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160『千両みかん』 

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やくもあやかし物語

160『千両みかん』 




「いえ、文章の文に子どもの子と書いて文子でございます」

「あ、ああ文子さん! あ、ごめんなさい」

「少々珍しい読み方をいたしますので、お間違いになってもしかたありません。両親は町人の娘らしく文と書いて『あや』と付けたのでございますが……」

「あ、あやちゃん、おあやさん、うんうん、普通だよね(^_^;)」

「文左衛門、祖父なのですが。あ、わたしの文は祖父の文左衛門の『文』からきているのですが『文だけではいかにも軽々しい、文の下に一字を付けて堂々とするべきだ』と申しまして『文子』とついた次第でございます」

 なるほど……文左衛門というお祖父ちゃんも、なかなか押し出しの強い人のようだ。

「親は、せめて『あやこ』と柔らかく読ませようとしたのですが『それでは天子様のお姫様のようだ』と反対してブンコと読むようになりました」

 あ、そういえば、うちの居候も親子と書いてチカコだったもんね、チカコどうしてるんだろう……

「しかし、ブンコで良かったと思います」

「そう?」

「はい、紀伊国屋文左衛門の文を頂いたからこそ、このようにミカンの神さまに御守護頂けているのです! 無事に江戸につきますまで、どうぞよろしくお守りいただけますよう、紀伊国屋文子、伏してお願い申し上げます~」

「は、はひ(^△^;)」



 ブンコおおお! 風が止んできたあああ!



 甲板の方から声がして、文子さんは「ほんとかあ!?」と声を上げて船室を出て行った。わたしも、なんとかバランスをとりながら揺れる船室を出て甲板に出ると、進行方向の雲が切れ始め、みるみる風が収まってきた。

「よーし、帆を上げろ! 今度は風の災いを福に変えて、一気に江戸を目指すぞ!」

「「「「合点!」」」」

 ふんどし一丁のおじさんたちが、いっせいにキビキビ動き出して、あっと言う間に〇の中に紀と染め上げた帆を張って、船はグングンと速度を上げていった。



「これも、神さまのおかげでございます!」



 江戸の港で無事に積み荷のミカンを下ろすと、文子さんはじめ乗り組みのおじさんたちが平伏した。

「いえ、そんな。みなさんの腕が良かったから乗り切れたんです、みなさん大したものです!」

「いえいえ、これで、文左衛門祖父ちゃんの跡を継げます、ほんとうにありがとうございました!」

「アハハ、喜んでいただけたら何よりです」

「ようがしたねぇ、これで、ブンコ……文子さんも、やっと一人前の紀伊国屋の跡取りだ! ほんとうによかった!」

 年かさのおじさんが、涙を流して喜んでる。

「ありがとう、みんな! 血のつながらない孫だけど、やっと面目が立ったよ!」

 え、文子さん、血のつながりがなかったの?

「親方が赤ん坊を拾ってきた時は『お寺にでも預けちまいなさい』と言っていたところを、親方は『この子には福相がある、神さまの授かりものだよ』っていって、子どものねえ若旦那夫婦の子になさった。まさに、その通りになりやした!」

「うんうん、みんなありがとう。そうだ、神さまにお礼をしなくっちゃ!」

「文子さーん、売り上げの金が届きやしたああ!」

 船べりから外を見ると、千両箱を積んだ荷車が浜についている。

「しめて五千両か! 思った以上に高値で売れたねえ、とりあえず一箱持って上がっとくれ」

「へい!」

 ドサ

 重厚な音をさせて千両箱が置かれた。

「神さま、せめてものお賽銭です。千両お受け取り下さい」

「え!? いえ、そんな!」

「きちんとお礼をしないと、祖父、文左衛門の名も汚してしまいます。どうぞお納めを」

「え、あ、だって……」

「どうぞ!」

「そ、それじゃあ、おミカンいただいていきますぅ!」

 まだ積み下ろしていないミカンを両手に一個ずつ持つと……目が覚めた。


 突っ伏した机の上には、夢で掴んだミカンが二つ載っていたよ。 




☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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