上 下
143 / 161

143『お客は二丁目断層』

しおりを挟む
やくもあやかし物語

143『お客は二丁目断層』   




 応接室のソファーに座っていたのは、同じ中学、後姿の女生徒。

「やあ、久しぶり」

 そう言って振り返った顔は、あたしだ。

「ゲ」

「アハハ、『ゲ』はないだろう」

 そう、そいつは、外見的には、あたしとソックリな二丁目断層だよ。

 断層のくせに妖で、目の前に現れる時は、いつもあたしソックリに化けている。

 本性は、神さまがインクを落としてできた染みみたいなまっくろくろすけ。

 わたしと同じ能力者の教頭先生が「けして直に見ちゃいけない」と言って、体育館の鏡に映してしか見せなかった、ご近所きってのあぶない奴。

 アカメイドさんも、二丁目断層だって言ってくれればいいのに。

「言ったら、会ってくれなかっただろ。それに、メイドさんには違う姿見せてたし」

「むー」

「いいお城じゃないか、ほら、新築祝い」

「え……てか、新築じゃないよ。もらったもんだし……なんなの?」

 断層が取り出したのは小さな紙箱。お祖父ちゃんが通販で買った腕時計が入っていたくらいの黒い箱。

「開けてごらんよ」

「う、うん……」

 なんかパンドラの箱めいてるんだけど、教頭先生が――直に見ちゃいけない!――というほど悪い奴じゃないというのは分かっている。

 断層の頼みで預かったチカコは、とっつきは悪いけど、いい子だしね。ひょっとしたら、うちの家だけの超局地的地震とか起こして意地悪するかと思ったけど、そういうこともなかったし。

 パカ

 開けると、ほとんど透明な霧みたいなのが立ち上って、あっという間に窓から出て行った。

「……なに?」

「ボクの気だよ」

「ゲ、あんたの気!?」

「もう、ゲって言うなよ。あれは、ボクと同じ力で外敵から城を守ってくれるんだぞ」

「バリア的な?」

「アキバは夢はあるけど、守りに弱くってさ、まだ歴史が浅いし。このお城も、やくもがアキバを護ってやったお礼だろ?」

 それもそうだよね……納得してどうすんのよ、あたし。

「で、なんの御用なの?」

「ご挨拶だなあ……まあいいや。実は親子(ちかこ)のことなんだ」

「チカコ?」

「やくものお蔭で、ずいぶん明るくなった。積極的になったし、口数も多くなった……ほら、あんなに元気に……」

 ドタドタドタ!

 窓の下、庭を走る音がする。「待てえ!」とか「コラー!」とか言ってチカコが御息所を追いかけまわしている。

「やくもに預ける前は、あんな元気に走り回るような子じゃなかった」

「あれはね、御息所が、チカコをからかったのよ。御息所は気に入ってるみたいだけど、チカコは、あんまりお城が好きじゃないみたいで」

「昔は、あんなに好き嫌いが言える子じゃなかった、元気になったんだよ……」

 なんか、しみじみと愛しむような目でチカコの姿を見る二丁目断層。

 なんか……やだ。

「そうか……やくもは、親子を実の姉妹のように思ってくれているんだ」

「え、あ、それは……(;'∀')」

 こいつ、人の心を読むんだ。

「ボクは、断層が好きでね……」

 そりゃ、あんた自身リアル断層だもん。

「断層というのは、相反するものがせめぎ合って困っている状況なんだよ……放っておくと、いつか『せめぎ合い』が溜まっちゃって、ドッカーン! グラグラってきちゃう。中には押しつぶされるのもいたりして……そうだね、ボクは親子に思い入れがきつすぎたから、つい出しゃばっちゃった。こういうことは、やっぱり本人が出てこなくっちゃね……あとで、もう一度連絡するよ。じゃあね」

 そう言うと、二丁目断層は無数のポリゴンみたいに細かくなって消えて行った。

 キャー ドタドタドタ キャー ドタドタドタ

 あいかわらず、庭ではチカコが御息所を追いかけまわし、アノマロカリスや、他のフィギュアたちも加わっていたよ。



☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...