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009:広場を抜けてギルドに向かう
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馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
009:広場を抜けてギルドに向かう
活気が無いわけではない。
伝説の英雄神に胸板を貫かれた魔王の口からは五メートルあまりの水が噴き出て、周囲の魔族や英雄神の弟子たちも互いに刃を交わしながら、それぞれの主神を見上げて水を噴き上げる。
その噴水のブロンズたちが噴き上げる水は、たちまちのうちにミストになって、広場に集う者たちを潤す。
集う者たちは、そのミストにびしょ濡れになる前には噴水の周囲を離れ、それぞれの目標の場所に移っていく。
移っていく者たちは、両手にストックを持ったウォーキング、あるいは散歩の者たち。あるいはマイカートを押した買い物の者たち。
ミストの届かない木陰では杖に顎をのせたり、大方の体重をベンチの背に預け、UVカットの帽子やサングラス、日焼け防止の腕カバーに身を固めた元冒険者たち。
彼らは、バザールの安売りや健康法や、かつての話半分の冒険譚に花を咲かせる。元は現役であった彼らは声だけは大きい。
だから、広場はけっこうな活気ではある。
活気はあるが、それは沈みゆく夕陽の輝きに過ぎない。若い現役の冒険者たちは待ち受ける初めての、あるいはせいぜい二度目か三度目の冒険の障りになってはかなわぬと足早に通過するか、広場そのものを回避して目的のギルドや素材屋、武器屋、保険の代理店に向かっている。
「夏場の午後五時と言ったところですわねえ」
「え、まだ二時を回ったところだぞ」
「ふふふ、アルテミスは元気いっぱいですね」
「ここは、ざっと見ただけで十分だ。さっさとギルドに行こう、保険ならギルドでも受け付けてくれるだろう」
「すこし、お年寄りの方々とお話してもいいかと思うベロナなんですけど」
『おお、そこのお若いのぉ』
「あ、わたしたちですかぁ?」
『初々しいなあ、初めての冒険かい?』
「はい、これからギルドに向かうところです」
「ち(-_-;)」
木陰の年寄りたちが一斉にベロナとアルテミスに顔を向ける。
『そうかい、そりゃあいいなあ』
『今からなら、曙の谷ぐらいには行けそうだなあ』
『ダメよ、吊り橋でこじれたら谷底で野営しなきゃならなくなるわよ』
『それも風流なもんじゃないか』
『なに言っとる、最初の野営でションベンちびったのはだれだ』
『それは剣士のなんとかいうやつだ』
『そうよぉ、ヤコブは狼の遠吠えで卒倒しちゃってぇ』
『う、うるせえ』
『あはは、お爺ちゃんたちに付き合ってたらきりが無いわ。行ってちょうだい(^_^;)』
「ありがとうございます。みなさんもお元気で」
『あんたら、ひょっとして馬鹿に……』
馬鹿の次に来る言葉が気になる二人だったが、老魔法使いの婆さんの注意に従ってギルドを目指すことにした。
ギルドはドイツ風の質実な三階建で、角を曲がって姿が見えた時から特別な感じがする。
黒ずんだ柱は太々と地面に根を張っているようだし、頑丈そうな窓からは冒険者たちの気炎が溢れるよう、屋根の風見竜は――風向きなど見ていられるか!――と、いまにも戒めを解いて空に舞い上がっていきそうな気配だ。
建物の前面いっぱいに据えられたポーチには、現役冒険者たちのオーラを浴び、話しかけたり冷やかしたりしようとする年寄りたちがいたが、さすがの二人も、その視線に応えようとはせずに厳めしい金具付きのドアを開けた。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
アルテミス 月の女神
ベロナ 火星の女神 生徒会長
カグヤ アルテミスの姉
マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
アマテラス 理事長
宮沢賢治 昴学院校長
ジョバンニ 教頭
009:広場を抜けてギルドに向かう
活気が無いわけではない。
伝説の英雄神に胸板を貫かれた魔王の口からは五メートルあまりの水が噴き出て、周囲の魔族や英雄神の弟子たちも互いに刃を交わしながら、それぞれの主神を見上げて水を噴き上げる。
その噴水のブロンズたちが噴き上げる水は、たちまちのうちにミストになって、広場に集う者たちを潤す。
集う者たちは、そのミストにびしょ濡れになる前には噴水の周囲を離れ、それぞれの目標の場所に移っていく。
移っていく者たちは、両手にストックを持ったウォーキング、あるいは散歩の者たち。あるいはマイカートを押した買い物の者たち。
ミストの届かない木陰では杖に顎をのせたり、大方の体重をベンチの背に預け、UVカットの帽子やサングラス、日焼け防止の腕カバーに身を固めた元冒険者たち。
彼らは、バザールの安売りや健康法や、かつての話半分の冒険譚に花を咲かせる。元は現役であった彼らは声だけは大きい。
だから、広場はけっこうな活気ではある。
活気はあるが、それは沈みゆく夕陽の輝きに過ぎない。若い現役の冒険者たちは待ち受ける初めての、あるいはせいぜい二度目か三度目の冒険の障りになってはかなわぬと足早に通過するか、広場そのものを回避して目的のギルドや素材屋、武器屋、保険の代理店に向かっている。
「夏場の午後五時と言ったところですわねえ」
「え、まだ二時を回ったところだぞ」
「ふふふ、アルテミスは元気いっぱいですね」
「ここは、ざっと見ただけで十分だ。さっさとギルドに行こう、保険ならギルドでも受け付けてくれるだろう」
「すこし、お年寄りの方々とお話してもいいかと思うベロナなんですけど」
『おお、そこのお若いのぉ』
「あ、わたしたちですかぁ?」
『初々しいなあ、初めての冒険かい?』
「はい、これからギルドに向かうところです」
「ち(-_-;)」
木陰の年寄りたちが一斉にベロナとアルテミスに顔を向ける。
『そうかい、そりゃあいいなあ』
『今からなら、曙の谷ぐらいには行けそうだなあ』
『ダメよ、吊り橋でこじれたら谷底で野営しなきゃならなくなるわよ』
『それも風流なもんじゃないか』
『なに言っとる、最初の野営でションベンちびったのはだれだ』
『それは剣士のなんとかいうやつだ』
『そうよぉ、ヤコブは狼の遠吠えで卒倒しちゃってぇ』
『う、うるせえ』
『あはは、お爺ちゃんたちに付き合ってたらきりが無いわ。行ってちょうだい(^_^;)』
「ありがとうございます。みなさんもお元気で」
『あんたら、ひょっとして馬鹿に……』
馬鹿の次に来る言葉が気になる二人だったが、老魔法使いの婆さんの注意に従ってギルドを目指すことにした。
ギルドはドイツ風の質実な三階建で、角を曲がって姿が見えた時から特別な感じがする。
黒ずんだ柱は太々と地面に根を張っているようだし、頑丈そうな窓からは冒険者たちの気炎が溢れるよう、屋根の風見竜は――風向きなど見ていられるか!――と、いまにも戒めを解いて空に舞い上がっていきそうな気配だ。
建物の前面いっぱいに据えられたポーチには、現役冒険者たちのオーラを浴び、話しかけたり冷やかしたりしようとする年寄りたちがいたが、さすがの二人も、その視線に応えようとはせずに厳めしい金具付きのドアを開けた。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
アルテミス 月の女神
ベロナ 火星の女神 生徒会長
カグヤ アルテミスの姉
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