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60『正念寺の光奈子・9 ドッペルゲンガー』
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ミナコ転生
60『正念寺の光奈子・9 ドッペルゲンガー』
光奈子は、いつもの道を曲がり損ねてしまった。考え事をしていたからだ。
駅から学校へ行く道は二本ある。多少の遠近はあるが、どっちの道も、距離は似たようなものである。
で、自然に生徒は二本の道を分けて通るようになる。当然一本あたりの道を通る生徒の数は少なくなり、住民とのトラブルは、その分だけ少なくなる。
ひなのが亡くなってから、光奈子は道を変えた。それまでの道は毎朝ひなのと歩いていた道なので、無意識に別の道を通るようになったのだ。
二本の道は、学校の前で、双方東西から学校に向かうようになっており、反対の道から来た生徒と出くわすカタチになる。
もっとも、お喋りやスマホに気を取られ、案外反対側から来る生徒には気づかないものではある。
それが、この日は違った。
最後の角を曲がったところで、オーラを感じてしまった。
向こうから、たくさんの生徒に混じって、自分が歩いて来たのである。前の生徒が邪魔で、いっしょに並んでいる生徒の姿が見えない。
とっさに、光奈子は速度を落とした。むこうの光奈子は、話しに夢中で、こちらには気づいていない。
校門を潜ると、後ろ姿を追いかけるカタチになった。
「コンクール残念だったな!」
自転車で来た三年の林田が、気楽に声をかけた。その二人に。
振り返った、二人は光奈子と……ひなのであった。
「………!」
思わず叫びそうになるのを堪えて、自分の口を押さえると、駅に向かって駆け出した。
ちょうどやってきた準急に乗り、息を整えた。気づくと向かいに網田美保が憐れむような顔で座っていた。
「とりあえず家に帰ろうか」
「だめだよ、お母さんがいる」
「お母さんには、会わないようにしてあげる」
本堂の方から入り、靴は持って上がった。美保が脱いだとたんに靴が消えた。そう、美保はアミダさまなのだ。
「あのひなのとあたしは誰なの!?」
自分の部屋に入るなり聞いた。
「見ての通りひなのと光奈子」
「どういうことよ、これって!?」
「まあ、落ち着いて……これは光奈子が望んだことなんだよ」
「あたしが?」
「お彼岸の最後の日に願ったでしょ。ひなのが生きてればいいって」
「ずっと思ってるわよ、ひなのが亡くなってから……」
「こないだ、加害者のお祖母ちゃんとまなかちゃんがガチンコしちゃったじゃない。お彼岸の最後の日」
「うん、胸が痛んだ」
「あの時、強く思ったのよ。ひなのが生きていればいいって」
「じゃ、ひなのが生き返ったの?」
「死んだ者は極楽往生。生き返ることなんかないわ」
「でも、ひなの笑って、あたしと話してた……そうよ、あのあたしってなんなのよ?」
「ここは、ひなのが死ななかった世界。パラレルワールドよ。光奈子が強く願ったから、光奈子が移動した。で、ここには別の光奈子がいるから鉢合わせしたわけ」
「じゃ、あたしは……」
「余計な存在。たまに起こる現象。街なんかで自分とそっくりな人間に出会ったって、都市伝説みたいなのがあるでしょ。ドッペルゲンガーとか離人症って呼ばれて、精神病理学の一つになっている。普通はほんの瞬間。あるいは不定期的にパラレルワールドが重なって起こる現象」
「じゃ、これも……」
「あんたは、完全に、こっちのパラレルワールドに入っちゃったから、ここに存在するわけにはいかないの」
光奈子は、思考が停止してしまった。
「もしもし……」
「あたし、どうしたら……」
「あなたは、沢山のミナコを生きる運命にあるようね。そろそろ別のミナコになる時期かもしれない」
「別のミナコ?」
「こないだ、亡くなった湊子ってオバアチャンも、その一人だったかもしれないわ」
「……なんだか、頭が痛くなってきた」
「少し横になるといいわ。おつかれさま、ミナコ……」
光奈子は、制服のままベッドで、横になった。数時間たって、もう一人の光奈子が帰ってきた。
「ただいまあ~。ああ、お腹空いたあ!」
「檀家さんから頂いた、お饅頭があるわ」
「へへ、お寺の特権だね」
「食べ過ぎないようにね、晩ご飯食べられなくなるから」
「はいはい、別腹でございますわよ(^▽^)」
光奈子が、饅頭の箱を持って自分の部屋に入ると、なんとベッドで寝ている自分を見つけてしまった。
「え……ええ!?」
ほんの数秒で、ベッドの光奈子は消えてしまった……。
60『正念寺の光奈子・9 ドッペルゲンガー』
光奈子は、いつもの道を曲がり損ねてしまった。考え事をしていたからだ。
駅から学校へ行く道は二本ある。多少の遠近はあるが、どっちの道も、距離は似たようなものである。
で、自然に生徒は二本の道を分けて通るようになる。当然一本あたりの道を通る生徒の数は少なくなり、住民とのトラブルは、その分だけ少なくなる。
ひなのが亡くなってから、光奈子は道を変えた。それまでの道は毎朝ひなのと歩いていた道なので、無意識に別の道を通るようになったのだ。
二本の道は、学校の前で、双方東西から学校に向かうようになっており、反対の道から来た生徒と出くわすカタチになる。
もっとも、お喋りやスマホに気を取られ、案外反対側から来る生徒には気づかないものではある。
それが、この日は違った。
最後の角を曲がったところで、オーラを感じてしまった。
向こうから、たくさんの生徒に混じって、自分が歩いて来たのである。前の生徒が邪魔で、いっしょに並んでいる生徒の姿が見えない。
とっさに、光奈子は速度を落とした。むこうの光奈子は、話しに夢中で、こちらには気づいていない。
校門を潜ると、後ろ姿を追いかけるカタチになった。
「コンクール残念だったな!」
自転車で来た三年の林田が、気楽に声をかけた。その二人に。
振り返った、二人は光奈子と……ひなのであった。
「………!」
思わず叫びそうになるのを堪えて、自分の口を押さえると、駅に向かって駆け出した。
ちょうどやってきた準急に乗り、息を整えた。気づくと向かいに網田美保が憐れむような顔で座っていた。
「とりあえず家に帰ろうか」
「だめだよ、お母さんがいる」
「お母さんには、会わないようにしてあげる」
本堂の方から入り、靴は持って上がった。美保が脱いだとたんに靴が消えた。そう、美保はアミダさまなのだ。
「あのひなのとあたしは誰なの!?」
自分の部屋に入るなり聞いた。
「見ての通りひなのと光奈子」
「どういうことよ、これって!?」
「まあ、落ち着いて……これは光奈子が望んだことなんだよ」
「あたしが?」
「お彼岸の最後の日に願ったでしょ。ひなのが生きてればいいって」
「ずっと思ってるわよ、ひなのが亡くなってから……」
「こないだ、加害者のお祖母ちゃんとまなかちゃんがガチンコしちゃったじゃない。お彼岸の最後の日」
「うん、胸が痛んだ」
「あの時、強く思ったのよ。ひなのが生きていればいいって」
「じゃ、ひなのが生き返ったの?」
「死んだ者は極楽往生。生き返ることなんかないわ」
「でも、ひなの笑って、あたしと話してた……そうよ、あのあたしってなんなのよ?」
「ここは、ひなのが死ななかった世界。パラレルワールドよ。光奈子が強く願ったから、光奈子が移動した。で、ここには別の光奈子がいるから鉢合わせしたわけ」
「じゃ、あたしは……」
「余計な存在。たまに起こる現象。街なんかで自分とそっくりな人間に出会ったって、都市伝説みたいなのがあるでしょ。ドッペルゲンガーとか離人症って呼ばれて、精神病理学の一つになっている。普通はほんの瞬間。あるいは不定期的にパラレルワールドが重なって起こる現象」
「じゃ、これも……」
「あんたは、完全に、こっちのパラレルワールドに入っちゃったから、ここに存在するわけにはいかないの」
光奈子は、思考が停止してしまった。
「もしもし……」
「あたし、どうしたら……」
「あなたは、沢山のミナコを生きる運命にあるようね。そろそろ別のミナコになる時期かもしれない」
「別のミナコ?」
「こないだ、亡くなった湊子ってオバアチャンも、その一人だったかもしれないわ」
「……なんだか、頭が痛くなってきた」
「少し横になるといいわ。おつかれさま、ミナコ……」
光奈子は、制服のままベッドで、横になった。数時間たって、もう一人の光奈子が帰ってきた。
「ただいまあ~。ああ、お腹空いたあ!」
「檀家さんから頂いた、お饅頭があるわ」
「へへ、お寺の特権だね」
「食べ過ぎないようにね、晩ご飯食べられなくなるから」
「はいはい、別腹でございますわよ(^▽^)」
光奈子が、饅頭の箱を持って自分の部屋に入ると、なんとベッドで寝ている自分を見つけてしまった。
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ほんの数秒で、ベッドの光奈子は消えてしまった……。
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