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206『恩師の素性とガタガタ道』

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銀河太平記

206『恩師の素性とガタガタ道』ミク 





 扶桑の月世界は狭い。

 まあ、月自体が地球よりも火星よりも小さいんだけどね。

 その中でも扶桑自治領は、代官所のあるプラトンの他は、初期開拓地が拡大発展したアルキメデス、ピタゴラス、そして鉱山が集中してるパスカルの三つ。

 あとは、開拓村とかラボという程度のドーム集落があるだけで、ほかの国々の自治領と比べると見劣りがする。

 扶桑は幕府の体制をとっているのに、なんで、パスカルとかプラトンとか、古代ギリシャめいた名前が付いているのかというと、人類が月に到達するずっと前から、そういう名前が付いていたからよ。

 ウソだと思ったら、検索してみて。

 扶桑は、火星こそ自分流の地名や名称を付けたけど、それ以外は元々の名称を大事にする。大事にすることで侵略的というか帝国主義的な領土欲は持っていないことを地味にアピールしている。

 その狭い扶桑自治領でも、火星からフラ~とやってきたオッサン一人見つけるのは、ちょっと骨折り。

「ちょっと調べてみた」

 ピタゴラスに向かう街道に入って、高機動車をオートに切り替えると、そのまま指を車載ハンベのダッシュボードに伸ばして画面を出した。

「え、これって、姉崎先生の勤務評定……税務調査……医療記録……え、マースマーケットの購買記録に通信記録……って、個人情報全部じゃん!」

「ああ、空港からの足取りがつかめないと分かった時に調べたんだ」

「って、いくら警備隊でも、ちょっち違法なんじゃないのぉ?」

「プロファイリングしなきゃ、そうそう絞れねえからな」

「あれぇ、先生、給料の半分マースバンクに振り込んでる」

「うん、誰かに貢いでるか仕送りしてるかだろうと思う」

「ああ……でも、誰の口座に送ってるとかまでは分からないみたいね」

「ああ、俺の権限では、そこまでしかな」

「若いころは月で力仕事ばっかり……」

「まあ、あのガタイだからなあ。Bの8を見てくれ」

「Bの8……あ、パスワードいるよ」

「〇〇〇の〇〇〇〇」

「〇〇〇の〇〇〇〇……え、ダメだよ」

「じゃあ、〇〇〇の〇〇〇〇」

「……え、これもダメ」

「それじゃあ……」

 七つ目でヒットした。

「ああ……軍隊に入っていたんだ……」

「静かの海紛争の直後に除隊してる……それから地球で大学に入りなおして教員免許とって、うちらの学校に来てる……ええ! 音楽と家庭科の免許も持ってるんだ!」

「え、ほんとかよ?」

「ええぇ、てっきり体育の、それも格闘技専門かと思ってた」

「他には、なにか無いのか?」

「ええと……現役の軍人だったころは、飲み代の出費が多かったみたい……うわあ、ピタゴラスの主な呑屋踏破してるっぽいよぉ……」

「どんな呑屋だ……」

 ガックンガクガク ガックン ガックン

「ウワ!」

「キャ! ちょ、なんでこんなに揺れんのよ!?」

「工事区間だ」

「あ、でも人口重力は効いてるみたい」

「不安定なんだ、メンテナンスが間に合ってないんだ、イヘッ(>.<) ……舌噛んだ」

 月には大気が無いんで、太陽風や紫外線的な、時には隕石やらデブリやらがそのまま降り注いで、人工物でも自然物でも劣化が早い。

 数年前にテルが考案して、真っ先に月で試されたんだけど、やはり、月面の過酷な条件では寿命が短いんだろう。

 今度はパルス病のワクチンも作って大活躍の同窓生、流行り病が落ち着いたら、人口重力の安定化にも頑張ってほしいと思うデコボココンビだった(^_^;)

 


☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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