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152『チカコを捜す・和歌山のみかん畑』
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やくもあやかし物語
152『チカコを捜す・和歌山のみかん畑』
電話線を伝って和歌山に来ている。
ほら、江戸城の天守台で見たでしょ。
チカコと家茂さんが寄り添ってお話してるところ。
家茂さん、忙しくって、めったにチカコと話す機会がないもんだから、頑張らなくっちゃいけないと思っていたよ。
いろいろ話題を投げかけて、しまいには『千両蜜柑』ていう落語のネタまで持ち出して、やっとチカコを和ませて。
チカコもブキッチョ。
家茂さんが投げかけてくる話題を真面目に受け止めるんだけど、受け止めているうちに話題が次に行ってしまって、喜んでいる暇がない。
家茂さんの話が早いわけじゃない。
もともとそうなのか、縁切り榎で――楽しむ心――を置いて来てしまったせいか、すぐに反応できないんだ(わたしにも、こう言うところがあって、オヘンコとか感動の薄い奴とか思われる)。
それで、家茂さんが将軍になる前にお殿様を務めていた紀州の話になって、やっと追いついた。
―― ああ、家茂さんは、紀州の、それもみかん畑が見える風景が好きなんだ ――
チカコは思った。
海が臨めるみかん畑。そこに行けば、将軍職でアップアップしている家茂さんではなくて、本当の家茂さんに会えると思った。
海の見えるみかん畑なら、二人で、いつまでも仲良く心を通い合わせると思ったんだ。
み~かんの花が咲いている~ 思い出の道~ 丘の道~
三回目になると憶えてしまった『みかんの花咲く丘』をリフレイン。
「気に入っていただいたようですね」
「そういうわけじゃないけど、もう百回くらいリフレインしてるしぃ」
今日は逓信大臣の交換手さんと和歌山に来ている。
和歌山は神田明神の守備範囲から離れすぎているのでアカミコさんは付いてこれないんだ。
その交換手さんも電波通信事業法の嫌がらせで携帯に参入できないので、固定電話が通じるとこまでしか行けない。
みかん農家さんまでは電話線は繋がってるけど、さすがにみかん畑までは伸びていない。
交換手さんだって、みかん農家さんから先には出られないんだけど、お祖父ちゃんが現役時代に使っていた携帯無線機を借りてきた。これだと、携帯無線機の電波が届く範囲まで交換手さんに付いて来てもらえる。
だから、エッチラオッチラ
天守台で家茂さんの頭に浮かんだイメージのみかん畑を探索して、これで四つ目。
「ごめんなさいね、やくもさん」
「ううん、だって間違ってなかったよ、どのみかんの丘にもチカコの気配が残っていたもの」
そうなんだ、チカコもイメージを追って同じところを周っている。
それが後手に回って、わたしたちはいま一歩のところで間に合わない。
だからね、実は、今から向かうのは五つ目のみかん畑。
一つとばせばピッタリだろうって、聞き耳を立てていた御息所のアドバイスなんだよ。
で、ドンピシャだった。
チカコは、もうお雛さんみたいな親子の姿もやめて、いつもの黒のゴスロリに戻って佇んでいた。
「チカコ……」
「あ、やくも……交換手さんも来てたんだ」
「今日のわたしは携帯無線機ですけど」
「差し出がましいとは思ったんだけど、チカコは、わたしたちの仲間だからね」
「うん、ありがとう。勝手に出てきてしまったのに、ごめんね二人とも」
「いいよいいよ(^_^;)」
気の利いた言葉も浮かばないので、両手をパーにしてハタハタと振る。
「あんなにみかん畑のイメージがハッキリしていたから、ぜったい、ここに居ると思ったんだけどね……家茂さん」
「うん、だよね」
「やっぱり、わたしって、親子(ちかこ)の左手首だから、なにか足りないのかなあ、どこか届かないのかなあ……」
「そ、そんなことは無いと思うよ」
「わたしも、そう思いますよ、チカコさん」
「そうなのかなあ……もう自信なくなってきたよ」
「わたしなんか、真岡で果ててしまって、電話線か電話機の中でしか存在できませんけど、こうやって、お二人とお話ができていますもの」
「わたし、一度も家茂さんに寄り添ってあげられなかったから……ずっとほったらかしにしていたから……」
「チカコ……」
不器用なわたしは名前を呼んでやることしかできない。
なんか、もどかしい。
「あ、お電話です!」
「え?」
「大阪の俊徳丸さまです、いま、お繋ぎ……」
そこまで言うと、交換手さんは急に影が薄くなって消えてしまった。
「交換手さん!」
「あ、電池切れじゃない?」
わたしは急いで、ふもとのみかん農家さんまで走って戻った。
とちゅう、二回も転んでしまった……。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
152『チカコを捜す・和歌山のみかん畑』
電話線を伝って和歌山に来ている。
ほら、江戸城の天守台で見たでしょ。
チカコと家茂さんが寄り添ってお話してるところ。
家茂さん、忙しくって、めったにチカコと話す機会がないもんだから、頑張らなくっちゃいけないと思っていたよ。
いろいろ話題を投げかけて、しまいには『千両蜜柑』ていう落語のネタまで持ち出して、やっとチカコを和ませて。
チカコもブキッチョ。
家茂さんが投げかけてくる話題を真面目に受け止めるんだけど、受け止めているうちに話題が次に行ってしまって、喜んでいる暇がない。
家茂さんの話が早いわけじゃない。
もともとそうなのか、縁切り榎で――楽しむ心――を置いて来てしまったせいか、すぐに反応できないんだ(わたしにも、こう言うところがあって、オヘンコとか感動の薄い奴とか思われる)。
それで、家茂さんが将軍になる前にお殿様を務めていた紀州の話になって、やっと追いついた。
―― ああ、家茂さんは、紀州の、それもみかん畑が見える風景が好きなんだ ――
チカコは思った。
海が臨めるみかん畑。そこに行けば、将軍職でアップアップしている家茂さんではなくて、本当の家茂さんに会えると思った。
海の見えるみかん畑なら、二人で、いつまでも仲良く心を通い合わせると思ったんだ。
み~かんの花が咲いている~ 思い出の道~ 丘の道~
三回目になると憶えてしまった『みかんの花咲く丘』をリフレイン。
「気に入っていただいたようですね」
「そういうわけじゃないけど、もう百回くらいリフレインしてるしぃ」
今日は逓信大臣の交換手さんと和歌山に来ている。
和歌山は神田明神の守備範囲から離れすぎているのでアカミコさんは付いてこれないんだ。
その交換手さんも電波通信事業法の嫌がらせで携帯に参入できないので、固定電話が通じるとこまでしか行けない。
みかん農家さんまでは電話線は繋がってるけど、さすがにみかん畑までは伸びていない。
交換手さんだって、みかん農家さんから先には出られないんだけど、お祖父ちゃんが現役時代に使っていた携帯無線機を借りてきた。これだと、携帯無線機の電波が届く範囲まで交換手さんに付いて来てもらえる。
だから、エッチラオッチラ
天守台で家茂さんの頭に浮かんだイメージのみかん畑を探索して、これで四つ目。
「ごめんなさいね、やくもさん」
「ううん、だって間違ってなかったよ、どのみかんの丘にもチカコの気配が残っていたもの」
そうなんだ、チカコもイメージを追って同じところを周っている。
それが後手に回って、わたしたちはいま一歩のところで間に合わない。
だからね、実は、今から向かうのは五つ目のみかん畑。
一つとばせばピッタリだろうって、聞き耳を立てていた御息所のアドバイスなんだよ。
で、ドンピシャだった。
チカコは、もうお雛さんみたいな親子の姿もやめて、いつもの黒のゴスロリに戻って佇んでいた。
「チカコ……」
「あ、やくも……交換手さんも来てたんだ」
「今日のわたしは携帯無線機ですけど」
「差し出がましいとは思ったんだけど、チカコは、わたしたちの仲間だからね」
「うん、ありがとう。勝手に出てきてしまったのに、ごめんね二人とも」
「いいよいいよ(^_^;)」
気の利いた言葉も浮かばないので、両手をパーにしてハタハタと振る。
「あんなにみかん畑のイメージがハッキリしていたから、ぜったい、ここに居ると思ったんだけどね……家茂さん」
「うん、だよね」
「やっぱり、わたしって、親子(ちかこ)の左手首だから、なにか足りないのかなあ、どこか届かないのかなあ……」
「そ、そんなことは無いと思うよ」
「わたしも、そう思いますよ、チカコさん」
「そうなのかなあ……もう自信なくなってきたよ」
「わたしなんか、真岡で果ててしまって、電話線か電話機の中でしか存在できませんけど、こうやって、お二人とお話ができていますもの」
「わたし、一度も家茂さんに寄り添ってあげられなかったから……ずっとほったらかしにしていたから……」
「チカコ……」
不器用なわたしは名前を呼んでやることしかできない。
なんか、もどかしい。
「あ、お電話です!」
「え?」
「大阪の俊徳丸さまです、いま、お繋ぎ……」
そこまで言うと、交換手さんは急に影が薄くなって消えてしまった。
「交換手さん!」
「あ、電池切れじゃない?」
わたしは急いで、ふもとのみかん農家さんまで走って戻った。
とちゅう、二回も転んでしまった……。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
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小桜さん 図書委員仲間
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