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103《BETA覚醒のとき》
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てんせい少女
103《BETA覚醒のとき》
淡いグリーンの壁自体ががほのかに光る不思議な部屋だった。
「目が覚めたようね」
声が先に聞こえて、そちらの方を見るとドクターのようなナリをした女性が立っていた。白衣は壁のグリーンに染まっていたが、手足や顔はしっかりしたフレッシュスキンだ。
「ちょっとチェックするわね」
女性が、手をかざすと目の高さにモニターの画面だけが現れ、上から下に何百もの項目がスクロールされていった。その項目たちのほとんどがグリーンに輝いている。ところどころイエローになっているところがあり、そこにくるとスクロールが止まり。その都度現れるキーボードを女性が操作すると、ほとんどのものがグリーンに変わった。
「この程度なら大丈夫だわ。わたしはコビナタ。あなたは?」
最初のショックが襲ってきた。
自分の名前が分からない……。
「OK、教えてあげる。ミナよM・I・N・A、MINA。正式にはSavior Beta MINA。長ったらしいからカタカナのミナ。Saviorは「救世者」Betaは「β」アルファベットの「B」これを見て」
コビナタが手を振ると、壁の一面が透けて女の子が裸で円筒形の透明なパイプの中に居るのが見える。髪がフワフワしているところを見ると透明な液体が充填されているようだった。
「あの子は……?」
「これを見て」
コビナタが目で示したベッドの端に鏡が現れた。
「え……うそ」
なんとミナはパイプの中の女の子と同じ姿かたちだった。
「あのパイプの中に居るのが本来のミナ。今のミナの体は義体よ」
「ギタイ……?」
「80%は機械、20%は人工の生態組織。意識はミナ本来のものよ。ただし、いくつかの記憶はブロックしてある。そうでなきゃ、この状況は受け入れられないから。どう、平気でしょ?」
「少しショックです」
「なーる……CPUがイエロー、状況を把握しようとして活発に動いている。そして心は十分に耐えているわ」
「わたしには、なにか任務があるんですね?」
「そう、これを……」
ベッドの左横に大きな木のようなものが現れた。太い幹があり、そこから無数の枝が延び、その大半は霞んで先がみえなかった。
「……これはパラレルワールドを含んだ世界の模式図ですね」
「飲み込みが早いわ。世界は、こんなに分岐して多様なの。先細りで途切れたように見えるのは……」
「絶滅した世界ですね」
「そう、そして霞んで見えないところは、まだ続いている世界。つまり無数のパラレルの可能性……」
「ちょっと嘘がありますね……枝の色が悪い。絶滅しかけているパラレルがいっぱいあります」
「……そうよ。このまま放置しておくと、この人類の木自体が枯れてしまう」
「世界の消滅ですね」
「そう、この枯れかけたパラレルの緑を取り戻すのが、ミナ、あなたの任務」
というわけで、コンバットスーツを身に着けてチュートリアルが始まった!
最初はアナログな危険から身を守ることだった。10トン~100トンの岩が霰のように降ってくる中を走破。1000トンの巨岩が落ちてきたときは意識的に下敷きになってみたが無傷だった。
一万丁の機関銃の掃射を避けることもできたし、弾着にも耐えられ、大和級の46サンチ砲弾の直撃にも動じなかった。
さすがに、核爆弾を落とされたときは生体組織が死滅してスケルトンになってしまったけど、30分で元に戻った。
「慣れれば、数秒で回復できるわ」
コビナタは容赦なかった。次にCPUに対するハッキングや電子攻撃にもさらされたが、逆探知してアタックしてきたCPUを破壊した。
トドメが宇宙戦艦ヤマトの波動砲とデスラー砲の同時攻撃……これにも耐えた。
「じゃ、これが最後。わたしに擬態して」
「擬態……?」
ミナには本能的に拒絶する心があった。
「簡単なことよ。わたしのことをイメージして」
「でも……」
「大丈夫、チュートリアルだから、やってみて」
ミナはコビナタをイメージした。そしてコビナタそのものになってしまい、本物を目の前に混乱した。
「一割の自分を残しておくこと。そうでなきゃ自我を失ってしまう」
それから何十人かに擬態して、やっとコツが掴めた。
「一つ聞いてもいいですか」
「いいわよ」
「……わたし戻らなきゃならないところがあるような気がするんです。わたしを待ってくれている人がいるような気がするんです。あちらの本来の自分に戻って」
パイプの中の自分を愛おしそうに見た。
「あの体は、がん細胞に侵されている。進行しすぎて元に戻せるかは五分五分。戻りたいという気持ちは残しておいて。そうしなきゃ、ミナは……化け物になるわ」
「……はい」
「じゃ、しばらくスリープしましょう。その間に微調整する。今度目が覚めたら任務だと思って」
ミナは銀河鉄道999の夢を見た。だが、そこにメーテルはいないようだった。
103《BETA覚醒のとき》
淡いグリーンの壁自体ががほのかに光る不思議な部屋だった。
「目が覚めたようね」
声が先に聞こえて、そちらの方を見るとドクターのようなナリをした女性が立っていた。白衣は壁のグリーンに染まっていたが、手足や顔はしっかりしたフレッシュスキンだ。
「ちょっとチェックするわね」
女性が、手をかざすと目の高さにモニターの画面だけが現れ、上から下に何百もの項目がスクロールされていった。その項目たちのほとんどがグリーンに輝いている。ところどころイエローになっているところがあり、そこにくるとスクロールが止まり。その都度現れるキーボードを女性が操作すると、ほとんどのものがグリーンに変わった。
「この程度なら大丈夫だわ。わたしはコビナタ。あなたは?」
最初のショックが襲ってきた。
自分の名前が分からない……。
「OK、教えてあげる。ミナよM・I・N・A、MINA。正式にはSavior Beta MINA。長ったらしいからカタカナのミナ。Saviorは「救世者」Betaは「β」アルファベットの「B」これを見て」
コビナタが手を振ると、壁の一面が透けて女の子が裸で円筒形の透明なパイプの中に居るのが見える。髪がフワフワしているところを見ると透明な液体が充填されているようだった。
「あの子は……?」
「これを見て」
コビナタが目で示したベッドの端に鏡が現れた。
「え……うそ」
なんとミナはパイプの中の女の子と同じ姿かたちだった。
「あのパイプの中に居るのが本来のミナ。今のミナの体は義体よ」
「ギタイ……?」
「80%は機械、20%は人工の生態組織。意識はミナ本来のものよ。ただし、いくつかの記憶はブロックしてある。そうでなきゃ、この状況は受け入れられないから。どう、平気でしょ?」
「少しショックです」
「なーる……CPUがイエロー、状況を把握しようとして活発に動いている。そして心は十分に耐えているわ」
「わたしには、なにか任務があるんですね?」
「そう、これを……」
ベッドの左横に大きな木のようなものが現れた。太い幹があり、そこから無数の枝が延び、その大半は霞んで先がみえなかった。
「……これはパラレルワールドを含んだ世界の模式図ですね」
「飲み込みが早いわ。世界は、こんなに分岐して多様なの。先細りで途切れたように見えるのは……」
「絶滅した世界ですね」
「そう、そして霞んで見えないところは、まだ続いている世界。つまり無数のパラレルの可能性……」
「ちょっと嘘がありますね……枝の色が悪い。絶滅しかけているパラレルがいっぱいあります」
「……そうよ。このまま放置しておくと、この人類の木自体が枯れてしまう」
「世界の消滅ですね」
「そう、この枯れかけたパラレルの緑を取り戻すのが、ミナ、あなたの任務」
というわけで、コンバットスーツを身に着けてチュートリアルが始まった!
最初はアナログな危険から身を守ることだった。10トン~100トンの岩が霰のように降ってくる中を走破。1000トンの巨岩が落ちてきたときは意識的に下敷きになってみたが無傷だった。
一万丁の機関銃の掃射を避けることもできたし、弾着にも耐えられ、大和級の46サンチ砲弾の直撃にも動じなかった。
さすがに、核爆弾を落とされたときは生体組織が死滅してスケルトンになってしまったけど、30分で元に戻った。
「慣れれば、数秒で回復できるわ」
コビナタは容赦なかった。次にCPUに対するハッキングや電子攻撃にもさらされたが、逆探知してアタックしてきたCPUを破壊した。
トドメが宇宙戦艦ヤマトの波動砲とデスラー砲の同時攻撃……これにも耐えた。
「じゃ、これが最後。わたしに擬態して」
「擬態……?」
ミナには本能的に拒絶する心があった。
「簡単なことよ。わたしのことをイメージして」
「でも……」
「大丈夫、チュートリアルだから、やってみて」
ミナはコビナタをイメージした。そしてコビナタそのものになってしまい、本物を目の前に混乱した。
「一割の自分を残しておくこと。そうでなきゃ自我を失ってしまう」
それから何十人かに擬態して、やっとコツが掴めた。
「一つ聞いてもいいですか」
「いいわよ」
「……わたし戻らなきゃならないところがあるような気がするんです。わたしを待ってくれている人がいるような気がするんです。あちらの本来の自分に戻って」
パイプの中の自分を愛おしそうに見た。
「あの体は、がん細胞に侵されている。進行しすぎて元に戻せるかは五分五分。戻りたいという気持ちは残しておいて。そうしなきゃ、ミナは……化け物になるわ」
「……はい」
「じゃ、しばらくスリープしましょう。その間に微調整する。今度目が覚めたら任務だと思って」
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