上 下
99 / 161

99 〈S島決戦〉

しおりを挟む
てんせい少女・

99 〈S島決戦〉



「そんなバカな!」

 と、お父さんは言ったらしい。
 
 らしいというのは、遊撃特化連隊に連絡将校として派遣されている米軍将校からの連絡だから。
 素人で、まだ半分ガキンチョのあたしが聞いても「そんなバカな!」と思う。

 敵の上陸部隊は一個中隊180名ほど。

 これに対し、政府の緊急安全保障会議では、同規模の一個中隊の派遣が認められただけだ。

 島は、城といっしょで、戦術的な常識では、敵の三倍の兵力でなければ潰せない。信長さんや秀吉さんの、もっと昔からの常識。
 近代戦では、その前に、戦闘攻撃機によって、徹底的にミサイル攻撃を加える。ナパーム弾やクラスター爆弾が効果的なのだが、日本政府は非人道的武器であるとして、対人地雷とともに破棄してしまった。

 弱腰で専門的知識がないものだから「侵犯国(敵とも呼ばない)と同規模同程度の実力部隊の派遣しかできないとの指令である。

「バカか!」

 日頃温厚な米軍の連絡将校も声を荒げたそうである。オスプレイ6機を護衛艦あかぎに載せて、敵を威嚇しつつ、戦闘は最終手段とするといった念のいったバカさかげんだ。これでは、敵に十分な防御対策をさせてしまう。このまま突っこんでは、上陸前にボ-トごと一個中隊は殲滅されてしまうだろう。

 民自党の防衛大臣は、空自による事前攻撃の直後、戦闘機によって制空権を確保した上で、一個大隊(敵の三倍)で一斉攻撃をかけるべきであると主張したが、連立与党の公民党が「目的は島の奪還であり、殺戮が目的ではない。最小限度の攻撃に止めるべきである」と主張し、一個中隊の派遣になったわけである。

「我々は全滅してきます。それで政府の目を覚まさせてください」

 中隊長は、そう言い残し、出撃していったそうだ。こんな覚悟で出て行くのは、お父さんがもっとも信頼している牛島一尉だろうと思った。

 お父さんは、一部政府の指示を拡大解釈した。

 上陸部隊は一個中隊だが、後方支援の部隊については指示がない。そこで、遊撃特化連隊に許されている最大の権限を行使した。

「必要に応じ、連隊長は、陸海空自衛隊に支援を要請することができる」という条項である。

 ただし、要員の輸送に関してのみという条件がついていたが。

「輸送というのは、部隊を確実に作戦地域まで送り届けることである。そのためには、なにをしてもいい」

 そう解釈し、空自のP3Cを飛ばし、敵の衛星や、侵攻部隊のレーダーにジャミングをかけた。
 つまり、敵が目視できるところまで来なければ、味方の部隊は発見されない。

 そして、上陸寸前に限定的ではあるが上陸地点の爆撃を依頼した。

 攻撃は、セオリー通り夜間に行われた。ただ、政府が予想していたのより一晩早く。

 オスプレイ6機が、あかぎの甲板を離陸したのと同時に、ジャミングが始まった。敵は若干慌てた。攻撃は、政府の指示通り、明くる日だと思っていたからだ。

 S島の東海岸線が空自により、徹底的に爆撃され、敵の本拠地であると思われる山頂を30発のミサイルで潰した。中隊は無事に東海岸には到達できた。一個分隊を除いて……。

 牛島中尉は、自ら一個分隊を指揮して島の一番急峻な西の崖をよじ登った。

 東海岸に上陸した中隊の主力は、よく頑張った。上陸直後から、三個小隊に分かれ、小隊は、さらに分隊に分かれ、牛島一尉が見抜いていた敵指揮官がいる中腹を目指した。

 夜明け前には、敵部隊の半数を撃破。しかし、中隊は2/3の兵力を失っていた。

 西側の崖をよじ登った牛島一尉の分隊は夜明け前には、敵の指揮官の分隊の背後に回った。東側の中腹で中隊が全滅したころ、牛島一尉は敵の指揮官の首にサバイバルナイフを突き立てた。

「一尉、後ろ!」

 分隊長が、自分の命と引き替えに牛島を助けた。しかし、そこまでだった。中隊を全滅させた敵の部隊が集まり始めた。

 牛島の撤退の合図に応じたのは三名に過ぎなかった。

 ボートで沖に全速力で三十分走った。そこを海自の潜水艦に救助された。

 180人の中隊で生き残ったのは、たったの4人だった。で、島は奪還できなかった。
 政府の反応は早かった。命令違反と作戦失敗の責任をとらされ、お父さんは即日解任された。

「バカな政府を持ったもんだね日本は……」

 エミーが無表情に言った。

「S諸島は日本の領土だから、アメリカ軍が助けてくれるんじゃないの……?」
「世の中、そんなに甘くないのよ」
「そんな……!」
「でも、愛のガードは続けるよ」
「……どうして、お父さん解任されちゃったのに」
「世の中、甘くもないけど単純でもないの」

 スイッチを切り替えたように、エミーは涙目の笑顔になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...