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155『徐福公園』

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やくもあやかし物語

155『徐福公園』




 ……環境に優しい乗り物です


 視界が戻って目についたのが、この標語なので、いっしゅん黒電話のことかと思った。

 受話器が持ち上がってダイヤルが回って、ちょっと呼び出し音がしたかと思ったら、ここに着いている。

 電話線の中を通って来るんだから、炭素も排気ガスも騒音もないわけで、まさに環境に優しい乗り物!

 と思ったら『鉄道は環境に優しい乗り物です』という青い文字が、鉄筋の建物の幅広の入り口の上に書かれていて、JR新宮駅だということが分かる。

 視線を落とすと、目の前に緑の公衆電話。

 そうか、自分の部屋から電話線を伝って、新宮へやってきたんだ。グーグルアースよりも早いので、ちょっと感動。

 なにより、写真じゃなくてリアルだからね。うちの近所よりも日差しが眩しくて、ちょっとしかめっ面になる。

 ちょっぴり潮の香りもして、海が近いことも偲ばれる。

「ねえ……」

 振り返ると、交換手さんのコスが変わっている。

 なんと、女子高生の制服ですよ。

「あ、やくもさんと一緒なら、こういうのがいいかなって思ったもんですから(^_^;)」

「うんうん、とっても似合ってる!」

 交換手の制服の時は、ずいぶん年上のオネエサンという感じだったけど、JKの制服になると、二つぐらいしか離れてない感じで、とってもフレンドリーになる。

「ほんとうは高等女学校にいきたかったんで、ちょっと制服には憧れがあったんです」

 はにかむ顔は、もうほとんど同級生。

「あっちに行きます!」

 溌溂と指さしたのは、駅前通りを100メートルほどお日様の方向。



「あ、なんか中国みたい!」



 小走りで三十秒ほど、みかん色の瓦が雰囲気の中国式の門。

 門といっても、扉は無くって、真ん中と両脇に入り口があって、とってもイケイケ。

 横浜の中華街にも同じようなのがあるけど、それよりも大きい。

 徐福公園……と立派な扁額がかかっている。

「ヨフクコウエン?」

「ジョフクと読みます、ジョフク公園」

「じょふく……?」

「中に入ってみましょう」

「うん」

 ……そんなに広い公園じゃないんだけど、雰囲気がいい。

 真ん中に大きな木があって、その周囲に池やら記念碑めいた者やら、門と同じコンセプトの売店やら休憩所やらが並んでいる。

「あ、諸葛孔明!」

「いえ、徐福です(^_^;)」

 三国志でお馴染みって石像があったので、つい叫んでしまったら間違った。

 孔明と同じような冠で髭を生やしてるもんだから、アニメとかでお馴染みの諸葛孔明と思ってしまったよ。

「まあ、中国の学者は、みんな同じような服装ですからね」

 そう言われれば、孔明よりは恰幅がいいかも。

 というか、こういうコスの中国の人って孔明と閻魔さんぐらいしか知らない。

「なんで、中国の学者さんの石像が和歌山県に建ってるわけ?」

「徐福さんは、昔々の中国は秦という国の学者さんなんです。ええと、秦て分かります?」

「ええと……聞いたことはあるんだけどね……」

「始皇帝のご家来さんです」

「始皇帝……あ、キングダム! 政(せい)のことだよ!」

 キングダムは、小学校の頃からアニメでやっていて、お祖父ちゃんも観ていて共通の話題が出来て嬉しかった。

 お祖父ちゃんは無駄に知識があるもんで、政が皇帝になってから作った宮殿が、阿呆宮っていって、めちゃくちゃ大きくって、バカを表す阿呆(あほう)の語源になったとか、無駄な運河を作って民衆を困らせたとか意地悪ばかり言ったんだけどね。

「その始皇帝が、東南の海に蓬莱山をいただく島国があって、そこには不老長寿の薬があるそうだから、船団を仕立てて調べてくるように命じたんですよ……」

 そ、そうなのか、あの凛々しい少年王が……いつまでも、少年じゃないのは分かってるんだけどね、イメージはそうなのよ。命惜しさに家臣に無茶ブリしたんだ。

「そして、徐福は、ずんずん船を進めて、海の彼方に見つけたのが、ここ新宮にある蓬莱山だったんです!」

「え、ここにあったの!?」

「はい、この次に見に行きますけどね、徐福が見つけた不老長寿の薬はなんだと思います?」

「え、えと……」

 交換手さんはニヤニヤ笑って、早く降参しなさいって顔してるんだけど、なんせ女子高生の制服なもんで、中学の先輩にいたぶられてるみたいで、ナニクソって気になって「降参、教えて(^_^;)」にはならない。

 すると、さっき入ってきた門の前を、足早に横切っていくスーツ姿のおじさんが目に留まった。

「あ、あの人!?」

「え、知り合いの人?」

「う、うん……」

 それは、学校で、わたし以外であやかしが見える唯一の人。

 教頭先生だった!




☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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