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62『昇降口と忘れ物』
しおりを挟むやくもあやかし物語
62『昇降口と忘れ物』
小桜さんには見えないみたい。
ほら、図書室の窓側の席で熱心に本を読んでいる、わたしソックリな女生徒。
小桜さんは『風邪ひいたみたい』と杉村君に言って先に帰ってしまった。
先生に頼まれた仕事は四時半には終わったので、わたしも書庫から出て帰ろうかと思った。
ブルル
スマホが震えてギクッとする。
マナーモードだからカウンターの杉村君に知られるはずもないんだけど、やっぱ、こっそり様子を窺っていた後ろめたさからなのか、ギクッとしちゃう。
『ごめん、カウンターのとこに体操服忘れた。昇降口のとこまで戻ってるから持ってきてくれない?』
小桜さんだ。
慌てていたんで忘れてしまったんだ。
「うん、いいよ。そこで待ってて」
『サンキュ、恩に着る(^▽^)』
ほんとは、閲覧室には行きたくない。杉村君居るし、窓側にはわたしのソックリさんが居るし。
でも、小桜さんは同じ図書委員だし、数少ない友だちだし。
もう一度、書庫の小窓から閲覧室を確認。
杉野君はそのまんまだったけど、わたしのソックリさんは書架の方に移って本を探している様子。
ま、エイヤ!って感じで済ませてしまおう。
いったん書庫から廊下に出てから閲覧室に向かう。
先生に頼まれた仕事で来ているんだから、書庫を出て司書室を抜けてもいいんだけど、イレギュラーな現れ方をして、驚かれるのやだし、説明すんのなんて、さらにイヤだ。
「小桜さん、忘れ物したって……」
「お、おう」
それだけで済んだ。
体操服の袋を掴んで顔を起こすと、閲覧室にソックリさんの姿が無い。いないと気になる。
「あ、これ、書架に戻す分ね?」
「お、おう」
カウンターの返却本を戻すふりして書架の向こう側へ。やっぱりソックリさんは居ない。
返却本を書架に戻すと、小桜さんの体操服入れを持って昇降口へ。
「ありがとう小泉さん」
「いいよ、ちょうど帰ろうかとしてたとこだし」
「ほんと、杉村おかしいから。小泉さんも気ぃつけてね」
「うん、ありがと」
「いっしょに帰ろうか?」
「うん」
「あれ、カバンは?」
「あ、いけない。カバン置いたまま……」
小桜さんの体操服入れを持って、自分のは忘れてしまったんだ(;゜Д゜)……閲覧室に。
「取りに行くから、先に帰って」
「う、うん。じゃね」
また杉村君の顔を見るのかと思うと、ちょっと気が重い。
小桜さんを見送って、階段五六段上がったところで、不意に声をかけられた。
「小泉さん」
え?
見上げると昔の制服着た女子が踊り場に立っている。
「あ……染井さん」
桜の精霊の染井さんが桜のエフェクトに包まれてニコニコしている。
「ほれ、カバンとってきてあげたよ」
「あ、ありがと」
「あれ、ドッペルゲンガーじゃないからね」
「そ、そうなの?」
「あれは、杉村君の幻なんだよ」
「杉村君の?」
混乱する。
杉村君の幻が、なんでわたしの姿をしてるんだ?
「ちがうよ。杉村君、小泉さんのこと好きだから、思わず幻見ちゃうんだよ」
「え……ええ!?」
「杉村君の力じゃないと思う。好きになったのが小泉さんだから見えてしまうんだよ」
「え、どういうこと?」
「化学反応」
「かがくはんのう?」
「化けるほうの化学だけどね」
「は、はあ……」
「思春期の妄想力の強さもある」
「あ、えと……杉村君からは、そういうの感じないんだけど」
さっき、閲覧室行ったときも、杉村君の視線感じるようなことはなかったし。
「好きな子が傍に来てガン見するような子いないわよ。閲覧室に入ったら、ソックリさんは居なかったでしょ?」
「うん」
「本物が現れたら幻見てる必要ないものね……あ、それって、杉村君の無意識だから、変なやつって思わないであげてね」
「う、うん」
「じゃ、わたしの季節には間があるから、これでね(o^―^o)」
シャララ~ン
染井さんは、桜のエフェクトを残して消えてしまった。
カバン持って校門を出ると、小桜さんの背中が見えたので「おーーい!」って追いかけて、いっしょに帰ったよ。
☆ 主な登場人物
•やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
•お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
•お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
•お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
•小出先生 図書部の先生
•杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
•小桜さん 図書委員仲間
•あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石
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