上 下
56 / 161

56『さざれ石』 

しおりを挟む

やくもあやかし物語

56『さざれ石』      

 

 部屋の中でカサコソと音がする。

 
 最初はゴキブリかと思った。

 前の家でゴキブリが出た時、お酒に酔ったお母さんがティッシュで捕まえ、捻りつぶすようにしてゴミ箱に捨てたことがある。

 でも、ゴキブリはティッシュの包みの中で生きていて、そいつがカサコソと動いていた。

 酔いのさめたお母さんと悲鳴を上げた記憶も生々しいのだ。だから今度もかと思った。

 
 ところが、ゴキブリではなかった!

 
 カサコソは、どうやら、通学カバンの中から聞こえてくるので、放っておくこともできない。

 思い切ってチャックを開けて、無言でのけ反る。

 !?

 開けた途端に、虫だかゴキブリだかが飛び出してきてはかなわないもんね!

 及び腰で中を覗くと、お婆ちゃんにもらった匂い袋がカサコソいっている。

 匂い袋の中にはお守り石が入っているのだ。

 ほら、学校帰りにメイドお化けに追いかけられて、お地蔵さんの祠(ほこら)の陰に隠れたことがあったでしょ。お賽銭箱の横にお守り石の箱があったんで、すがるような気持ちで一個握りしめて、おかげでメイドお化けからは逃げられて、それ以来、わたしのお守りになってるの。ま、メイドお化けは、そんなに悪い奴じゃなかったけどね。

 匂い袋の紐を緩めると、真っ白いお守り石が、コロコロと机の上に転がって、黒電話に当った。

 お守り石は、ノックをするようにコンコンコンと三回当たった。

 すると、黒電話の受話器が五ミリほど持ち上がって交換手さんが出てきた。交換手さんが話しかけると、お守り石はビビっと震えて、なんだかコミニケーションしてるみたい。やがて、頷くと、交換手さんはわたしに向き合った。

「お守り石さんがお話があるようなんですが、このままでは言葉が喋れないので、一時わたしに憑り移ります」

 交換手さんはいったんくずおれて、起き上がったときには、ちょっと人相が変わっていた。

「お守り石です。やくもはさざれ石に興味があるのよね?」

 思い出した、高校野球開会式の『君が代』に感動して、さざれ石が見たくなったのだ。

 でも、中学二年生の興味なんてコロコロ変わるので忘れてしまっていた。でも、忘れるのは失礼なので「うん、そうそう!」と答える。

「さざれ石は、我々お守り石の頂点に君臨するお方です、それに興味を持ってもらったのは、とても目出度いことなので、これからお引き合わせいたします」

「これから?」

 もう夕方なので、出かけるのは億劫だ。

「瞬間移動です。それに移動するのは意識だけだから、ちょっと、ベッドで横になって」

 お守り石には、有無を言わせぬ威厳みたいなのがあって、素直に横になる。

「では、参ります」

 お守り石が両手をあげてフルフリ振ると、数秒で意識が飛んだ……。

 
「この鳥居の向こうです」

 
 お守り石は、交換手さんの体で等身大になって、わたしを誘った。

 鳥居をくぐって、二十メートルほどいくと「く」の字に曲がったところに軽トラックほどの大きさのさざれ石が鎮座していた。

「これが、さざれ石さん?」

「そうです、まずはご挨拶を」

 お守り石さんを真似て、二礼二拍手一礼。

「ああ、だめね。やくも、とっても失礼なこと思ったでしょ?」

「え、そんなことは……」

 ほんとは、思ってしまった。

 さざれ石は、想像では、石がムクムクと成長して古墳とかお城の石垣に使われるとびきり大きな石のようになっているものだと思った。ひょっとしたら、表面の凹凸が顔のようになってて、喋ったりするかもと。

 でも、印象は違った。

 まるで建築現場のコンクリートの瓦礫だ。大小さまざまの石にセメントが混じってくっ付いたような。いわば石のお団子のようで、正直美しいとか神々しいとかは感じなかった。

「もう少し、知識とか体験が必要なようですね」

 お守り石に、そう言われると、再びクラっときて意識が飛んだ。

 ぴくっとして目が覚めると自分のベッド。

 お守り石は、匂い袋の中で、もとの白い小石に戻っていた……。

 

☆ 主な登場人物
◦やくも        一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
◦お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
◦お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
◦お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
◦小出先生      図書部の先生
◦杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
◦小桜さん       図書委員仲間
◦あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...