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138『残され犬がウロウロ』

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やくもあやかし物語

138『残され犬がウロウロ』




 ちょっと、あれを見てください……


 白虎をやっつけて、空き箱の中でグッタリしていると、アキバ子が声を上げた。

「……なに?」「……なによ?」「……なんじゃ?」

 ノロノロと三人、空き箱の縁から首を出してアキバ子の指の先を見る。

 指先の『あれ』は、高速移動しているようで、アキバ子の指がせわしなく動く。動きに従って、三人の首も動くので、動物園のペンギンが餌につられて集団で首を動かすのに似ていると思ったよ。

「「「あ」」」

 同時に気付いた。

 犬が、ウロウロオロオロと相棒の白虎を探しているのだ。

「気が付いていないんですね……」

「ククク……バカな犬よのう、土星の輪に溶けてしまったことが理解できないのじゃなあ」

「意地が悪いわよ、御息所」

「何を言う、わらわたちを、あそこまで苦しめた片割れじゃぞ。あれくらいの報いは受けてよいのじゃ」

「載せられていたんじゃないかな……」

「やくもまでが何を言う、乗っていたのは犬の方であろうが」

「だって、あんなに耳も尻尾も垂れて、かわいそうじゃない」

 クーーーン クーーーン

「ほら、悲しそうに鳴いている……」

「ゲ、やくも、そなた犬を連れて帰るつもりではあるまいな?」

「それは止めた方がいい。ただでも、アノマロカリスとかフィギュアとか黒電話とか……居るのよ」

「チカコ、なぜわらわを見る?」

「たまたまよ、たまたま」

 クーーーン クーーーン

 悲しそうに、ウロウロと歩き回る犬。

「あの、スピードじゃ土星の輪とも同化しませんね……」

「そのうち、衛星の一つになるであろう、捨て置けばよい」

「「「薄情~~~」」」

「ふん!」

 ソッポを向いてしまう御息所。

 そういうわたしたちも、空き箱の縁に掴まって見ているしかないんだけどね……あ……思いついた!

 ガサゴソ ガサゴソ

「ちょ、狭いんだから、ゴソゴソしないでよね」

「ごめん……あった!」

 それは、お祖父ちゃんからもらったVic〇orの犬だ。

「二人で、仲良く聴くのよお!」

 そう言って、犬の傍に放ってやる。

「あ、犬が寄ってきましたよ(^▽^)」

 最初はためらいがちにまわりを周って、遠慮というか警戒している犬だったけど、先客の犬が耳を動かして『そっちならいいよ』って感じで促すと、蓄音機を挟んで狛犬のように並んだよ。

「おお、おお、仲良く耳を傾けておるわ」

「一件落着ね」

「チームワークの勝利ね(^_^;)」

「ちょっと大変でしたけど、そのお蔭で、犬までやっつけなくて済みましたね」

「そうだよね、無駄な殺生しなくて済んだ」

「じゃ、アキバにもどりましょうか、みなさんお待ちかねです」

「そうじゃそうじゃ、今度も勲章をもらわなくてはな」

「えと、そういうの、ちょっと苦手だし……ちょっと、疲れたしね(^_^;)」

「そうですか……よし、ではお家までお送りします」

「え、アキバのエスカレーターでなくてもいいの?」

「アハハ、裏アキバのアキバ子ですから、裏技でいきます。プチワープしますから、箱の中に収まって、シートベルトをしてください」

「心得た」「うん」「はい」

 三人三様に声を上げて、空き箱は土星軌道からワープしたよ。

 ピューーーン

 でも、ワープしながら思った。

 あの蓄音機から聞こえてくるのは、いったいなんだったんだろうね?



☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 
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