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192『ココちゃんに決めてもらうっす!』

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銀河太平記

192『ココちゃんに決めてもらうっす!』こころ 




 大きいのはダメっすからね!


 ツナカンさんにくぎを刺されて唇を突き出すアルルカンさんは、とても宇宙海賊のボスには見えない。

 わたしよりも首一つ、胡蝶さんと比べても10センチは高く、主席さんと並んでも遜色がない八頭身の高身長。

 お顔もボディーも申し分のない凹凸で、切れ長の目には、それ自体が生き物ではないかと思うようなまつ毛が戦ぎ、伝説の宇宙戦艦アニメの主要女性キャラみたい。

 艦長席に収まって、進路の先を見つめている時など伯母様に匹敵する神性を感じる時がある……んだけど、今は別人。



「だって、ナガトは持っていきたいぞぉ(`へ´)」



 腕を組んだままホッペを膨らます。

 そうっと後ろから近寄って、両手でホッペを押したくなる。

 むかし、お母さんにやれれて『プ』って陽気な音がして、みんなで笑ったのを思い出した。

 西之島のメグミさんにならできる(身長もあまり変わらないし)けど、アルルカンさんにはできません。

 背が高いし、タイミングがむつかしいし。

「ナガトは225mもあるんすよ」

「224.95mだ。レプリカだから5000トンしかないしぃ」

「200mを超えるのはダメっす」

「曳航すればいいじゃないかぁ」

「プロキシマまで行くんすよ、レプリカの船は曳航に耐えられないっす。小さいので我慢してほしいっす」

「けち」

「ああ、もう、こういうことになると子どもなんすから、船長はぁ」

 ガチャ

 レトロなエフェクト音をさせて展望室のドアから船務長のアルミカンさんが入って来る。

「……この雰囲気は、まだ悩んでいるんですか、船長(^_^;)?」

「だって、ツナカンが、ナガトはダメだって意地悪を言うんだぞ」

「ああ……」

 ゲンナリという感じで手にしたバインダーを下ろしてしまうアルミカンさん。

「船長のオモチャ……」

「オモチャ!?」

「お持ちになる携帯品が決まれば出航なんです、そろそろお願いしますよぉ」

「だってぇ(๑> ₃ <)」

「よし、それじゃ、ココちゃんに決めてもらうっす!」

「え、わたしですか!?」

「ムググ……そうだな、ここはココちゃんに決めてもらうか」

「え、え、そんな、わたしなんかぁ(;'∀')」

「お願いするっす!」

「自分もです!」

「ええ……」

 振り返ると、胡蝶さんもサンパチさんも聞こえないふりをしている。

 主席さんは、傷が痛むと言ってキャビンに戻ってしまうし。



「えと……じゃあ……これでどうでしょう?」



 せっかくのプロキシマβへの出発なのだし、できるだけ穏やかに収めたかったので『松』という可愛い船を指さした。



「「え、松?」」

 ツナカン、アルミカンのお二人が気の抜けたようなリアクション。

「あ、あれは無いぞ、ココちゃん。松はナガトを買った時にオマケで付いてきた戦時急造艦だ、もともと撮影で悪役のやっつけられ役で払い下げられたスクラップ同然の艦で、日本でも雑木林シリーズって茶化されてたショーモナイ駆潜艇だぞ!」

「船長、あれなら、いっしょに引き取った『竹』と『梅』も残ってるから三つワンセットでOKですよ!」

「そうだ、松竹梅で縁起もいいっす! 船務長、これで決定!」

「おい、おまえら!」

 アルルカンさんの抗議は無視して、テキパキと出航準備が進められる。

「全乗員に告ぐ、松竹梅を収容の後、ただちに抜錨! 冥王星軌道を離脱、プロキシマβに向け最初のワープに入る!」

「かかれ!」

 グィーーン ブルンブルン ズゴゴォォォ

 ヒンメルのあちこちで起動音がして、たちまちのうちに松竹梅の三隻も収容して、ヒンメルは太陽系を後にした。



 ナガトぉーーーーーー!



 ワープ準備にかかる艦内にアルルカン船長の悲痛な叫び声が響き渡りました(^_^;)



☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 
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