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182『アジト閉鎖・1』

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銀河太平記

182『アジト閉鎖・1』アルルカン 




 カーーーーーーーーーーーーーーーン


 蹴り上げたオイル缶はカラとはいえ、100メートルの高さに舞い上がった。

 ピシュンピシュン ピシュピシュ ピシュピシュピシュピシューーン

 オイル缶は二つのパルス波によって100メートルの高さで踊らされ、三秒後にはほとんど蒸発したように消えてしまった。

 蒸発しきれなかった微細な破片がキラキラと宙に舞う。

 

 アルルカン:50  マーク:50  


 チェ!



 三度目のスコアが空中に浮かんで、二人の舌打ちが揃った。

「もうよそうぜ」

「なんだ、止めるのかぁ?」

「朝までやってもケリがつかん」

「言い出したのはマークの方だぞ」

「口やかましいボスがいたんじゃ、部下がやりにくいだろうが」

「まあいい、次の予定もあることだしな」

 ガチャガチャガチャ……空中のスコア票が古典的なエフェクトをさせながら、今日、88シュートの成績を表示する。

 88シュート全て50:50

 ガチャガチャガチャ……続いて、今までの99回分の成績を表示する。

 第一回の51:49を除いて、全て引き分け。

「いいのか、わたしの勝ち逃げになるぞ」

「続きはこんど会った時だ」

「フフ、そっちが生きていたらな」

「そっちこそな」

「…………」

「…………」

 ガラにも無く黙りこくって隠れ家に向かう。

 キュ キュ 

「やっぱり鳴き砂か?」

「ああ、ミナホの趣味でな」

 キュ キュ

「わざわざ入れ替えたのか?」

「いや、特殊なパルス波で処理すると、ここいらの砂は変質してこうなる。バルスの新案特許だ」

「ほほう、あの朴念仁がか」

「ふふ、いろいろあってな」

 面白そうなのでわけを聞こうと思ったら、副長のツナカンが気が付いて不満そうな声を上げる。



「ええ、もう帰ってきたんすかぁ!? まだバイクの整備終わってないっすよ!」



「かまわん、シャトルでいく」

「シャトルって、ステルスだけども光学迷彩じゃないからバレるっすよ」

「そんなヘマはせん」

「まさか、そのまま母船に拉致られるとかねえだろうなあ」

「ヒンメルは心子内親王殿下もお乗せするほど綺麗な船だ、ゴミは乗せん」

「ゴミか、オレは!?」

「あ、ゴミに失礼だったか?」

「この、くされ女海賊がぁ!」

「なにを! この宇宙ドブネズミがぁ!」

「ああ、もう仲がいいのは分ったっすから、さっさと済ませて戻って来てください。カサギの最終チェックもしなくちゃならないんすからぁ」

「ああ、そういうラブコメ風締めくくりはすんなぁ!」

「そーだそーだ!」

「ふん、いくぞマーク!」

「おお!」



 シュィーン



 図体のわりには、かそけき発進音でシャトルを起動させる。モードをアナログに切り替えると、立ち働く部下たちを尻目に、シャトルは地を這うように扶桑とマス漢の紛争地に向けて飛んだ。

 

☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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