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52『本館西側の忘れられた像・2』 

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やくもあやかし物語

52『本館西側の忘れられた像・2』     

 

 
 ヒマな図書当番、今日も杉村が居ない。

 さすがに呆れると言うか、腹が立つよ。

 生の感情は表に出さないようにしているんだけど、書類を取りに戻った小出先生が「杉村君は入院してるみたいなのよ」という。

「え、そうなんですか!?」

 思いのほか語尾の?に!が付いてしまった。

「詳しくは知らないんだけど、会議でそんなこと聞いた。ま、暇だろうけど下校時刻まではよろしくね」

 そう言って小出先生は行ってしまった。

 わざわざ言ってくれたということは、わたしの顔に、どこか不満の色が浮かんでいたんだろうね。

 頬っぺたをペシペシ叩いて緊張と言うか強ばりをほぐす。

 ほぐし過ぎて眠くなってくる。

 
 目の前に人の気配。

 
 ガバっと顔をあげると……生成りのワンピースの女の子が立っている。

 ……あ、本館西側の忘れられた銅像さんだ!

「こないだは、お話できなかったから……」

 はにかみながら手にした花をもてあそんでいる。

「変態さんと思われるのは、ちょっとね……」

「あ、ごめんなさい(^_^;)」

「お話してもいいかしら」

「あ、どうぞどうぞ」

 アタフタとカウンターを出て椅子を持ってこようとしたけど、二人で移動した方が早いし落ち着く。

「じゃ、こっちで」

 閲覧席に並んで座る。あらためて見るとサラツヤのロングが素敵な美少女さんだ。

「えと、愛の像だから、愛さんでいいのかな?」

「あ、うん……」

 愛さんは何か迷っているようでモジモジしていたけど、お花を机の上に置くと、柔らかく話し始めた。

「三十二年前の臨海学校で生徒が溺れてね……」

 あ、溺れた女生徒の慰霊碑の銅像さん!?

「生徒は助かったのよ、三人とも。女子二人に男子が一人」

 助かって慰霊はないよね。

「校長先生が海に飛び込んで三人を救助したの。でも、三人目を救助したところで校長先生は力尽きて沈んでしまった……」

 え、じゃあ?

「うん、亡くなってしまってね、学校は校長先生の慰霊碑を建てることになったの……疑問に思うわよね、校長先生の慰霊の銅像が、なんで女の子だなんて」

 あ、これが違和感だったのか。でも、女の校長先生だったのかも!

「小西卓夫って男の先生だよ……ほら、記念誌に写真が載ってるよ」

 記念誌を見ると、十二代前のところに小西卓夫校長先生……実直そうな男の先生だ。

「……どうして?」

 先生の奥さんがね「生徒さんを助けられて主人は本望だったと思います。立派な銅像は主人も照れくさくて困惑すると思いますので、みなさんのお気持ちの現れるもので……」とおっしゃってね。生徒さんの発案だったと思うんだけど、無垢な愛を表現した、この姿になったの。

「そうなんだ」

「校長先生の行為の原点は純粋な生徒への愛なんだ……それで、意味を大きく広げて『愛の像』ということになったの。校舎の建て替えで正門の位置も変更になって、あれから三十二年にもなるし、このままでもいいかって思っていたら、あなたがやってきて……というわけなの」

「そうだったんだ」

「この花、夏水仙て言うの、気づいてくれたお礼に……」

 愛さんは、捧げるようにして夏水仙を渡してくれた……ところで意識が無くなった。

 
 目が覚めると、カウンターに伏せたまま眠っていたのに気が付いた。

 
 夢? でも、カウンターには夏水仙が置いてあった。

 花言葉を調べると――深い思いやり、あなたのために何でもします――だった。

 そうだったんだ……夏水仙を一輪挿しに活けて気が付いた。

 ということは、愛さんは美少女の姿だったけど、中身は校長先生?

 あの違和感は……納得はしたけど、申し訳なく思った。こんどお花を持って、あらためてお参りすることに決めた。

 今日も利用者ゼロで図書室を閉めたよ。

 

☆ 主な登場人物
◦やくも        一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
◦お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
◦お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
◦お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
◦小出先生      図書部の先生
◦杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
◦小桜さん       図書委員仲間
◦あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像)


 
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