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142『神保城・2』
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やくもあやかし物語
142『神保城・2』
どこかで見たことがある……
神保城のあちこちを探検して思ったよ。
大きなお城なんだけど、窓とかバルコニーから見える尖塔とか櫓とか。大手門入ったとこの広場の具合。全体としてコの字型に配置されてる建物とか。
それに、なによりお城から見える景色っていうかロケーション。
お城は独立した峰の頂にあるんだけど、峰は背後にも繋がって大きな山になって、そこから滝が流れてて、お城を取り巻く天然の堀になってる。
堀は、お城を取り巻いたあとは下流に流れて、ふもとの街を潤して湖に流れ込んでいる。
これって、ノイシュバンシュタイン城だ。
ちょっと舌を噛みそうな名前なんだけど、わたしは正確に覚えてる。
だって、ノイシュバンシュタイン城は、ディズニーのシンデレラ城のモデルなんだよ。
子どもの頃、ディズニーランドに行きたくって、絵本とか動画とかをよく見ていた。
ディズニーランドっていえば、ゲートを入ったらワールドバザールを抜けて正面に見えてくるシンデレラ城だよ。
それで、シンデレラ城のことをいろいろ調べた。
そしたら、シンデレラ城は、本当は眠れる森の美女のお城がモデルだって分かった。
それが、なんでシンデレラ城になったか? 多分ね、眠れる森の美女よりもシンデレラの方がメジャーだから。
それに、眠れる森の美女城って言いにくい。シンデレラ城の方がだんぜん言いやすいでしょ。
そのシンデレラ城のモデルになったのがノイシュバンシュタイン城って言われてる。
それを知ってからね、ノイシュバンシュタイン城の写真を学校の図書室で発見した。
それは、二か月で一枚めくる式のカレンダーだったから、図書の先生に「つぎ、めくる時にください!」ってお願いしといた。
そして、お城の写真のとこだけにして机の前に張っておいたんだ。
「やくも、ドイツに行きたいの?」
お母さんが、笑いながら聞いた。
「あ、とってもファンタジーだから、図書の先生に言って、もらったの!」
シンデレラ城にしなくてよかったと思ったよ。
だってさ、シンデレラ城を張っていたら「やくも、ディズニーランド行きたいの?」ってお母さんは聞いてくる。
ほとんど鍵っ子だったわたしに、お母さんは引け目感じてて、ちょっと無理してもディズニーランドに連れてってやろうと思うよ。
ディズニーランド行ったら、親子二人の一か月分の食費代が飛んで行ってしまう。
だから、ノイシュバンシュタイン城。
それが自分のものになったんだから、これは、もう興奮ですよ。
どこに行くにも、長い廊下とか階段とかがあるんだけど、それはそれで3Dラビリンスって感じでおもしろい。
部屋の仲間たちも等身大になったり擬人化したりして、好き好きにお城の中を歩き回ってるし。
アノマロカリスは立派な鎧を着た将軍みたいだし、交換手さんは女逓信大臣とか言って、城内に電話回線張り巡らすのに熱中している。イモニク(妹が憎たらしいのには訳がある)のキャラたちもあちこちに散らばって自分の部屋を確保して、御息所は、勝手に二部屋ぶち抜いて平安時代風にしてしまうし。
あら?
ちょっとくたびれて、尖塔に登ってみると、凸凹の胸壁に頬杖付いてチカコがタソガレてる。
「チカコ、くたびれた?」
「ちょっと、お城って苦手」
「そうなんだ……」
いつもは1/12のフィギュアの姿だから気にならなかったけど、等身大になると、なんだかリアルにアンニュイってか、寂しそう。
「ちょっと、遊び過ぎたから、もう家に帰ろうか?」
「いいわよ、みんな楽しそうだし」
「だって、だいぶ時間もたっちゃったし」
「やくも、聞いてなかったの?」
「なにを?」
「神保城にいる間は、リアルの世界では時間は経たないのよ」
「え、そうなの?」
「ハハ、もう、ここに三日もいるのよ」
「ええ! そうなの!?」
「フフ、ほら、やくもだって楽しいから時間のたつのも忘れてる」
「アハハ、そうなんだ」
その後は、なんとなく話が途切れてしまって、わたしは階段を下りて広間に戻る廊下に出たよ。
「やくもさま」
メイドさんがうやうやしく頭を下げる。
「あら、アカメイドさん」
「はい、本日より、神保城に出向するように仰せつかってまいりました」
「あ、そうなんだ(^_^;)」
なんか、至れり尽くせりで、ちょっと怖くなってきたかも。
「アオメイドさんは?」
「はい、来客がありましたので対応して……あ、参りました」
アオメイドさんが、ちょっと急ぎ足でやってきた。
「やくもさま、お客さまでございます。第一応接室にお運びください」
「あ、ありがとう。どなたのなの?」
「一丁目のご近所の方です」
「あ、うん」
それだけを聞いて、それ以上は気いちゃいけない感じがして、第一応接室に向かったよ。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王
142『神保城・2』
どこかで見たことがある……
神保城のあちこちを探検して思ったよ。
大きなお城なんだけど、窓とかバルコニーから見える尖塔とか櫓とか。大手門入ったとこの広場の具合。全体としてコの字型に配置されてる建物とか。
それに、なによりお城から見える景色っていうかロケーション。
お城は独立した峰の頂にあるんだけど、峰は背後にも繋がって大きな山になって、そこから滝が流れてて、お城を取り巻く天然の堀になってる。
堀は、お城を取り巻いたあとは下流に流れて、ふもとの街を潤して湖に流れ込んでいる。
これって、ノイシュバンシュタイン城だ。
ちょっと舌を噛みそうな名前なんだけど、わたしは正確に覚えてる。
だって、ノイシュバンシュタイン城は、ディズニーのシンデレラ城のモデルなんだよ。
子どもの頃、ディズニーランドに行きたくって、絵本とか動画とかをよく見ていた。
ディズニーランドっていえば、ゲートを入ったらワールドバザールを抜けて正面に見えてくるシンデレラ城だよ。
それで、シンデレラ城のことをいろいろ調べた。
そしたら、シンデレラ城は、本当は眠れる森の美女のお城がモデルだって分かった。
それが、なんでシンデレラ城になったか? 多分ね、眠れる森の美女よりもシンデレラの方がメジャーだから。
それに、眠れる森の美女城って言いにくい。シンデレラ城の方がだんぜん言いやすいでしょ。
そのシンデレラ城のモデルになったのがノイシュバンシュタイン城って言われてる。
それを知ってからね、ノイシュバンシュタイン城の写真を学校の図書室で発見した。
それは、二か月で一枚めくる式のカレンダーだったから、図書の先生に「つぎ、めくる時にください!」ってお願いしといた。
そして、お城の写真のとこだけにして机の前に張っておいたんだ。
「やくも、ドイツに行きたいの?」
お母さんが、笑いながら聞いた。
「あ、とってもファンタジーだから、図書の先生に言って、もらったの!」
シンデレラ城にしなくてよかったと思ったよ。
だってさ、シンデレラ城を張っていたら「やくも、ディズニーランド行きたいの?」ってお母さんは聞いてくる。
ほとんど鍵っ子だったわたしに、お母さんは引け目感じてて、ちょっと無理してもディズニーランドに連れてってやろうと思うよ。
ディズニーランド行ったら、親子二人の一か月分の食費代が飛んで行ってしまう。
だから、ノイシュバンシュタイン城。
それが自分のものになったんだから、これは、もう興奮ですよ。
どこに行くにも、長い廊下とか階段とかがあるんだけど、それはそれで3Dラビリンスって感じでおもしろい。
部屋の仲間たちも等身大になったり擬人化したりして、好き好きにお城の中を歩き回ってるし。
アノマロカリスは立派な鎧を着た将軍みたいだし、交換手さんは女逓信大臣とか言って、城内に電話回線張り巡らすのに熱中している。イモニク(妹が憎たらしいのには訳がある)のキャラたちもあちこちに散らばって自分の部屋を確保して、御息所は、勝手に二部屋ぶち抜いて平安時代風にしてしまうし。
あら?
ちょっとくたびれて、尖塔に登ってみると、凸凹の胸壁に頬杖付いてチカコがタソガレてる。
「チカコ、くたびれた?」
「ちょっと、お城って苦手」
「そうなんだ……」
いつもは1/12のフィギュアの姿だから気にならなかったけど、等身大になると、なんだかリアルにアンニュイってか、寂しそう。
「ちょっと、遊び過ぎたから、もう家に帰ろうか?」
「いいわよ、みんな楽しそうだし」
「だって、だいぶ時間もたっちゃったし」
「やくも、聞いてなかったの?」
「なにを?」
「神保城にいる間は、リアルの世界では時間は経たないのよ」
「え、そうなの?」
「ハハ、もう、ここに三日もいるのよ」
「ええ! そうなの!?」
「フフ、ほら、やくもだって楽しいから時間のたつのも忘れてる」
「アハハ、そうなんだ」
その後は、なんとなく話が途切れてしまって、わたしは階段を下りて広間に戻る廊下に出たよ。
「やくもさま」
メイドさんがうやうやしく頭を下げる。
「あら、アカメイドさん」
「はい、本日より、神保城に出向するように仰せつかってまいりました」
「あ、そうなんだ(^_^;)」
なんか、至れり尽くせりで、ちょっと怖くなってきたかも。
「アオメイドさんは?」
「はい、来客がありましたので対応して……あ、参りました」
アオメイドさんが、ちょっと急ぎ足でやってきた。
「やくもさま、お客さまでございます。第一応接室にお運びください」
「あ、ありがとう。どなたのなの?」
「一丁目のご近所の方です」
「あ、うん」
それだけを聞いて、それ以上は気いちゃいけない感じがして、第一応接室に向かったよ。
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やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
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お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
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小桜さん 図書委員仲間
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