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220『氷室神社拝殿完成式』
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銀河太平記
220『氷室神社拝殿完成式』メグミ
ええ……なんだ……これは……。
境内のみんなが戸惑いの声をあげた。
氷室神社の拝殿が完成したので、睦仁殿下(氷室社長)を始め島のお偉方と手すきの島民が集まって落成お披露目の式が行われようとしている。
島には観葉植物や、やっと根付いた街路樹程度しかないので、日本本土から用材を運んで、おとつい極秘のうちに竣工したばかり。
神主のシゲ老人がケチなのか要領がいいのか用材の半分は古材。
古材といっても、ただの古材ではない。
大阪のある神社が建て替えられることになり、その古材を輸送費だけで譲ってもらったのだ。
「元をただせば橿原神宮の古材、まことにありがたいものであるぞ」
シゲ老人は胸を張る。
大阪の神社は、昭和の大修理の時に橿原神宮の古材をもらったのだけど、今回の建て替えではさすがに柱や梁というような構造材としては使えず、かといって廃棄するのも躊躇われる。
境内の隅に覆いを作って保管するしかなかったが、都心の神社、境内にそれほどの余裕はない。「それでは、氷室神社の修築に是非!」と頼み込むと「三たび神の社に使われるのは願ってもないこっちゃ(^▽^)」と向こうの神主や氏子総代にも喜ばれ、この西之島に渡ってきたものなのだ。
しかし、じっさい西之島の港について用材をチェックすると、意外に傷みや虫食いがひどく、さてどうなるものかと心配したり、おもしろがったりしていた。
バサリ……バサリ……
神主服のシゲ老人が幣を振ると、お岩食堂のパートと掛け持ちのハナが、この日の為に新調した(みんなでカンパした)巫女服でシズシズと進んで拝殿脇の紅白の紐を引っ張る。
フワリ
いっしゅん戦いで幔幕がひかれると、新造拝殿が露わになった。
そして、みんなの「ええ」……「なんだ」……「これは」……に繋がる。
なんと、新しい拝殿は唐破風庇の入母屋屋根しかないのだ!
屋根の下は、そこだけは島にいくらでもある石や岩で堅牢に作られた土台。まるで、地震で倒壊したばかりの姿だ。
「ここからが氷室神社の神髄じゃ!」
バサリ! バサリ!
再び気合いを入れて幣が振られる。
キエーーー!
鶏がトキを上げるような声で気合いを入れると……驚いた!
ズズズズ……
入母屋の屋根が四本の柱で持ち上がり、大相撲の屋根のようになる。
ズズズズ……
それよりも少し控え目な音がしたかと思うと、土台の中央に白木の鳥居がせり上がってきた!
「おおお!」 「これはぁ……!」 「すごい!」 「神々しい!」
みんなが驚嘆すると、咳払いひとつして、シゲ老人は解説した。
「この氷室神社の御神体は、かねてより知られておるように、睦仁親王殿下の五代前、秋宮空子内親王の命様じゃ。そして、その空子内親王の命は、その御名の通り、このはるけき空、宇宙そのもの! 空は、いずくより拝み奉っても空ではあるが、この拝殿の前に額づき、この橿原神宮の材をもって作られし鳥居を通して拝み奉れば、その功徳はパルスに対するパルスガ、あるいはパルスギの如くじゃ! 皆々、畏れ奉りますようにぃ! アナカシコ……アナカシコ……」
なるほど、材料の節約でもあるし、波風の強い時には地中に収めて凌ぐという安全対策も兼ねているんだ!
わたしも島ではシゲ老人にヒケをとらない技術者だけど、こういう発想はない。
バサリ! バサリ!
ハハハァ!
居並ぶ島民、市役所職員、カンパニー、ナバホ村、フートン、在留外人部隊、フーちゃんはじめ漢明救難隊(守備隊が改組された部隊)の人たちがいっせいに最敬礼するありさまは、とっても平和的。
火星の紛争や、月や地球の一部も巻き込んだマッパ病(マースパルスウィルス病)も終結、鳥居の向こうに見える海と空のように平和になった。
その後は、お岩食堂と神社の前いっぱい、思い思いいくつもの車座になって、氷室神社拝殿新築祝いの宴会を夜が明けるまでやった(^▽^)。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
220『氷室神社拝殿完成式』メグミ
ええ……なんだ……これは……。
境内のみんなが戸惑いの声をあげた。
氷室神社の拝殿が完成したので、睦仁殿下(氷室社長)を始め島のお偉方と手すきの島民が集まって落成お披露目の式が行われようとしている。
島には観葉植物や、やっと根付いた街路樹程度しかないので、日本本土から用材を運んで、おとつい極秘のうちに竣工したばかり。
神主のシゲ老人がケチなのか要領がいいのか用材の半分は古材。
古材といっても、ただの古材ではない。
大阪のある神社が建て替えられることになり、その古材を輸送費だけで譲ってもらったのだ。
「元をただせば橿原神宮の古材、まことにありがたいものであるぞ」
シゲ老人は胸を張る。
大阪の神社は、昭和の大修理の時に橿原神宮の古材をもらったのだけど、今回の建て替えではさすがに柱や梁というような構造材としては使えず、かといって廃棄するのも躊躇われる。
境内の隅に覆いを作って保管するしかなかったが、都心の神社、境内にそれほどの余裕はない。「それでは、氷室神社の修築に是非!」と頼み込むと「三たび神の社に使われるのは願ってもないこっちゃ(^▽^)」と向こうの神主や氏子総代にも喜ばれ、この西之島に渡ってきたものなのだ。
しかし、じっさい西之島の港について用材をチェックすると、意外に傷みや虫食いがひどく、さてどうなるものかと心配したり、おもしろがったりしていた。
バサリ……バサリ……
神主服のシゲ老人が幣を振ると、お岩食堂のパートと掛け持ちのハナが、この日の為に新調した(みんなでカンパした)巫女服でシズシズと進んで拝殿脇の紅白の紐を引っ張る。
フワリ
いっしゅん戦いで幔幕がひかれると、新造拝殿が露わになった。
そして、みんなの「ええ」……「なんだ」……「これは」……に繋がる。
なんと、新しい拝殿は唐破風庇の入母屋屋根しかないのだ!
屋根の下は、そこだけは島にいくらでもある石や岩で堅牢に作られた土台。まるで、地震で倒壊したばかりの姿だ。
「ここからが氷室神社の神髄じゃ!」
バサリ! バサリ!
再び気合いを入れて幣が振られる。
キエーーー!
鶏がトキを上げるような声で気合いを入れると……驚いた!
ズズズズ……
入母屋の屋根が四本の柱で持ち上がり、大相撲の屋根のようになる。
ズズズズ……
それよりも少し控え目な音がしたかと思うと、土台の中央に白木の鳥居がせり上がってきた!
「おおお!」 「これはぁ……!」 「すごい!」 「神々しい!」
みんなが驚嘆すると、咳払いひとつして、シゲ老人は解説した。
「この氷室神社の御神体は、かねてより知られておるように、睦仁親王殿下の五代前、秋宮空子内親王の命様じゃ。そして、その空子内親王の命は、その御名の通り、このはるけき空、宇宙そのもの! 空は、いずくより拝み奉っても空ではあるが、この拝殿の前に額づき、この橿原神宮の材をもって作られし鳥居を通して拝み奉れば、その功徳はパルスに対するパルスガ、あるいはパルスギの如くじゃ! 皆々、畏れ奉りますようにぃ! アナカシコ……アナカシコ……」
なるほど、材料の節約でもあるし、波風の強い時には地中に収めて凌ぐという安全対策も兼ねているんだ!
わたしも島ではシゲ老人にヒケをとらない技術者だけど、こういう発想はない。
バサリ! バサリ!
ハハハァ!
居並ぶ島民、市役所職員、カンパニー、ナバホ村、フートン、在留外人部隊、フーちゃんはじめ漢明救難隊(守備隊が改組された部隊)の人たちがいっせいに最敬礼するありさまは、とっても平和的。
火星の紛争や、月や地球の一部も巻き込んだマッパ病(マースパルスウィルス病)も終結、鳥居の向こうに見える海と空のように平和になった。
その後は、お岩食堂と神社の前いっぱい、思い思いいくつもの車座になって、氷室神社拝殿新築祝いの宴会を夜が明けるまでやった(^▽^)。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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