76 / 161
76『鏡に映して見ることは構わないんだ』
しおりを挟む
やくもあやかし物語
76『鏡に映して見ることは構わないんだ』
転校して来て一年を超えて、学校の中で知らない場所はほとんどなくなったよ。
入ったことが無いところは校庭の隅にある変電室とか、旧正門(染井さんと愛ちゃんが居る通用門)脇の旧守衛室、他に倉庫とかね。普通に生徒が出入りするところはたいてい足を踏み込んでいると思う。
「じゃあね……体育館に行ってみよう」
教頭先生の言葉には――小泉さんは行ったことが無いだろうけど――というニュアンスがあった。
そういうことってあるでしょ?
どこそこに行こうって人が言う時には、三つのパターンがある。
その場所を二人とも知っている。その場所を片方しか知らない。その場所を二人とも知らない。
でしょ?
教頭先生の「……体育館に行ってみよう」は「……」の部分に「小泉さんは知らないだろうけど」というニュアンスがあった。
――体育館ですか?――という気持ちは浮かんだけれど、口にもしないし目で問いかけることもしなかった。
だって、昼休みの職員室だよ。他の先生もいっぱいいるし、用事があって来ている生徒もいるしね。「はい」と小さく言って、教頭先生のあとに続いた。
教頭先生は体育館のフロアーには入らずに、横の階段を上がっていく。
ああ、ギャラリーに行く階段?
ギャラリーに上がるのは初めて。上がってみると、いつも使っているフロアーが眼下に見えるんだけど、なんだか別の学校に来たみたいな気になる。
パチン
教頭先生がスイッチを入れるとギャラリーの後ろの方が明るくなる。
意外に広いんだ。
ギャラリーなんて踏み込んだこともないし、今みたいに照明も点いていないし、意識の外にある。
階段状のベンチの前が、駅のプラットホームほどの空間になっていることに新鮮な驚きがある。
「ダンス部とかが使っているんだよ。フロアーじゃ、他のクラブと邪魔になるからね」
そう言いながら、先生はキャスター付きの姿見を調整している。
「姿見ですか?」
「うん、普段はカバーをかけて裏返しにしてあるんだけどね……ダンス部とかが使っているんだ……」
そうか、自分のポーズとか動きとか確認するためだ。フロアーに置いていたら危ないものね。
「よし、こっちに来て」
「はい」
先生に習って、姿見の前に斜めに立つ。
開け放ったギャラリーの窓の向こう、本館の四階部分と屋上が映っている。
『階段室の上、給水タンクの横を見てごらん』
『はい』
蟹歩きすると給水タンクが見えて……ビックリした!
まっくろくろすけと言うかスライムというか、牛ほどの大きさのフニフニした真っ黒けなのが、そよいでいるような、呼吸をしているような感じでうずくもっている。
有機ELD画面の黒い部分のように真っ黒で、縁の方はグラデーションになって周囲の景色に溶け込んでいる。
巨大なまりものようにも、神さまがインクをこぼしてできたシミのようにも見える。
『詮索はしない方がいい。正体は分からないけど、とても悪いものだと思う。学校や、二丁目断層の妖たちも、あいつには関わりたくない様子なんだよ』
『そ、そうなんですか(;'∀')』
『鏡に映している分には影響は無いようなんだがね、それも、あまりやらない方がいい。映して見ているのに気付いたら災いがあるような気がするんだよ』
『は、はい、分かりました……』
『ぼくは学校でしか見たことがないんだけどね、時々、鏡にも写らないことがある。たぶん、学校の外に出ているんだと思うよ。きみは僕よりも見えるようだから、くれぐれも気を付けた方がいい』
『はい、分かりました……』
教頭先生は、小さくため息をつくと、姿見にカバーをかけて元の場所に戻して電気のスイッチを切った。
体育館の前で先生と分かれると、昼休みも残り五分ほどになっていて、急いで教室に戻ったよ。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け
76『鏡に映して見ることは構わないんだ』
転校して来て一年を超えて、学校の中で知らない場所はほとんどなくなったよ。
入ったことが無いところは校庭の隅にある変電室とか、旧正門(染井さんと愛ちゃんが居る通用門)脇の旧守衛室、他に倉庫とかね。普通に生徒が出入りするところはたいてい足を踏み込んでいると思う。
「じゃあね……体育館に行ってみよう」
教頭先生の言葉には――小泉さんは行ったことが無いだろうけど――というニュアンスがあった。
そういうことってあるでしょ?
どこそこに行こうって人が言う時には、三つのパターンがある。
その場所を二人とも知っている。その場所を片方しか知らない。その場所を二人とも知らない。
でしょ?
教頭先生の「……体育館に行ってみよう」は「……」の部分に「小泉さんは知らないだろうけど」というニュアンスがあった。
――体育館ですか?――という気持ちは浮かんだけれど、口にもしないし目で問いかけることもしなかった。
だって、昼休みの職員室だよ。他の先生もいっぱいいるし、用事があって来ている生徒もいるしね。「はい」と小さく言って、教頭先生のあとに続いた。
教頭先生は体育館のフロアーには入らずに、横の階段を上がっていく。
ああ、ギャラリーに行く階段?
ギャラリーに上がるのは初めて。上がってみると、いつも使っているフロアーが眼下に見えるんだけど、なんだか別の学校に来たみたいな気になる。
パチン
教頭先生がスイッチを入れるとギャラリーの後ろの方が明るくなる。
意外に広いんだ。
ギャラリーなんて踏み込んだこともないし、今みたいに照明も点いていないし、意識の外にある。
階段状のベンチの前が、駅のプラットホームほどの空間になっていることに新鮮な驚きがある。
「ダンス部とかが使っているんだよ。フロアーじゃ、他のクラブと邪魔になるからね」
そう言いながら、先生はキャスター付きの姿見を調整している。
「姿見ですか?」
「うん、普段はカバーをかけて裏返しにしてあるんだけどね……ダンス部とかが使っているんだ……」
そうか、自分のポーズとか動きとか確認するためだ。フロアーに置いていたら危ないものね。
「よし、こっちに来て」
「はい」
先生に習って、姿見の前に斜めに立つ。
開け放ったギャラリーの窓の向こう、本館の四階部分と屋上が映っている。
『階段室の上、給水タンクの横を見てごらん』
『はい』
蟹歩きすると給水タンクが見えて……ビックリした!
まっくろくろすけと言うかスライムというか、牛ほどの大きさのフニフニした真っ黒けなのが、そよいでいるような、呼吸をしているような感じでうずくもっている。
有機ELD画面の黒い部分のように真っ黒で、縁の方はグラデーションになって周囲の景色に溶け込んでいる。
巨大なまりものようにも、神さまがインクをこぼしてできたシミのようにも見える。
『詮索はしない方がいい。正体は分からないけど、とても悪いものだと思う。学校や、二丁目断層の妖たちも、あいつには関わりたくない様子なんだよ』
『そ、そうなんですか(;'∀')』
『鏡に映している分には影響は無いようなんだがね、それも、あまりやらない方がいい。映して見ているのに気付いたら災いがあるような気がするんだよ』
『は、はい、分かりました……』
『ぼくは学校でしか見たことがないんだけどね、時々、鏡にも写らないことがある。たぶん、学校の外に出ているんだと思うよ。きみは僕よりも見えるようだから、くれぐれも気を付けた方がいい』
『はい、分かりました……』
教頭先生は、小さくため息をつくと、姿見にカバーをかけて元の場所に戻して電気のスイッチを切った。
体育館の前で先生と分かれると、昼休みも残り五分ほどになっていて、急いで教室に戻ったよ。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります
真理亜
ファンタジー
有栖佑樹はアラフォーの会社員、結城亜理須は女子高生、ある日豪雨に見舞われた二人は偶然にも大きな木の下で雨宿りする。
その木に落雷があり、ショックで気を失う。気がついた時、二人は見知らぬ山の中にいた。ここはどこだろう?
と考えていたら、突如猪が襲ってきた。危ない! 咄嗟に亜理須を庇う佑樹。だがいつまで待っても衝撃は襲ってこない。
なんと猪は佑樹達の手前で壁に当たったように気絶していた。実は佑樹の絶対防御が発動していたのだ。
そんな事とは気付かず、当て所もなく山の中を歩く二人は、やがて空腹で動けなくなる。そんな時、亜理須がバイトしていたマッグのハンバーガーを食べたいとイメージする。
すると、なんと亜理須のイメージしたものが現れた。これは亜理須のイメージ転送が発動したのだ。それに気付いた佑樹は、亜理須の住んでいた家をイメージしてもらい、まずは衣食住の確保に成功する。
ホッとしたのもつかの間、今度は佑樹の体に変化が起きて...
異世界に飛ばされたオッサンと女子高生のお話。
☆誤って消してしまった作品を再掲しています。ブックマークをして下さっていた皆さん、大変申し訳ございません。
転移した異世界が無茶苦茶なのは、オレのせいではない!
どら焼き
ファンタジー
ありがとうございます。
おかげさまで、第一部無事終了しました。
これも、皆様が読んでくれたおかげです。
第二部は、ゆっくりな投稿頻度になると思われます。
不遇の生活を送っていた主人公が、ある日学校のクラスごと、異世界に強制召喚されてしまった。
しかもチートスキル無し!
生命維持用・基本・言語スキル無し!
そして、転移場所が地元の住民すら立ち入らないスーパーハードなモンスター地帯!
いきなり吐血から始まる、異世界生活!
何故か物理攻撃が効かない主人公は、生きるためなら何でも投げつけます!
たとえ、それがバナナでも!
ざまぁ要素はありますが、少し複雑です。
作者の初投稿作品です。拙い文章ですが、暖かく見守ってほしいいただけるとうれしいです。よろしくおねがいします。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる