やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお

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149『チカコを捜す・江戸城』

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やくもあやかし物語

149『チカコを捜す・江戸城』   




 電波通信事業法が壁になっているらしい。

 難しい法律なんで、中学生のわたしにはよく分からないんだけどね。

 勝手に放送局作ったり、携帯電話の会社を作ってはいけないという法律。

 昭和59年に公衆電気通信法というのが改正されてできた法律らしい。

 通信事業の自由化のために改正されて作られた法律らしいんだけど、自由化のための法律が、なんで規制するのかよく分からない。

 自分の日常生活に関係なかったら、どうでもいいんだけどね。

 力のある法律は、時間がたつとオバケになって、オタクやファンタジーの世界まで影響を及ぼすんだって。

 いつも優しくシャキッとしている交換手さんが、ちょっとだけ悔しそうに言っていた。

 まあ、法律妖怪というか妖怪法律というか、そういうもんらしいです。



 そいつがね、神保城にやってきたんです。



「神保城と、その領内での携帯電話の普及は電波通信事業法によって、認められません!」と偉そうに言う。

「ここは、アキバのメイド王から小泉やくもがもらった、異世界の領地です。リアル世界の法律の支配は受けません!」

 逓信大臣の交換手さんは、きっぱり断ったんだけど電波通信事業法は、グイッと顔を近づけてきて、交換手さんに言った。

「わがままを言ったら、道交法やら風営法に言って宗主国のアキバを締め上げるぞぉ」とすごまれてしまう。

 アキバに迷惑をかけられないので、交換手さんは、やむなく固定電話の普及で妥協せざるを得なかった。



「それで、ご案内できるところは、電話線が通っているところに限られてしまうんです、申し訳ありません」



 自分の責任ではないのに、交換手さんはマンホールの上で深々と頭を下げる。

 なんで、マンホールの上かというと、千代田区の皇居前は電気や通信のケーブルは地下の共同溝に設置されていて、マンホールが、その出入り口だから。

「だいじょうぶですよ、千代田区は神田明神の膝元、わたしに任せてください」

 微笑んで胸を叩くのはアカミコさん。

 二人にガードされながら、神保城からやってきたところだよ。

 ジャリ ジャリ ジャリ……

「江戸城って、いまは皇居でしょ、中に入れるの?」

 皇居前広場の清らかな砂利を踏みながら、わたしはビビってる。

「大丈夫です。皇居や宮内庁があるのは西の丸です。天守閣や大奥があったのは本丸で、一般に公開されているから問題ありません」

「そ、そうなんだ」

 江戸城って言えば皇居で、お正月の一般参賀とかでなきゃ、一般国民は中に入れないと思っていた。



 チカコは十四代将軍家茂さんの正室で、家茂さんが亡くなるまでは江戸城の大奥に住んでいたはず。

 だから、うちの家から飛び出したチカコは、江戸城に戻ってるんじゃないかと、アカミコさんは推理する。

「チカコって、お城は嫌いだったと思うよ」

 そう言うと、アカミコさんは指を立てて、こう言った。

「大奥というのは、お城ってイメージは全然ないところだから可能性は高いです。お輿入れまでは、不安で嫌がっていたみたいですけど、十四代さまは、とてもお優しく、和宮さんのお心を解しておあげになって、良いご夫婦になられたようですよ。行ってみれば、なにかヒントがあるかもしれません」

 桔梗門から窺える本丸は、木々が茂った大きな公園という感じだったけど、入ってビックリ!

「え、あ、うわ……お屋敷街だ!」

 お濠を渡って、門をくぐると、白壁が続くお屋敷の屋根が幾重にも重なって山岳地帯みたい。

「実際はこうですけどね……」

 アカミコさんが指を振ると、屋根の山岳地帯は半透明になって、現在の公園の姿とダブって見える。

「ちょっと目が疲れるかも(^_^;)」

 アカミコさんが指を下ろすと、またお屋敷街に戻った。

「本丸は平屋ばかりですからね、ザっと位置関係を掴んでおかないと迷子になりますからね」

「あ、昔の江戸城だから、天守閣とか?」

「三百年前に焼けてからは石垣だけですから、目標になりません。天守台って言うんですけど、ほら、屋根の隙間から、ちょっとだけ見えるでしょ?」

「あ、うん、分かりにくいね」

「では、参ります。幻の江戸城ですが、一応靴は脱いで上がりましょう」

 大きな玄関みたいなところで、靴を脱ぐと、靴を持ったまま奥へと進んでいった。



☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 
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