上 下
45 / 161

45『虹色のヘアピン』

しおりを挟む

やくもあやかし物語

45『虹色のヘアピン』      

 

 
 ペットショップが火事になるなんてめったにあることじゃない。

 
 でも、じっさい火事はおこってしまって、わたしのところに来るはずだった子ネコは焼け死んでしまった。

 だから、お父さんはアノマロカリスのお腹に入れたままになっていた手紙の事を言わなかったんだ。わたしは、アノマロカリスのお腹に妹ニク女子キャラのフィギュアがあることさえ気づかない鈍感だ。鈍感はいいことじゃない。でも、鈍感だったから子ネコが焼け死んだことを知らずに済んだ。知ってしまったら、今よりもずっとナイーブだったわたしは耐えられなかっただろう。

 お父さんも忘れっぽかったんじゃない。

 知ってしまえば、わたしが傷つくことを分かって、あえてほっぽらかしにしたんだ。やさしい心遣いをしていたんだよね。

 でも、それだけ優しい心遣いができるのにさ、どうして離婚することになったんだろう……。

 いけないいけない、そのことを考えられるほど大人にはなっていないよ。

 
 ここで思考を停止して帰りの電車に乗る。

 
 なんだか簡単に見えるけど、そうじゃない。

 ペットショップの跡地の前で十分以上も呆然としていたし、それからもまっすぐ帰らずに街をうろついた。ウインドショッピングしてファンシーショップで少し買い物をした。女の気分転換にはショッピングが一番。以前は軽蔑したお母さんのモットーが正しいことを認識した。正しいと言っても中学生だから大人買いはできない、お小遣いと相談の上TPOを考えなければならないんだけどね。とりあえず、今日はいいんだ。

 電車に乗って気が付いた。

 いちばん可哀そうなのは焼け死んだ子ネコだ。

 かってもらえると(買うと飼うを兼ねてる)分かって、どんな家にかわれるんだろう? まさか、あのおじさんじゃないよね。しげちゃん(お店のスタッフ、とってもわたしらに愛情をもってくれている)との話でも「うちの娘が……」とか言ってたし、どんな娘さんなんだろ? 猫っ可愛がりしてくれるといいなあ♡ とか思ってたんだろうなあ。それが、あんな火事に遭ってしまって、あたし、まだ名前も付けてもらってなかったんだよ、名無しのニャンコ……生後三十日の命だったんだよ……。

 そんなこと思ってると、とても悲しくなって涙が止まらなくなった。

 オイオイ泣くもんだから他の乗客さんたちが変な目で見てる。前の座席のオバサンなんか――どうしたの?――という顔になってる。声を掛けられたら面倒だし恥ずかしいし……三つ目の駅で降りてしまった。

 駅のベンチに座っても涙が止まらない。

 三歳くらいの女の子が、しゃがみ込んで、わたしの顔を見ている。

 気配が無かったので正直びっくり。反射的に立ち上がってホームの階段を目指す。

「おねーちゃーん」

 あの子が呼んでる。

 みっともないので改札を出てしまう。ファンシーショップの袋が破れていて買ったばかりのアクセを一個落としてしまった。

 虹色のハートが付いたヘアピン。お気にだったけど仕方ない、いまさらもどれないよ。

 仕方ない、一駅歩いて電車に乗りなおそう。

 とぼとぼ歩くと背中をツンツンされた。

「落っことしたです、おねえちゃん」

 さっきの女の子が小袋をフリフリ捧げ持っている。

「え、あ、いいわよ。やさしく気遣ってくれたからお礼にあげる」

「あ、でも……」

「いいわよ、取っておいて」

「そう……ありがとうおねえちゃん!」

 もらうことに決心すると、小袋からヘアピンを取り出した。

「うわーー、とってもキレイ!」

「よし、髪につけたげよう」

 つけてやると、ピョンピョン跳ねて喜んでくれる。思わず写真を撮る。

「あたし、えりか。おねえちゃんは?」

「やくも」

「やくもおねえちゃん。うん、いい名前だ。じゃ、まったね~」

 ピョンピョンとスキップして行ってしまった。

 ケリがついたんだから目の前の駅に戻ってもよかったんだけど、次の駅まで歩くわたしだった。

 

☆ 主な登場人物
•やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
•お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
•お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
•お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
•小出先生      図書部の先生
•杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
•小桜さん      図書委員仲間
•あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...