21 / 161
21『プリンセス ミナコ・3』
しおりを挟む
時かける少女・21
『プリンセス ミナコ・3』
まさか自衛隊の駐屯地で、お祖母様に会うことになるとは思わなかった。
信太山駐屯地のゲートには、なぜか日の丸が二つも掲げられていた。車が近づくと頃合いの風が吹き、二つの旗が翩翻と翻った。
「あ、日の丸とちがう」
そう、一つの旗は、白地に赤い五角形で、真ん中に王冠があしらってある。遠目には日の丸と区別がつかない。それがミナコ公国の国旗であることは、ネットで検索済みだ。
「あのう……大谷ミナコと申します。お祖母ちゃんから、ここに来るように言われたんですけど……」
「大谷ミナコさんですか……」
門衛の隊員さんは、ミナコの見かけにたじろいだ。首から下は普通の女子高生だが、顔はどう見ても欧米人、青い目にブロンド。でも、表情や佇まいは、どうも日本人で、言葉にも大阪弁の訛りがある。
「お祖母様のお名前は?」
「ええと……」
ミナコが、メモ帳を出して、長ったらしいお祖母ちゃんの名前を確認している最中に、軍服いっぱいに勲章やら徽章やら金の肩ひもやらぶら下げた巨漢が現れて、直立不動の敬礼をした。
「これは、ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王陛下の孫殿下であらせられ、故ジョルジュ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ皇太子の王女であらせられるミナコ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ姫。わたくしは侍従武官長のクルス・ド・ダンカン大佐であります! お待ち申し上げておりました!」
い、いらっしゃいませ~(^_^;)
ミナコは、つい昨日までやっていたコンビニ店員さんの挨拶をしてしまった。
「きょ、恐縮であります『曹長、車のご用意!』」
『アイアイア、サー!』
大佐のおかげで、自衛隊の隊員さんまで気を付けになってしまった。
ほんの五百メートルほどをリムジンはしずしずと進み、自衛隊の儀仗隊一個小隊が前後に付いた。
駐屯地のグラウンドまで来ると、向こうから、凄いスピードで戦車がやってきて、リムジンの近くで前のめりになって急停車した。
グガーッ! ブルンブルンブルン……
ガチャリ
で、ドライバーズハッチから出てきたのが、なんと、戦闘服に身を包んだお祖母様であった!
「さすが、自衛隊の装甲戦闘車。機動性がいいですね、ガンポートの死角も少なそうで、十両ばかり譲っていただけないかしら?」
「は、申し訳ございません。我が国には武器輸出三原則が、ございまして……」
「そうだったわね、残念ですが防衛大臣。お国の決まりじゃ仕方ありませんね」
『陛下、王女がこられました』
『ダンカン、まだ、この子は決心したわけではありません。ミナコ・オオタニです。防衛大臣、どこか二人で話せるお部屋、貸していただけません』
「承知いたしました。連隊長、ご案内を」
「ハ!」
二人は、応接室に通された。お祖母様の態度がそっけないのには少し驚いたミナコだった。
「会いたかったわ、ミナコ! ジョルジュに……大昔のわたくしにそっくり!」
ガバ!
お祖母様は、ドアを閉めるなり抱きついてきた。で、体のあちこちを触られるのには閉口するミナコであった。
「あ、あ……お会いできて光栄です……ウッ!」
やっと教えられた挨拶の頭の部分を言ったとき、思わず悲鳴をあげるところだった。両手でムンズとお尻を掴まれてしまった。
「この形、この張り。これが、わがミナコ王家の女の証し……ちょっと小ぶりだけど」
「あ、首から下は、お母さん似なんです」
「奈美子さんの体を触ったことは無いけど、わたくしは、あきらかにミナコは、我が王家の血を引いていることを確信します」
「ええ、子どものころから、外人だって……良くも悪くも言われました」
「そう、苦労したんでしょうねえ……」
「でも、あたしはお母さんの娘ですから。ケセラセラです」
「そう、そうね、奈美子も、そう言って、赤ちゃんのミナコを連れて日本に帰っていったわ……」
女王は、祖母として寂しさを隠さずに言った。目に光るものがあった。
ミナコはウルっときた。
「そして、お母さんが愛した、お父さんの娘でもあるんです……」
不覚にも、ミナコは想定外の言葉を口にした……。
「あなたを、ぜひ、わたくしの後継者として国に迎えたいの」
「あ……でも、日本には武器輸出三原則があります」
「ミナコは、武器なの?」
「はい……ミナコ公国には、この上ない武器になる。そうとちがいますか?」
「あなたは賢い、思った以上です。女王の役割は大変です。いつも国の内外から尊敬され、愛されていなければなりません」
「お祖母様、あたしに、そんなこと……」
「そう、どうしてもダメだったら、断ってくれてもいい……でも、ミナコがわたくしの孫であることは消せない事実。例え悪魔に魂を売り渡してもよ、ミナコ……」
女王の、両の目に涙が溢れた。でも、今度は気持ちを抑えている。その時間を計ったようにドアがノックされた。
「陛下、お時間です」
「分かっています」
ダニエルが入ってきた。今まで、ずっと部屋の外にいたんだろうか。ミナコは意識もしていなかった。
「今度は、領事館の方にでも来てちょうだい。会えて良かったわ」
女王は軽くハグすると、他の侍従といっしょに行ってしまった。
「ほら、ミナコ、今日のお土産」
ダニエルは気楽に、包みを放り投げた。感触から本だと分かった。
「ずいぶん乱暴やねんね」
「決まるまでは、ただの友だちの娘だ。いや、オレたちが、もう友だちかもな。じゃ、また」
ミナコは、往きと同じようにJRの関西本線で家に帰った。
ふとポケットに手を入れると小さなメモが入っていた。
「ああ、これか『やまのちゅうい』 さあて、信太山は鬼門筋だったかな……」
そのメモは、高校に入ったころからポケットにあった。なんだか謎めいているので捨てられずに持っている。
それを、ポケットにしまい込み、ボンヤリ生駒山を見ているところを写真に撮られているとは気づかないミナコであった。
『プリンセス ミナコ・3』
まさか自衛隊の駐屯地で、お祖母様に会うことになるとは思わなかった。
信太山駐屯地のゲートには、なぜか日の丸が二つも掲げられていた。車が近づくと頃合いの風が吹き、二つの旗が翩翻と翻った。
「あ、日の丸とちがう」
そう、一つの旗は、白地に赤い五角形で、真ん中に王冠があしらってある。遠目には日の丸と区別がつかない。それがミナコ公国の国旗であることは、ネットで検索済みだ。
「あのう……大谷ミナコと申します。お祖母ちゃんから、ここに来るように言われたんですけど……」
「大谷ミナコさんですか……」
門衛の隊員さんは、ミナコの見かけにたじろいだ。首から下は普通の女子高生だが、顔はどう見ても欧米人、青い目にブロンド。でも、表情や佇まいは、どうも日本人で、言葉にも大阪弁の訛りがある。
「お祖母様のお名前は?」
「ええと……」
ミナコが、メモ帳を出して、長ったらしいお祖母ちゃんの名前を確認している最中に、軍服いっぱいに勲章やら徽章やら金の肩ひもやらぶら下げた巨漢が現れて、直立不動の敬礼をした。
「これは、ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王陛下の孫殿下であらせられ、故ジョルジュ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ皇太子の王女であらせられるミナコ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ姫。わたくしは侍従武官長のクルス・ド・ダンカン大佐であります! お待ち申し上げておりました!」
い、いらっしゃいませ~(^_^;)
ミナコは、つい昨日までやっていたコンビニ店員さんの挨拶をしてしまった。
「きょ、恐縮であります『曹長、車のご用意!』」
『アイアイア、サー!』
大佐のおかげで、自衛隊の隊員さんまで気を付けになってしまった。
ほんの五百メートルほどをリムジンはしずしずと進み、自衛隊の儀仗隊一個小隊が前後に付いた。
駐屯地のグラウンドまで来ると、向こうから、凄いスピードで戦車がやってきて、リムジンの近くで前のめりになって急停車した。
グガーッ! ブルンブルンブルン……
ガチャリ
で、ドライバーズハッチから出てきたのが、なんと、戦闘服に身を包んだお祖母様であった!
「さすが、自衛隊の装甲戦闘車。機動性がいいですね、ガンポートの死角も少なそうで、十両ばかり譲っていただけないかしら?」
「は、申し訳ございません。我が国には武器輸出三原則が、ございまして……」
「そうだったわね、残念ですが防衛大臣。お国の決まりじゃ仕方ありませんね」
『陛下、王女がこられました』
『ダンカン、まだ、この子は決心したわけではありません。ミナコ・オオタニです。防衛大臣、どこか二人で話せるお部屋、貸していただけません』
「承知いたしました。連隊長、ご案内を」
「ハ!」
二人は、応接室に通された。お祖母様の態度がそっけないのには少し驚いたミナコだった。
「会いたかったわ、ミナコ! ジョルジュに……大昔のわたくしにそっくり!」
ガバ!
お祖母様は、ドアを閉めるなり抱きついてきた。で、体のあちこちを触られるのには閉口するミナコであった。
「あ、あ……お会いできて光栄です……ウッ!」
やっと教えられた挨拶の頭の部分を言ったとき、思わず悲鳴をあげるところだった。両手でムンズとお尻を掴まれてしまった。
「この形、この張り。これが、わがミナコ王家の女の証し……ちょっと小ぶりだけど」
「あ、首から下は、お母さん似なんです」
「奈美子さんの体を触ったことは無いけど、わたくしは、あきらかにミナコは、我が王家の血を引いていることを確信します」
「ええ、子どものころから、外人だって……良くも悪くも言われました」
「そう、苦労したんでしょうねえ……」
「でも、あたしはお母さんの娘ですから。ケセラセラです」
「そう、そうね、奈美子も、そう言って、赤ちゃんのミナコを連れて日本に帰っていったわ……」
女王は、祖母として寂しさを隠さずに言った。目に光るものがあった。
ミナコはウルっときた。
「そして、お母さんが愛した、お父さんの娘でもあるんです……」
不覚にも、ミナコは想定外の言葉を口にした……。
「あなたを、ぜひ、わたくしの後継者として国に迎えたいの」
「あ……でも、日本には武器輸出三原則があります」
「ミナコは、武器なの?」
「はい……ミナコ公国には、この上ない武器になる。そうとちがいますか?」
「あなたは賢い、思った以上です。女王の役割は大変です。いつも国の内外から尊敬され、愛されていなければなりません」
「お祖母様、あたしに、そんなこと……」
「そう、どうしてもダメだったら、断ってくれてもいい……でも、ミナコがわたくしの孫であることは消せない事実。例え悪魔に魂を売り渡してもよ、ミナコ……」
女王の、両の目に涙が溢れた。でも、今度は気持ちを抑えている。その時間を計ったようにドアがノックされた。
「陛下、お時間です」
「分かっています」
ダニエルが入ってきた。今まで、ずっと部屋の外にいたんだろうか。ミナコは意識もしていなかった。
「今度は、領事館の方にでも来てちょうだい。会えて良かったわ」
女王は軽くハグすると、他の侍従といっしょに行ってしまった。
「ほら、ミナコ、今日のお土産」
ダニエルは気楽に、包みを放り投げた。感触から本だと分かった。
「ずいぶん乱暴やねんね」
「決まるまでは、ただの友だちの娘だ。いや、オレたちが、もう友だちかもな。じゃ、また」
ミナコは、往きと同じようにJRの関西本線で家に帰った。
ふとポケットに手を入れると小さなメモが入っていた。
「ああ、これか『やまのちゅうい』 さあて、信太山は鬼門筋だったかな……」
そのメモは、高校に入ったころからポケットにあった。なんだか謎めいているので捨てられずに持っている。
それを、ポケットにしまい込み、ボンヤリ生駒山を見ているところを写真に撮られているとは気づかないミナコであった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる