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184『ツナカン偵察に出る』

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銀河太平記

184『ツナカン偵察に出る』ツナカン 




 シャケカン ツナカン オデンカン アルミカン

 なんかふざけたタックネームっすけど、宇宙海賊アルルカンの四天王っす。


 宇宙海賊船ヒンメルの乗員は全員がロボットっす。

 中には義体化した人間も混じってるかもっすけど、区別はないし詮索もしないっす。

 ロボット、義体人のいずれにしても、真っ新でヒンメルに乗り組んだ者はいないっす。

 あちこちの戦争や紛争で、致命的なダメージを受けて再生不能と判断されたロボットや義体人をサルベージして生き返らせてもらった者ばっかっす。

 船長のアルルカン自身、サルベージされて徹底的に改造されたロボットか義体人。

 でも、元がどんなであったか、なんだったかは、誰も知らないっす。

 

 あっしは、たぶんチンピラロボットだったっす。

 がさつだし、考えるの苦手だし、おっちょこちょいだし。

 でも、そんなあっしをアルルカンはヒンメルの副長にしてくれてるっす。

 あ、あっしなんて一人称使ってるっすけど、美少女型っす。自分では「あたし」と言ってるつもりなんすけど、船の誰に聞いても「『あっし』って言ってる」んだそうで、もう、開き直ってるっす。

 心子内親王殿下を拉致……いや、保護した時にサンパチってロボットがお供に付いていたんすけど、これがガチガチの侍言葉だったんで、いやあ、親近感感じて、嬉しかったっす(^▽^)。

「ええ、なんで、あっしが副長なんすかぁ!?」

 辞令もらった時はぶったまげたっす(;'∀')。

 あ、アルルカンは、ひとに役職に就かせるときは必ず紙の辞令をくれるっす。

 予定では、とっくに引き揚げて、地球からも火星からも気づかれないところにトンズラするはずだったっすけど、船長がマーク船長と戦場の視察に行って方針が変わったっす。

 カサギのアジトは予定通り閉鎖したけど、ヒンメルは火星の周回軌道にいるっす。



「ジャンケンして負けたやつが地上偵察な」



 副長の自分と砲雷長のシャケカン、それに船務長のアルミカンでジャンケンさせて、自分が残ったっす。

 通称ランドセルって個人用パルス機を背負って戦場の縁をなぞるように飛んでるっす。

 船長は「24時間以内に動きがある、おそらくは衛星軌道なんかにいては分からない動きだ、よく注意して見ていてくれ」と言ったっす。

 あ?

 扶桑からも、マス漢からも斥候が出ていたっすけど、深入りはしないっす。

 たぶん、兵たちの死に方っす。

 5人くらいが行儀よく並んで機能を停止していて、まるで大勢で昼寝をしてるみたいだからっす。

 パルスター弾のせいだと船長は言っていたっす。たしかに不気味。

 扶桑軍の方は、そういうマス漢の消極的な動きを警戒してるのと、戦場に満ちている腐敗臭のせいっす。



 チー チチチ チチチ



 何かが鳴いていると思ったらチーチェっす。

 百何十年か前の入植時代の頃、地球から持ち込んだ小動物型ロボットが野生化して砂漠に住み着いてしまったやつっす。

 自律していて、戦場跡や放棄された入植地からパーツや電子部品をかっぱらっては壊れた部分や仲間の修理をやるっす。最近では、かなり高度なパーツも作るようになって増殖する様子もあるとか。

 チーチェが出てくるのは不思議じゃないっす。こんなにたくさんの遺棄死体があるんだから、パーツや素材を狙いに来ても不思議ではないっす。

 ん?

 チーチェどもは、遺棄死体の関節部に集中してる様子。

 電子部品が集中している頭部や、燃料系が集まっている腹部には寄り付かない……それどころか、死体から部品や素材を取ってる様子が無いっす。

 自分も、あらかじめ船長から「衛星軌道なんかにいては分からない動きだ」と言われてたんで気が付いたっす。



 こいつら、逆に死体に何か埋め込んでやがるっす!



 念のため、チーチェを二匹掴まえてシュラフに詰めたっす。

 チーチー

 元々が愛玩ロボットなんで、見た目が可愛く、なんか小動物をイジメてるみたい(;'∀')。

 でも、心を鬼にして、掴まえるとすぐに動力系を切ってやるっす。

 ただの偵察ならここで帰るっすけど、これからが変化の本番という気がして岩陰の窪みに身を隠すっす。

 一時間ほど過ぎたころに異変が起こったっす!



 ザザ ザザザザ



 え? ええ(;゚Д゚)!?



 戦死者たちが、ゾンビみたいに動き始めたっす!!



☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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