馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

武者走走九郎or大橋むつお

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016:ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』 

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馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

016:ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』 




 プルートは夜遅くになって帰ってきた。


「あら、いつの間に帰ってきたんですか?」

 自分たちのために森に行ってくれたんだと思って、ベロナは火の番をしながら起きていたのだが、つい睡魔に勝てずにまどろんでしまった。アルテミスはかまわずにブランケットにくるまって寝てしまっている。

「なにを言ってる、もう行くぞ」

「え?」

 帰って来るなり「行くぞ」と言われては混乱する。

「儂も三時間寝た十分だ」

「え、あ、じゃあアルテミスを起こして朝ごはんにしなきゃ」

「それは果樹園の用事が済んでからだ」

「え、あ、ちょっ……」

 熟睡中のアルテミスを起こすと、すでに峠の中ほどまで下ったプルートを追いかけてベロナは坂を下った。まだ東の空に明けの明星が煌々と輝き、目標の森は夜の底に黒々と蟠って空との境目が定かではない。

「森にはヒュドラという蛇の化物がいてな……」

「ヒュドラ!」

 ベロナは思わず立ち止まってしまった。

「ヒュドラ……だってぇ!?」

 寝ぼけ眼のアルテミスも瞬間で目が覚めた。

「知っている様子だな。じゃあ、説明はいらんだろ、行くぞ」

「ちょっと待てよプルート、ヒュドラなんてオレ……あたしでも知ってる100個も頭のある蛇の化物だ、レベルは、ほとんど100だぞ」

「さっき、いえ、夕方にカロンが認定書を持ってきてくれましたけど、わたしのレベルは8でした」

「あたしは10だ」

「とても、レベル100の魔物なんか無理です」

「普通にやればな」

「ヒュドラは眠る時でも一つだけは起きてる。寝込みを襲っても、その起きている一つが、たちまち、残りの99を起こしてしまうから、駆け出しの冒険者じゃ返り討ちになるだけだ」

「年にニ三回は100の頭が全て眠る。それが、今朝の明け方の一時間ほどだ」

「どうして分かるんですかぁ(^_^;)」

 穏やかだが、眉をひきつらせてベロナが聞く。

「ヒュドラの奴が相談しているのを聞いた」

「ヒュドラの相談相手って……」

「100の頭が相談するんだ。前の記録から言って、今夜あたりだろうと、息を殺して聞いていたのさ」

「じゃあ、その一時間の間なら、簡単にやっつけられるというわけなのか?」

「ああ、無防備になるからな」

「おし、それなら勝てるかもしれないな」

「でも、アルテミス。わたしたち曙の谷でチュートリアルみたいな戦いしかしたことないのよ」

「寝てる間は、臨時の魔物が入る。なに、ヒュドラに比べればなんでもない」

「その臨時の魔物って?」

「なんなんだ?」

「たかのしれたケルベロスさ」

「「ケルベロス!?」」

 ケルベロスでも十分すぎる脅威だ。

 プルートに付いていく足どりが目に見えて落ちてくる二人だった。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ

アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
​魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
カグヤ            アルテミスの姉
マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
アマテラス          理事長
宮沢賢治           昴学院校長
ジョバンニ          教頭
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