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55『開会式』

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やくもあやかし物語

55『開会式』     

 

 
 やっぱり開会式から観なきゃなあ。

 
 そう言って、お爺ちゃんはレコーダーを操作する。

 お爺ちゃんはとっくに退職してるんだけど、ご近所のお世話とか趣味の色々で忙しい人なんだ。

 やることに優先順位がある。

 ご近所とか他人様の事⇒家の用事⇒趣味⇒それ以外の事 という順番。

 テレビを見るのは(それ以外の事)にカテゴライズされていて順位が低い。お気に入りの番組は録画しておいてまとめて観る。

 
 朝ごはんの片づけを手伝っていたら、お爺ちゃんのテレビ鑑賞が始まった。

 
 視界の端に入る画面や流れる音声で高校野球を観ているんだと分かる。

 第一試合も三日目だと言うのに、わざわざ開会式から観ている。

 自慢じゃないけど、わたし、野球は見ない。野球じたい、体育で二時間ほどしかやったことがない。野球場にも行ったことが無い。

 
「ごくろうさま、お茶にしよ」

 お婆ちゃんが、お茶を淹れてお煎餅を出してくれる。昨日はお饅頭だった。

 お婆ちゃんは、日に何度も間食をしている。でも、ちっともメタボとかにはならない人だ。

 キッチンのテーブルからでも60インチのテレビは良く見える。リビングの四隅にスピーカーが仕込んであってサラウンドとか言うんだろうか、音の臨場感もハンパじゃない。

 入場行進が続いて選抜チームがノシノシ行進している。学校で見かける野球部員は苦手だ。声おっきいし、掛け声とかも動物めいていて野蛮な感じ。サッカーとかの運動部も同じ。そんな運動部を熱心とチラ見の違いはあるけど、観ている女子たちが居る。わたしには、そんな趣味は無い。

 行進している野球部員は、ちょっと、ちょっとだけカッコいいかも。秩序だっているのが趣味に合うのかもね。

 二枚目のお煎餅に手を出したところで静かになった。

――式典の司会を務めます、広島県立〇〇高校二年○○○○です――

 声だけ聞いていると立派に大人のアナウンサーみたいな女子高生が進行役をやっている。後ろの野球帽被って進行台本持ったオバサンが軽く肩を叩く。

 なんだ、この人は黒子のオバサンの指示で動いているだけなんだ。

 でも、ちょっと違った。

 女子高生さんは、自分の進行台本に目を落として確認してから、次に移った。

――国旗、大会旗を掲揚します。選手まわれ~右――

 でもって、選手の回れ右を確認してから次に。

――選手、役員の皆さんは脱帽して掲揚台にご注目ください。スタンドのみなさんもご起立脱帽にご協力ください――

 ちゃんとタイミングを見計らって進行している。

 国歌『君が代』を独唱した女子高生さんもすごかった。

 細い体で、ちょっと泣き顔。地味な感じの人だったけど、歌いだすと――どこのオペラ歌手じゃあ!?――だった。

『君が代』も広い甲子園で独唱するとすごい迫力。むろん、うちのリビングなんか問題にならないくらいの音響設備なんだろうけど、それでも、元々の歌がキチンと歌えてないとね。学校の式典で流れる『君が代』とは別物だと感じた。

 そう、感じたんだよ。思ったんじゃなくて

 そしてビビっときた。

 入学式にしろ卒業式にしろ、ボーっとしか聞いてないので感じることは無かったんだけど、感動したからこそひっかかった。

 さざれ石ってなんだろう? ほら『千代に~い 八千代にい~』って後に来る『さざれ~石の~巌となり~て』の、さざれ石。

 ちょっと調べてみようと思った。

 

☆ 主な登場人物
◦やくも        一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
◦お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
◦お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
◦お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
◦小出先生      図書部の先生
◦杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
◦小桜さん       図書委員仲間
◦あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜)


 
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