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110『里見さんのお嬢さんと飼い犬のハチ』
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やくもあやかし物語
110『里見さんのお嬢さんと飼い犬のハチ』
うちの近所に里見さんというお家がある。
ときどき、娘さんが犬を散歩させているのに出会う。
「ご近所の人には、ご挨拶するのよ」
今の家に越すにあたって、お母さんから注意された。
人見知りの性格なので、この『ご挨拶』がね、ちょっと苦手。
でも、たいていのご近所さんは「おはよう」とか「おかえりなさい」とか言ってくれるので、なんとか挨拶を返せていた。
今ではね、たとえペコリお化けにでも、きちんと挨拶できるよ。
そんなご近所の中でも、苦手なのが、この里見さん。
挨拶しなくっちゃ……アセアセになるんだけど、二つの理由で、まともな挨拶ができない。
一つはね、挨拶しようと視線を向けると、スッと逸らされてしまう。
こちらから声を掛ければいいんだけど、そこまでの勇気が出ない。
そのうち、出会うと、こっちも視線を避けて、そのまますれ違ってしまう。
そういうのも気まずいので――あ、出会いそう――と思うと、ちょっと遠回りでも道を変えて出会わないようにする。
もう一つはね、連れてる犬がね、ちょっとおっかない。
尻尾がクルリンと巻き上がった、中型の日本犬。
おっかないと言っても、狂暴とか吠えられるとか、そういうんじゃないんだ。
ハチは里見さんよりも早く、わたしの顔を見る。ちょっとは、ご主人の顔も見るんだけど、すれ違うまで、わたしを見てる。
人懐っこいようにも、咎めだてされてるようにも思えて、ちょっと居心地が悪い。
だからね、里見さんも犬も苦手。
お爺ちゃんお婆ちゃんは、昔からの知り合いなんで、とうぜん挨拶はするし、立ち話程度の付き合いもある。
お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒の時に出くわして立ち話になった時の気まずさって、ちょっと拷問かも(^_^;)。
犬は、行儀よくお座りしていて、邪魔をすることは無いけど、やっぱり、わたしのことを見てるから苦手。
立ち話が終わると、里見さんが「ハチ」って呼びかけると、里見さんを先導するみたいに歩き出す。
そう、犬は『ハチ』って名前。
忠犬の代表みたいな名前で、名前だけは好感。
わたしは苦手なんで、もう何カ月も、里見さんにも犬にも出会っていない。
「そうそう、久々に里見さんのお嬢さんに会ったのよ」
お風呂掃除が終わって、リビングに戻ると、お祖母ちゃんがお茶を淹れながら思い出した。
「ほう、ハチも元気だったかい?」
お爺ちゃんが、読んでた新聞を畳みながら顔を上げる。
「それがね、ハチったら、車いすなのよ……」
「「車いす?」」
お爺ちゃんと声が揃った。
「ええ、なんでも崖から落ちたとかで半身不随なんだそうよ」
「あのハチが……」
「ハチの車いすって……?」
ハチが人間の車いすに乗って、手で漕いでいる姿が浮かんでしまう。
「それが、よくできてるの。なんでも、古いキャリーを改造したとかで、ハチの体格に合っていて、楽しそうだった」
「それは、ハチなりの気遣いだよ……落ち込んだら、ご主人が気に病むだろうって、犬なりに気を回しているんだ。ハチは、それくらいの気配りはするやつさ」
「そうかもしれませんねえ」
お婆ちゃんもしみじみして、向かい合ってお爺ちゃんとお茶をすすっている。
こんど、ハチに出くわしたら、どんな顔をしたらいいんだろう……。
日ごろ、不義理っぽい態度とってたから、ちょっと悩んでしまう。
するとね、その晩、なんと、ハチから電話がかかってきた。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所
110『里見さんのお嬢さんと飼い犬のハチ』
うちの近所に里見さんというお家がある。
ときどき、娘さんが犬を散歩させているのに出会う。
「ご近所の人には、ご挨拶するのよ」
今の家に越すにあたって、お母さんから注意された。
人見知りの性格なので、この『ご挨拶』がね、ちょっと苦手。
でも、たいていのご近所さんは「おはよう」とか「おかえりなさい」とか言ってくれるので、なんとか挨拶を返せていた。
今ではね、たとえペコリお化けにでも、きちんと挨拶できるよ。
そんなご近所の中でも、苦手なのが、この里見さん。
挨拶しなくっちゃ……アセアセになるんだけど、二つの理由で、まともな挨拶ができない。
一つはね、挨拶しようと視線を向けると、スッと逸らされてしまう。
こちらから声を掛ければいいんだけど、そこまでの勇気が出ない。
そのうち、出会うと、こっちも視線を避けて、そのまますれ違ってしまう。
そういうのも気まずいので――あ、出会いそう――と思うと、ちょっと遠回りでも道を変えて出会わないようにする。
もう一つはね、連れてる犬がね、ちょっとおっかない。
尻尾がクルリンと巻き上がった、中型の日本犬。
おっかないと言っても、狂暴とか吠えられるとか、そういうんじゃないんだ。
ハチは里見さんよりも早く、わたしの顔を見る。ちょっとは、ご主人の顔も見るんだけど、すれ違うまで、わたしを見てる。
人懐っこいようにも、咎めだてされてるようにも思えて、ちょっと居心地が悪い。
だからね、里見さんも犬も苦手。
お爺ちゃんお婆ちゃんは、昔からの知り合いなんで、とうぜん挨拶はするし、立ち話程度の付き合いもある。
お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒の時に出くわして立ち話になった時の気まずさって、ちょっと拷問かも(^_^;)。
犬は、行儀よくお座りしていて、邪魔をすることは無いけど、やっぱり、わたしのことを見てるから苦手。
立ち話が終わると、里見さんが「ハチ」って呼びかけると、里見さんを先導するみたいに歩き出す。
そう、犬は『ハチ』って名前。
忠犬の代表みたいな名前で、名前だけは好感。
わたしは苦手なんで、もう何カ月も、里見さんにも犬にも出会っていない。
「そうそう、久々に里見さんのお嬢さんに会ったのよ」
お風呂掃除が終わって、リビングに戻ると、お祖母ちゃんがお茶を淹れながら思い出した。
「ほう、ハチも元気だったかい?」
お爺ちゃんが、読んでた新聞を畳みながら顔を上げる。
「それがね、ハチったら、車いすなのよ……」
「「車いす?」」
お爺ちゃんと声が揃った。
「ええ、なんでも崖から落ちたとかで半身不随なんだそうよ」
「あのハチが……」
「ハチの車いすって……?」
ハチが人間の車いすに乗って、手で漕いでいる姿が浮かんでしまう。
「それが、よくできてるの。なんでも、古いキャリーを改造したとかで、ハチの体格に合っていて、楽しそうだった」
「それは、ハチなりの気遣いだよ……落ち込んだら、ご主人が気に病むだろうって、犬なりに気を回しているんだ。ハチは、それくらいの気配りはするやつさ」
「そうかもしれませんねえ」
お婆ちゃんもしみじみして、向かい合ってお爺ちゃんとお茶をすすっている。
こんど、ハチに出くわしたら、どんな顔をしたらいいんだろう……。
日ごろ、不義理っぽい態度とってたから、ちょっと悩んでしまう。
するとね、その晩、なんと、ハチから電話がかかってきた。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
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小桜さん 図書委員仲間
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