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19〔ああ 辞めてやった!〕
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明神男坂のぼりたい
19〔ああ 辞めてやった!〕
さすがに当日切り出すのは気が引けた。
なにがって?
クラブ辞めることだよ。
芸文祭は、意外にいけた。
『ドリーム カム トゥルー』は、女子高生の恋心を描いたラブコメ。
で、一人芝居なもので、主役のあたしは、舞台には登場しない彼氏に恋心を抱いてなくっちゃならない。
それも片思い。
そのリリカルな描写が良かったと、講師の先生からも誉められた。
瞬間、いい気持ち。
この芸文祭、ちょっと気になることがあった。
なにか言うと、お客さんの入りが良かったこと。
いいことなんやけど、気になる。
誰に聞いても、こんなに入ったことはないそうだ。ホールはキャパ434だけど、いつもはせいぜい80人ぐらいしか入らない。それが倍近くの150人ほど入っていた。
あの美咲先輩でさえ、嬉しそうにしていた。
もちろん役者のあたしとして、嬉しくないはずはない。
ところが、この奇跡は、T高校のお陰だ言うことが、よく分かった。
T高校は、一昨年都大会で一等賞になり、関東大会でも一等賞。
で、全国大会でも一等賞。
審査委員長の平目オリダのオッサンも大激賞! 旭新聞が文化欄三段記事で誉め倒していた。ちなみに他の新聞は、どこも書いていない。去年の本選の審査員に来ていたのが旭新聞の文芸部のオバチャン。
その繋がりなんだろうなあ。
しかし考えたら、それだけ大騒ぎして、434のキャパが一杯にはならない。まあ、世間の高校演劇のとらまえかたというか関心はこの程度。
やっぱり部活としてはトレンドではない。
それで、T高校の芝居が終わったら、潮が引くように観客が減っていく。最後のあたしたちの芝居の時は100人を切った。それでも例年の三割り増しぐらいにはなっているらしい。
もう一つ分かったこと。
うちの『ドリーム カム トゥルー』は井上むさしさんの作品なんだけど、この作品に教育委員会は書き直しを言ってきたらしい。
別に差別的な表現があった訳では無い。Hな表現があったわけでもない。
なんでも「死を連想させるような表現はNG」いうことで、連絡を受けた井上むさしさんは激おこぷんぷん丸だったらしい。教育委員会は「死なさないで、海外留学に行ったいうようなことで」と言ったらしい。
それまでは「チャコの一周忌」いう言葉が「チャコが眠り姫(植物状態)になってから一年」に変わった。ちょっとした言葉の変更だから気にもとめなかった。
井上さんのツイートで初めて分かった。年末にS高校で、生徒が自殺するいう事件があった。あれからというか、あれを過剰に意識してんのんかと思った。
そりゃあ、S高校の自殺をネタにしたのなら、まだ四十九日にもならないから問題だろう。
でも、この芝居はS高校とは関係ないし、取り組みはそれ以前から。
それに、うちの芝居に出てくる死は病死、自殺じゃない。それも、話の背景として出てくるだけだ。
羹に懲りてなますを吹く……この例えあってるかな?
今日は、反省会と後かたづけ。
まず、後かたづけ。
これは真面目にやった。立つ鳥跡を濁さずです。
で、美咲先輩が言う前に宣言した。
「あたし、今日で演劇部辞めさせてもらいます!」
先輩らも東風先生もびっくりしていた。しばらく沈黙が続いたあと、先生が口を開いた。
「美咲も辞めるって言ってる。明日香も辞めたら、四月から部員ゼロになる」
承知の上です。
「ま、それはいいんだ」
え、なんでサラリと言えるわけ?
「新入生を二三人入れて鍛えたら、いまぐらいの演劇部はなんとかなる」
え、え、そうなの?
「しかし、クラブ辞めたら、三年なったときに調査書のクラブの欄は空白になる。損するでえ」
ほんと!? そんなことぜんぜん考えてなかった。
「だから、籍だけは置いときな。部活に来る来ないは勝手にしたらいい。じゃ反省してもしかたないか。今日はこれで解散!」
まるで、急な出張が入って授業中断するような気楽さで、南風先生は言った……。
まあ、ええわ。
辞めることに違いは無い。
ああ、辞めてやった!
帰り道、拝殿前に立って明神さまにご報告。
―― 坂 降りる時は気を付けるんだよ ――
え、明神さま怒ってる?
言われた通り、気を付けて降りる。
気を付けたせいか、なんとも無かった。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
19〔ああ 辞めてやった!〕
さすがに当日切り出すのは気が引けた。
なにがって?
クラブ辞めることだよ。
芸文祭は、意外にいけた。
『ドリーム カム トゥルー』は、女子高生の恋心を描いたラブコメ。
で、一人芝居なもので、主役のあたしは、舞台には登場しない彼氏に恋心を抱いてなくっちゃならない。
それも片思い。
そのリリカルな描写が良かったと、講師の先生からも誉められた。
瞬間、いい気持ち。
この芸文祭、ちょっと気になることがあった。
なにか言うと、お客さんの入りが良かったこと。
いいことなんやけど、気になる。
誰に聞いても、こんなに入ったことはないそうだ。ホールはキャパ434だけど、いつもはせいぜい80人ぐらいしか入らない。それが倍近くの150人ほど入っていた。
あの美咲先輩でさえ、嬉しそうにしていた。
もちろん役者のあたしとして、嬉しくないはずはない。
ところが、この奇跡は、T高校のお陰だ言うことが、よく分かった。
T高校は、一昨年都大会で一等賞になり、関東大会でも一等賞。
で、全国大会でも一等賞。
審査委員長の平目オリダのオッサンも大激賞! 旭新聞が文化欄三段記事で誉め倒していた。ちなみに他の新聞は、どこも書いていない。去年の本選の審査員に来ていたのが旭新聞の文芸部のオバチャン。
その繋がりなんだろうなあ。
しかし考えたら、それだけ大騒ぎして、434のキャパが一杯にはならない。まあ、世間の高校演劇のとらまえかたというか関心はこの程度。
やっぱり部活としてはトレンドではない。
それで、T高校の芝居が終わったら、潮が引くように観客が減っていく。最後のあたしたちの芝居の時は100人を切った。それでも例年の三割り増しぐらいにはなっているらしい。
もう一つ分かったこと。
うちの『ドリーム カム トゥルー』は井上むさしさんの作品なんだけど、この作品に教育委員会は書き直しを言ってきたらしい。
別に差別的な表現があった訳では無い。Hな表現があったわけでもない。
なんでも「死を連想させるような表現はNG」いうことで、連絡を受けた井上むさしさんは激おこぷんぷん丸だったらしい。教育委員会は「死なさないで、海外留学に行ったいうようなことで」と言ったらしい。
それまでは「チャコの一周忌」いう言葉が「チャコが眠り姫(植物状態)になってから一年」に変わった。ちょっとした言葉の変更だから気にもとめなかった。
井上さんのツイートで初めて分かった。年末にS高校で、生徒が自殺するいう事件があった。あれからというか、あれを過剰に意識してんのんかと思った。
そりゃあ、S高校の自殺をネタにしたのなら、まだ四十九日にもならないから問題だろう。
でも、この芝居はS高校とは関係ないし、取り組みはそれ以前から。
それに、うちの芝居に出てくる死は病死、自殺じゃない。それも、話の背景として出てくるだけだ。
羹に懲りてなますを吹く……この例えあってるかな?
今日は、反省会と後かたづけ。
まず、後かたづけ。
これは真面目にやった。立つ鳥跡を濁さずです。
で、美咲先輩が言う前に宣言した。
「あたし、今日で演劇部辞めさせてもらいます!」
先輩らも東風先生もびっくりしていた。しばらく沈黙が続いたあと、先生が口を開いた。
「美咲も辞めるって言ってる。明日香も辞めたら、四月から部員ゼロになる」
承知の上です。
「ま、それはいいんだ」
え、なんでサラリと言えるわけ?
「新入生を二三人入れて鍛えたら、いまぐらいの演劇部はなんとかなる」
え、え、そうなの?
「しかし、クラブ辞めたら、三年なったときに調査書のクラブの欄は空白になる。損するでえ」
ほんと!? そんなことぜんぜん考えてなかった。
「だから、籍だけは置いときな。部活に来る来ないは勝手にしたらいい。じゃ反省してもしかたないか。今日はこれで解散!」
まるで、急な出張が入って授業中断するような気楽さで、南風先生は言った……。
まあ、ええわ。
辞めることに違いは無い。
ああ、辞めてやった!
帰り道、拝殿前に立って明神さまにご報告。
―― 坂 降りる時は気を付けるんだよ ――
え、明神さま怒ってる?
言われた通り、気を付けて降りる。
気を付けたせいか、なんとも無かった。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
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