上 下
141 / 161

141『神保城』

しおりを挟む
やくもあやかし物語

141『神保城』   




 意外にかわいい顔をしている……メイド王さんだよ。


 仮にも王様だし、遅れたのはわたしの方だし、起こしちゃ悪いって思った。

 取次のメイドさんだって立ったまま居眠りしてたしね。

 ここは、お目覚めになるまで待っているしかないと思うわけですよ。

 衣装がね、王様らしいローブなんか着て、首には貂かなにかの襟巻みたいなの巻いて、頭には略式の王冠。

 略式と言っても、王様だから、そこらへんの王女様のティアラなんかよりもゴッツいよ。



 カクン



 なにか夢でもみたのか、体かカクンとして襟巻の半分がズレて喉元から鎖骨にかけて露わになる。

 その露わになったところが白くて華奢でね。ちょっと感動。

 なんというか、宝塚音楽学校の娘役の生徒さんが、文化祭で無理して王さま役をやっているような感じ。

 ちょっと倒錯したような可愛さに、思わず見とれてしまう。

 
 コンコン


 謁見室のドアがノックされて「はい」って応えたら、メイドさんが六人も入ってきた。

 二人がテーブル、もう二人が一脚ずつ椅子、もう一人がトレーにティーセット載せたのを捧げ持ってる。

 あ、一人はメイド長って感じで、ツカツカと王さまの横に行くと、なにか囁いた。

「あ、これはすまん。あまりの心地よさに、ちょっと居ねむってしまったようだな。よく来たな、やくも。そちらの椅子に掛けられよ。あとは、わたしがやる。下がってよいぞ」

「では、失礼いたします」

 メイド長が言うと、五人のメイドさんたちも頭を下げて謁見の間を出て行った。

「すみません、わたしの方こそ遅れてしまって、お待たせしてしまいました」

「この城は険しい峰の上にあるからなあ、初めての者は、たいてい時間がかかる。わたしの方も、それを見越していたところがあるんだよ。やくもを待つという口実で、少し寛ぐことができた。メイドたちも心得ていて、みな適当に休んでいたよ。取次はいわば貧乏くじで起きていなければならなかったのだが、あまりの心地よさに立ったまま舟をこいでおったとか。まあ、このわたしが居ねむっていたのだから許してやっておくれ」

「いえいえ、そんなことを言われると身の置き所がありません(^_^;)」

「だから、この城がそなたの身の置き所……ちょっとひっかけてしまったかな(^_^;)」

「はあ」

「この城は『ジンボウ城』という名前なんだ」

「ジンボウ?」

「漢字で書けば『神保城』だ」

 神保……聞いたことがある。

「うん、神田の神保町だ」

「あ、ああ、古本屋さんがいっぱいあるんですよね」

「ほう、神田の古書店街を知っているのか?」

「あ、お母さんが、ときどき仕事で本とか探しに」

「じゃあ、やくももいっしょに行くのか?」

「いえ、あそこだけは一人で行ってました『やくもはチョロチョロして目が離せないから』って」

「ハハハ、気持ちは分かるぞ」

「わたし、そんなにチョロチョロしません」

「あそこは、一人で行って、じっくりと本を探す街だ。どんな大人しい者でも連れて行くと集中できないんだよ」

「はあ、そうなんですか」

「なんで『神保町』と云うか分かるかな?」

「え?」

「一般には、江戸の昔に神保という旗本の屋敷があったからということになっているがな。実は、神の力を保つで『神保町』なのだよ」

「神の力?」

「これをご覧」

 王さまが指を振ると千代田区とその周辺の地図が現れた。

「この丸で囲んだところが、時計回りに上野寛永寺、アキバ、神田明神だ。結ぶと縦に長い三角形になる」

「あ、ほんとだ」

「で、いずれも皇居の丑寅、つまり鬼門にあたるわけさ。もともと、神田明神は、その目的で祀られたし、上野の寛永寺は家康が江戸の鬼門封じにその外側に補強の意味で作った。そして、さらに発展して大きくなった東京の守護として、アキバが発展した」

「アキバが鬼門封じなんですか!?」

「ああ、そうだ。邪気から大切なものを護るには『気』が必要なんだ。大勢の人の『大切なものを求める気』『大切なものを護る気』が必要なのだ。しかし、上野と神田だけでは追いつかず、昭和の後半からアキバに力が注ぐがれるようになった」

「なるほど……」

「しかし、二十一世紀になると、それでも追いつかず。ついには、神田川に蛇の妖が住み着くようにさえなってしまった」

「あ、それが!?」

「そうそう、やくもが退治してくれた蛇やら龍だ。明治からこっち、将門さんは、その責任感の強さから、ほとんどお一人でやってこられたが、今の状況は、やくもが経験したとおりなんだ」

 言葉を濁しているけど、将門さんとアキバの連携はうまく行ってないところがあるんだ。

「上野・神田・アキバを結ぶ三角形は、いわば鬼門を護るための刀なのだよ。そして、その刀の柄にあたるところが、この神保町なのだ」

 ちょっと怖くなってきたよ……御息所がもらった寝殿造りみたいに、気楽に天蕎麦楽しむってわけにはいかないかも(;'∀')。

「あ、これは怖がらせてしまったな、すまんすまん。要は、ここでやくもが楽しく過ごしてくれたらいいんだ。やくもが、のんびりしたり楽しんでくれれば、それだけで、この神保城の気が上がって、守れることになっているから。まあ、とりあえず、新しい城主を迎える宴会をやろう!」

 チリンチリン

 メイド王が指を振ると、どこかで連動しているんだろう、気持ちのいい鈴の音がして、城内のあちこちで宴会の準備をする音やら声々が湧き上がった。

「ああ、やっと着いたあ!」

「ああ!?」

 声に振り向くと、チカコと御息所が、いつもの1/12ではなくて、等身大になって現れた。

「どうも、洋風というのは落ち着かぬのう」

「フフ、自分のよりも立派だからやっかんでるのね」

「そ、そんなんじゃないわ!」

「アハハハ」

 チカコと御息所が追いかけ合いを始めると、入り口には、紺の制服……あ、交換手の制服着た黒電話さん! 他にも半人化したアノマロカリスやら、フィギュアたち、普段は本棚に収まってるラノベやマンガたちも、手足が生えてメイドさんたちに案内されてる。

 謁見室は、壁が取り払われて大広間になって、あっという間に大宴会になってしまった!

 みんな、わたしの部屋のグッズたち。

 できたら、他のあやかしたちや、お爺ちゃんお婆ちゃん、お母さんたちも呼べたらいいなあと思ったよ。

 まあ、これからの課題だね。



☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...