちなみに、履歴書に書いた住所は明神さまの御旅所。
そこから通うふりして、実際は、姿を消してからうちの家に戻って来る。
「そんな長時間、よく実体化していられるわねえ」
わたしに憑りついたころは、ほんの二三分の実体化が限界だったのに。
「ああ、明日香から、ずいぶんエネルギーもらったからなあ」
「勝手に、エネルギー持ってかないでよね」
「いいじゃないか、有り余ってるんだし」
「余ってなんかないよ!」
「いやいや、余ってるぞ。ほっとくと零れてしまうから、使ってやってるんだ。感謝しろよ」
「するか!」
「ほらほら、その元気さ」
「ムー、どうやってエネルギー抜いてんのよ!?」
「ああ、これでな」
「え、USBケーブル?」
「うん、明日香のおへそに端子があったからな」
「うそ?」
ジャージをめくってみるけど、そんなものはない。
「ほんとうは、お尻にある」
「ええ(;'∀')!?」
慌ててお尻を押える。
「アハハ、明日香のそういうとこさ。ほら、チャージが始まったから、パイロットランプがついただろ」
「え、どこ?」
「わたしの瞳だよ」
「うん……」
グイッと突き出した顔。たしかに、瞳の真ん中が青く光ってる。
で、急速に眠気が湧いて来て……あ、またやられた?
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東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
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