やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお

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106『そいつについての桃ノ木のアドバイス』

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やくもあやかし物語

106『そいつについての桃ノ木のアドバイス』   




 六条御息所


 六条通にある休憩所みたいな名前は、とても気の休まるようなものではないんだ。

 まず、どこか場所の名前だと思うよね。

「女の人の名前だよ」

 チカコが指を立てる。

 六条というのは、六条に住んでるって意味らしい。

「じゃ、御息所は?」

「東宮……えと、皇太子殿下のことね」

「ああ、秋篠宮さまみたいな?」

「あれは皇嗣子よ」

 秋篠宮さまを「あれ」って言った。聞き返すといらないスイッチが入りそうなので「どうちがうの?」とだけ聞く。

「跡継ぎだから、どちらも東宮なんだけど、六条御息所の場合は皇太子を意味するの」

「皇太子……男の人だよね?」

「ちがうちがう、親王や内親王を産んだ女の人を『御息所』って言うの」

「なるほど、上皇后陛下ね、美智子さま」

「ちがうちがう、皇后の身分ではなくって親王や内親王を産んだ女官のこと」

「あ、そか(^_^;)」

 昔の皇室とか難しいよ。

「その一人が六条に住んでいたので六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)、分かった?」

「うん、分かった」

「以前は宮中に住んでいたんだけどね、東宮がお亡くなりになってからは、六条にお屋敷をもらって住んでいたの」

「未亡人?」

「違うわよ、子どもを亡くした母親」

「あ、そかそか」

「ある日、光源氏が見染めちゃってね、いい仲になったのよ」

 え、光源氏……って源氏物語、お話ってかフィクション。

「あ、お話だってバカにした」

「だって」

「お話だって、千年以上も読まれてきたら、命やら実体を持ったりするものなのよ」

「そ、そう(^_^;)」

「そして、実体化して歩いていたら鬼に食べられちゃったってわけ」


 ゴトゴト


 引き出しでゴトゴト音がしてびっくり。

「聞こえてるみたい」

「ちょっと庭に出るわよ、ポケットに入れて」

 チカコをポケットに入れて、チカコが指図するまま桃の木の下にいく。

 ホワ

 実も付けていないのに、桃の香りが漂った気がした。

「六条御息所は生霊なのよ」

「え?」

「光源氏が好きになった女の人を次々に呪い殺していくのよ……それも、寝ているうちに魂だけが飛んで行って、相手をとり殺してしまうの。御息所はぐっすり寝ている間のことだから自覚が無いの」

「そ、そうなの(@_@;)」

「あとで、自分が生霊となって取り殺したことを知って、娘が斎宮になって伊勢にいくのについて行って都を去るんだけどね……恋の恨みというのは、そんなことぐらいで解れるものじゃなくって、都に帰ってからも、死んでからも、源氏に恨みを言いに行ったり、人の恋を邪魔したりって、とんでもない女なのよ」

「どうするのぉ!? とんでもないもの引き受けちゃったよぉ!」

「あの手が鬼の体に付いている間は大人しくしていたみたいだけど、鬼が居ないと分かってきたから……引き出しが開いて、危うく、わたしも引き込まれるところだったわ」

「どうしよう……」

 俊徳丸も、ここまでは思い至らなかったんだ、単にラッキーアイテムだと思って……いや、いまさら思っても仕方ないよね。

 
 もしもし

 ヒャ!?


 声が聞こえてびっくり! 

 チカコは慌ててポケットに潜り込んで、わたしは、キョロキョロとあたりを見渡す。

『わたしは、桃の木ですぅ……』

 振り向くと、桃の木がワサっと身震いで返事。

「桃の木さん?」

『はい、六条御息所さんが怖いのは、実体がないからです。あの人が祟るのは、体から抜け出た時です。新たに体に入ってしまえば、普通に話もできるんじゃないでしようか』

 そう言って、桃の木さんは枝の先で、わたしのポケットを指さした。

「あ、そうか!」

「ちょっと、なによ、このシグマの体はわたしのだからね!」

 上半身を出し、胸を抱えるようにしてチカコが抗議する。

「違うよ、他にもフィギュアがあるじゃない!」

『そうですよ、いまは、庭の木や花たちが押さえています。はやくお部屋に戻って、六条御息所さんに体を与えてやってください』

「うん、分かった!」

 部屋に戻りながら考えた。話を聞いた御息所のイメージはヤンデレさんだ……ヤンデレさんといえば、あのキャラしかない!


 というわけで、1/12のコタツにチカコの向かいに『幸子』が座っている。


「どう、その体気に入った?」

 尋ねると、眉を吊り上げて睨み上げ、あたしを指さして吠えた。

「つ、通報するわよ!」

 机の上に新しい仲間が増えた。

「勝手に仲間言うなあ!」

 ちょっとてこずりそう……(^_^;)




☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手

 

 
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