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100『成敗!』

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やくもあやかし物語

100『成敗!』   




 ごめんね……ごめんね……


 遊んでいる長鳴き鳥を避けながら鳥居を出る。

 眼下に黄昏時の高安の郷が広がって、薄闇の果てに一の鳥居が標のように浮かび上がっている。

「この道を上がってきたのね……」

 首だけ出したチカコが意味ありげに呟く。

 一の鳥居までは、白っぽく玉祖神社の参道が下っている。上ってきた時と全然印象が違う。

「参道を外れたところは妖の気配がする……」

 うん、他の道は黄昏の赤闇に沈んで、一歩踏み込んだら何が出てくるかわからない感じ。

「僕は、一足先に東高野街道に出るよ。やくもは、参道を下っておいで」

 長い参道をまた歩くのかと思うと、ちょっとだけ、気後れ。

「やくもが一の鳥居を出るまで、長鳴き鳥たちが呪をかけてくれる」

「シュ……」

「だいじょうぶだよ、今風に言えば白魔法。鬼からは見えなくなって、攻撃を躱しやすくなる呪だから」

 コケ

 振り返ると、長鳴き鳥が横一列になって見送ってくれている。

「じゃ、お先に」

 フワリ……

 黒髪とスカートをフワリ靡かせたかと思うと、電柱の高さほどに舞い上がって、あっという間に一の鳥居の向こうの東高野街道の方角に飛んで行った。

「じゃ、わたしたちも行こうか」

「あなたたち、しっかり護らなかったら焼き鳥にしちゃうからね!」

 コケ

「チカコ!」

 ムギュ

 チカコをポケットに押し込んで、一の鳥居を目指す。

 自分の体が、ボーっと光っているのが分かる。長鳴き鳥たちの呪が効いているしるしなんだろう。やがて、一の鳥居を出るころには、光は半分ほどになっていた。

 ウォーーン ウォーーン

 気配たちが道を行き来している。

「妖とか物の怪が通っている……無害なものばっかりだけど、さすがは東高野街道ね、京の都と高野山の行き来が想像以上」

「どっち行く?」

「あっち」

 ポケットから腕だけ出して北を指し示すチカコ。

 真っ直ぐ街道を北に行くのかと思ったら、途中からグニグニ曲がって、いつの間にか川沿いの土手道に出てきた。

 たぶん、こないだ来た恩智川。

 街灯があるので真っ暗じゃないんだけど、なんとも心細い。

 こんな時間でも、歩いたり自転車に乗ったりした人たちがポツリポツリ。半分くらいが高校生、女子がちょっと多いかな。

 途中切れかけの街灯が死にかけの蛍のようにチカチカ。

「ピストルは持ってるわよね?」

「うん」

 カバンの中でガバメントを握りしめている。セーフティーも外してある。

「初弾は籠めてある?」

「あ……いっかい出すね」

 ガシャ

 スライド(遊底)を引いて弾を込め、再びセーフティーをかけて、グリップを握ったままカバンにしまう。

「左に曲がる」

「うん」

 お地蔵さんが見えたところで左に曲がる。

 両側とも、ちょっと広い田んぼになっている。

 チラリと見えたお厨子の中、お地蔵さんは首だけ後ろ向きになっている。

「お地蔵、ビビってる」

「そろそろ?」

「居た……」

 道の向こうにJK姿の俊徳丸の後姿、ちょっと青白く光ってる?

「まずい、鬼が狙いをつけ始めてる」

 他の通行人は、闇に溶けている。わたしは長鳴き鳥の呪がかかっていて、ほの白い。

 鬼が狙いを付けると、青白く光るみたいだ。

 
 ゾワ


 禍々しいものが追い越していった。

「鬼だよ!」

 それは、俊徳丸の上に来ると姿を現わした。

 青鬼だ!

 ゾワゾワゾワ

 虫のようなものが飛び跳ねる気配。

「妖たちが逃げている、いよいよだよ!」

 フ!

 音もなく、鬼が俊徳丸の背中に飛びかかる!

―― 今だ ――

 振り返った俊徳丸が口の形だけで言う。



 ドギューーーーーン!!



 エアガンだとは思えない音と反動があった。

 アウ!

 尻餅をつきながら、目だけは離さない。

 ボン

 意外にかそけき音をさせて鬼が四散した……。

 

 
☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

 
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