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147『庭先で里見さんとお話する』
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やくもあやかし物語
147『庭先で里見さんとお話する』
里見フセです
里見さんのお嬢さんは、キチンと目を見てあいさつしてくれる。
白のワンピがよく似合って、黒のロングヘア―とも相まって、清潔な威圧感がする。
むかしのわたしだったら、息苦しさに窒息しそうになって逃げだしたと思うよ。
「ごめんなさいね、急に庭先に現れてしまって。お玄関から伺うと、小父様や小母様に出くわすでしょ……」
「あ、いえいえ(^_^;)」
お爺ちゃんもお婆ちゃんも、散歩の途中でよく出くわすお馴染みさん、今さらなんだけど……ま、いい。
「八房が、無理なお願いをしてごめんなさい」
手をおなかの前で重ねて、きちんと頭を下げる里見さん。
なんだか、皇族のお姫様みたいで、アセアセで頭を下げる。
「いえいえ、大してお役にも立ってませんし、八房もお礼にって檜ぶろくれましたし」
「それは……お気に召したのなら幸いなんですけど、あんなものではお礼にならないくらいやくもさんにはお世話になっています。将門さまにもお会いになって、わたしがやっていた時よりも沢山お引き受けになって」
「あ、ああ、ドンマイです。えと、けっこう楽しくやってますから。お礼に、お城とかも頂いちゃって、うちのフィギュアたちも気に入って、なんだか住み着いちゃいそうな勢いです」
「いえいえ、みんな、やくもさんの優しさに付け込んでいるんです。あちらの世界で、いくら御褒美をもらっても、こちらの世界では使えないものばかりでしょ?」
「え、まあ、それはそうなんですが……」
「わたしも、やっと回復してきました。八房も、近ごろでは車いすも使っていませんし、これからは、わたしがやります。もともとは、わたしがやっていたことなんですから」
「あ、でも……」
元気になったとは言っても、目の前の里見さんは、白のワンピのせいかもしれないけど、首筋や手足の細さ白さが儚げすぎる。これは、敵をやっつけても、その代償に、この世から消えてしまいそうな感じだよ。とても「そうですか、じゃ、頑張ってください」にはならないよ。
「フフ、わたしが白いものを身に着けているのは、ちがうんですよ」
「ちがう?」
「白のワンピースといえば、なんですか?」
「ええと……え……まさか?」
「はい、ウェディングドレスです。まだ道半ばですから、こんなシンプルなワンピースですけど、成就すれば、ベールもブーケも、お花やリボンのフリフリも付いて、立派なウェディングドレスになります」
「だれのお嫁さんになるんですか?」
「八房のお嫁さんになるんですよ(^▽^)」
「え……ええ!?」
「そういう約束なのです。亡くなった父が『それはならん!』と言って、八房は身を引いたんですけど」
だろうね、犬と人間……ありえないよ。
「でも、父は間違っています。ちゃんと、八房は父の言いつけを守って、仇をとったんですから、約束は守らなければなりません。そういうことですから、残りの任務は、わたしがいたします!」
「は、はい……」
「それよりも、今は、親子(ちかこ)さんのことでしょ?」
「はい……」
「やくもさん……ちょっと途方にくれていますね?」
「はい、チカコったら、どこにいるのか……」
「親子といういうのは、徳川家茂さんに嫁ぐと決まった時に帝がお与えになった諱(いみな)です」
「はい、それは調べました」
「親子と書いてチカコと読ませることは、ちょっと珍しいんですよ」
「そうなんですか?」
「スマホでひいてごらんなさい」
「はい」
千賀子 千佳子 知加子 睦子 允子 俔子 史子 央子 周子 実子
「あれぇ?」
「親子と書いてチカコと読ませるのは変換候補に挙がってこないでしょ?」
「はい」
「帝は、諱に願いを込められたのです。朝廷と幕府の間を親しいものにしてくれるように……あの結婚は、公武合体の願いが籠められた結婚でしたからね」
「……でも、それって、十四歳の女の子が背負うのには重すぎませんか、可哀そうです」
「そうね、でも親しむのは、朝廷と幕府ばかりではないと思います。夫になる家茂さんとも親しく良い夫婦になって欲しいという願いも込められていますよ」
「……そうなんだ」
「親子の甥にあたる明治天皇の諱は睦仁です。睦は、仲睦まじくの睦で、親子の親と同じ意味です。そこを思って探したら、見つかるような気がします」
「は、はい」
「フフ、少し、余計なことを言いました。では、これからは、わたしが引き受けます。やくもさんは、まず親子さんを探してあげてください」
「はい」
「ま、ご近所の縁ですから、手に余ることがあったら、またお願いにあがるかもしれませんけども。それでは……」
「ありがとうございました」
「いいえ、お礼を言うのはわたしのほうです。それから、これからは『里見さん』ではなく『フセ』とか『フセちゃん』と呼んでくださると嬉しいです」
「わたしも、さん抜きの『やくも』でいいですから!」
「そう、嬉しい。それでは失礼します、やくも」
里見……フセさんは、庭の隅から母屋の角を曲がって帰って行った。
あ、カップ麺!?
冷めて伸びまくっていると思ったけど、ちょうど食べごろに仕上がっていたので、美味しくいただいて寝たよ。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
147『庭先で里見さんとお話する』
里見フセです
里見さんのお嬢さんは、キチンと目を見てあいさつしてくれる。
白のワンピがよく似合って、黒のロングヘア―とも相まって、清潔な威圧感がする。
むかしのわたしだったら、息苦しさに窒息しそうになって逃げだしたと思うよ。
「ごめんなさいね、急に庭先に現れてしまって。お玄関から伺うと、小父様や小母様に出くわすでしょ……」
「あ、いえいえ(^_^;)」
お爺ちゃんもお婆ちゃんも、散歩の途中でよく出くわすお馴染みさん、今さらなんだけど……ま、いい。
「八房が、無理なお願いをしてごめんなさい」
手をおなかの前で重ねて、きちんと頭を下げる里見さん。
なんだか、皇族のお姫様みたいで、アセアセで頭を下げる。
「いえいえ、大してお役にも立ってませんし、八房もお礼にって檜ぶろくれましたし」
「それは……お気に召したのなら幸いなんですけど、あんなものではお礼にならないくらいやくもさんにはお世話になっています。将門さまにもお会いになって、わたしがやっていた時よりも沢山お引き受けになって」
「あ、ああ、ドンマイです。えと、けっこう楽しくやってますから。お礼に、お城とかも頂いちゃって、うちのフィギュアたちも気に入って、なんだか住み着いちゃいそうな勢いです」
「いえいえ、みんな、やくもさんの優しさに付け込んでいるんです。あちらの世界で、いくら御褒美をもらっても、こちらの世界では使えないものばかりでしょ?」
「え、まあ、それはそうなんですが……」
「わたしも、やっと回復してきました。八房も、近ごろでは車いすも使っていませんし、これからは、わたしがやります。もともとは、わたしがやっていたことなんですから」
「あ、でも……」
元気になったとは言っても、目の前の里見さんは、白のワンピのせいかもしれないけど、首筋や手足の細さ白さが儚げすぎる。これは、敵をやっつけても、その代償に、この世から消えてしまいそうな感じだよ。とても「そうですか、じゃ、頑張ってください」にはならないよ。
「フフ、わたしが白いものを身に着けているのは、ちがうんですよ」
「ちがう?」
「白のワンピースといえば、なんですか?」
「ええと……え……まさか?」
「はい、ウェディングドレスです。まだ道半ばですから、こんなシンプルなワンピースですけど、成就すれば、ベールもブーケも、お花やリボンのフリフリも付いて、立派なウェディングドレスになります」
「だれのお嫁さんになるんですか?」
「八房のお嫁さんになるんですよ(^▽^)」
「え……ええ!?」
「そういう約束なのです。亡くなった父が『それはならん!』と言って、八房は身を引いたんですけど」
だろうね、犬と人間……ありえないよ。
「でも、父は間違っています。ちゃんと、八房は父の言いつけを守って、仇をとったんですから、約束は守らなければなりません。そういうことですから、残りの任務は、わたしがいたします!」
「は、はい……」
「それよりも、今は、親子(ちかこ)さんのことでしょ?」
「はい……」
「やくもさん……ちょっと途方にくれていますね?」
「はい、チカコったら、どこにいるのか……」
「親子といういうのは、徳川家茂さんに嫁ぐと決まった時に帝がお与えになった諱(いみな)です」
「はい、それは調べました」
「親子と書いてチカコと読ませることは、ちょっと珍しいんですよ」
「そうなんですか?」
「スマホでひいてごらんなさい」
「はい」
千賀子 千佳子 知加子 睦子 允子 俔子 史子 央子 周子 実子
「あれぇ?」
「親子と書いてチカコと読ませるのは変換候補に挙がってこないでしょ?」
「はい」
「帝は、諱に願いを込められたのです。朝廷と幕府の間を親しいものにしてくれるように……あの結婚は、公武合体の願いが籠められた結婚でしたからね」
「……でも、それって、十四歳の女の子が背負うのには重すぎませんか、可哀そうです」
「そうね、でも親しむのは、朝廷と幕府ばかりではないと思います。夫になる家茂さんとも親しく良い夫婦になって欲しいという願いも込められていますよ」
「……そうなんだ」
「親子の甥にあたる明治天皇の諱は睦仁です。睦は、仲睦まじくの睦で、親子の親と同じ意味です。そこを思って探したら、見つかるような気がします」
「は、はい」
「フフ、少し、余計なことを言いました。では、これからは、わたしが引き受けます。やくもさんは、まず親子さんを探してあげてください」
「はい」
「ま、ご近所の縁ですから、手に余ることがあったら、またお願いにあがるかもしれませんけども。それでは……」
「ありがとうございました」
「いいえ、お礼を言うのはわたしのほうです。それから、これからは『里見さん』ではなく『フセ』とか『フセちゃん』と呼んでくださると嬉しいです」
「わたしも、さん抜きの『やくも』でいいですから!」
「そう、嬉しい。それでは失礼します、やくも」
里見……フセさんは、庭の隅から母屋の角を曲がって帰って行った。
あ、カップ麺!?
冷めて伸びまくっていると思ったけど、ちょうど食べごろに仕上がっていたので、美味しくいただいて寝たよ。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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