上 下
35 / 161

35『A君』

しおりを挟む

やくもあやかし物語

35『A君』       

 

 
 A君が転校しました。

 
 担任の先生が言う。

 クラスのみんなは無言だけど――ああ、やっぱりな――という空気が流れる。

 次の休み時間には、クラス委員二人でA君の机を運び出していった。この三か月、A君の机はみんなの物置同然だった。

 季節が寒い時期に差しかかるところだったので、机の横や、後ろの棚に置ききれない防寒着やいろいろを置くようになったんだ。

 クラスの何人かは――A君はイジメられていた――と噂していた。クラスのXやYやZやらがイジメていたと言うけど、わたしには分からない。みんなも無関心、ひょっとしたら無関心を装っているのかもしれないけど、シレっとしている。

 そして、なにより、わたしはA君を思い出せない。

 わたしも学年の途中で転校してきた人だし、A君は休みがちだったし。

 ま、仕方がないと思う。

 
 もうちょっとで三学期も終わる。ほんのちょっとの春休みが終われば新学年。

 ま、やり直せばいいさ。

 
 学校というのは横の連絡が悪い。

 美術の時間で、こんなことがあった。

「今から二三学期の作品を返しま~す」

 のどかな声で言って、先生が名前を読んで作品を返す。

「A君……A君……A、休みかあ?」

「先生、A君は転校しました」

 委員長が答える。

「え、あ、そうか」

 思い当たったのかとりつくろったのか分からない声をあげて、先生は分かりやすく当惑した。

 分かるんだけどね、年度末に向けて準備室とか整理したのに、ハンパにものが残るのはね……。

 でも、無いと思いますよ、そういう反応は。

 先生は、一度準備室に戻って、九十秒ほどで戻ってきた。

「小泉さん、あなたA君ちの近所だから持ってってくれないかなあ」

 今の九十秒で、先生は学校のCPにアクセスして、A君最寄りの生徒を検索してたんだ。

 こういう場合「無理ッ!」とか「えーーーなんでわたしい!?」とか言えば逃れられるのかもしれないけど、そういうのを何度も見聞きしていると、そんなささくれだった言い方はできない。

 は……はい。

 大人しく引き受けてしまう。

 作品の中に自画像が入っていた。

 なんかエヴァンゲリオンの碇シンジみたいな思い詰めた顔が画用紙の1/2くらいの面積で描かれている。

 めんどくさそうなヤツ……思ったけど、顔には出さない。

 
 帰り道、崖道を通る。

 
 A君のこと考えたくないから、あちこち景色を見ながら歩く。

 あれ?

 ペコリお化けが居ない。

 それどころか工事も終了していて、今風のポリゴンを節約しまくったCGのように素っ気ない家が建っている。

 わたしってば、こんなに無関心に歩いていたんだ。

 一度帰ってしまうと、きっと億劫になる。だから、先生に書いてもらった地図を頼りにA君の家を探す。

 ……あった。

 もう引っ越してしまって、いない確率50%できたんだけど、ピンポンを押すと本人が出てきた。

 先生が「Aは一人っ子だから、男の子が出てきたらAだから」と、念を押した。わたしが「会えませんでした」とか言って持って帰ることを恐れていたから。

 リアルA君は、自画像ほどにはひどくなかった。

 でも、やっぱ、こんな人いたっけ?

「ありがとう、小泉さん」

 とても嬉しそうに受け取ってくれた。碇シンジは訂正、碇シンジはこんな風には笑わない。

 なんか、一言二言言って別れた。

 
 いっけない、お風呂掃除!

 
 慌てて家に帰る。お爺ちゃんは出かけていて、結果オーライ。

 お茶の間で一息ついていると、お隣りさんが回覧板を持ってきた。

 緊急連絡が入っている。

 え…………ええ!?

 A君が夕べ病院で亡くなって、葬儀のダンドリとかが書いてある。

 さっき……作品を手渡ししたA君は何者なんだ?

 ゾゾ……

 ここのところ居座っている寒波のせいではない寒気が背筋を伝わったよ。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生      図書部長の先生
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

ヒーローズマキナ

鷹ピー
ファンタジー
魔王を倒す為に結成された勇者パーティーでスカウトを担当していたアラン。 しかし、魔王まで後一歩の所で落とし穴に落ちて意識を失う。 目を覚ますと辺りは真っ暗で何も見えない。 しかも体に違和感があるという状況。 途方に暮れていると、突然地震が起きて天井が崩れ光が差し込む。 反射するガラスの中に映るのは記憶に無い少女の姿! しかし、少女にあるはずの物が無く、男にあるはずの物も無い!? それ即ち人間では無い!! 人間ですら無くなったアランが、この世界を探索し秘密を探る物語が今始まった。

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...